弁護士 石田 優一
目次
第1章 ファッションデザインの模倣問題
第2章 意匠登録をしたファッションデザインの場合
1 対応のポイント
2 意匠権侵害はどのような場合に認められるか?
3 意匠権侵害の成否をどうやって検討すればよいか?
4 争い方1-警告書の送付
5 争い方2-差止め請求(仮処分の申立て)・損害賠償請求の訴え
第3章 意匠登録をしていないファッションデザインの場合
1 対応のポイント
2 形態模倣(不正競争防止法違反)はどのような場合に認められるか?
3 形態模倣(不正競争防止法違反)の成否をどうやって検討すればよいか?
4 争い方-警告書の送付・訴訟など
第4章 ファッションデザインの模倣を争いたいときは
第1章 ファッションデザインの模倣問題
衣服やバッグ、アクセサリーなどの商品を自社開発する企業にとって、ファッションデザインを守ることは死活問題です。仮に、他社からファッションデザインを模倣されて、安価に販売されれば、自社商品の売上げは大きく下落し、経営危機に瀕する事態になりかねません。
2024年には、ユニクロがショルダーバッグの模倣を理由にSHEINを提訴したことが話題になりました。このようなファッションデザインを巡る法的紛争は、後を絶ちません。
このコラムでは、意匠法と不正競争防止法の観点から、自社商品のファッションデザインを模倣されたときにどのように対応すべきかを解説します。
第2章 意匠登録をしたファッションデザインの場合
1 対応のポイント
意匠登録をしたファッションデザインの場合は、模倣商品のデザインと意匠登録をしたデザインとを比較しながら、意匠権侵害が成立するかどうかを検討します。
仮に、意匠権侵害が成立する見込みがある場合は、模倣商品を販売する企業に警告書を送付します。その企業が警告書を無視したり、こちらの求めに応じなかったりした場合は、販売行為の差止め請求や損害賠償請求の訴えを提起するとともに、(必要であれば)販売行為の停止を求める仮処分を申し立てます。
2 意匠権侵害はどのような場合に認められるか?
意匠法23条には、「意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する」と定められています。要するに、意匠登録をしたデザインと同一であるか、類似しているデザインを、同一・類似の商品に使用された場合、意匠権侵害を主張することができます。
意匠権侵害の成否を判断するうえで特に問題になるのが意匠登録をしたデザインと、相手の商品のデザインが、「類似」しているかどうかです。
2つのデザインが類似しているかどうかは、物品の性質・目的・使途・使用態様等を考慮し、一般的な購入者が注意を惹かれる部分を中心に検討します。一般的な購入者が注意を惹かれる部分に共通点が多ければ、たとえそれ以外の部分に相違があっても、類似していると判断されます。
3 意匠権侵害の成否をどうやって検討すればよいか?
意匠権侵害の成否を判断する際の第1ステップは、その商品において「一般的な購入者が注意を惹かれる部分はどこか?」を考えることです。例えば、バッグであれば、背面のデザインも重視するか、側面はどうか、バッグの中はどうか、といったことを検討します。
そのうえで、購入者が重視する部分のデザインのうち、一般的な購入者が何に注目するか(例えば、花柄の模様があしらわれている、表面に光沢がある、縫い目に特徴が見られるなど)を検討します。
そして、一般的な購入者が注目すると思われる箇所にデザインの共通点が多く、相違点がいずれも些細なものであれば、2つのデザインが類似していると判断されます。
検討の際には、そのジャンルの商品を愛用する年齢層・性別の方に、「商品を選ぶポイントはどの部分のデザインか?」「2つの商品のどこが似ていると思うか?」「2つの商品の中で異なるところは?」など、率直な意見を求めることも有益です。実際、当事務所で意匠権侵害訴訟のご依頼を承った際にも、女性スタッフの協力を得て、このような検証作業を行いました。
4 争い方1-警告書の送付
警告書には、販売の中止と在庫商品の廃棄、損害賠償(あるいは損害額の計算に必要な情報の開示)を求めます。
警告書には、こちらの求めに応じない場合には刑事告訴も検討している旨や、あらかじめ定めた期限までに誠実に対応しない場合には法的措置に移行する旨を明示すると有効です。
警告書には、意匠権侵害が成立すると考える理由を詳述することをおすすめします。それにより、相手に対し、訴訟移行した場合に敗訴するリスクを自覚させて、解決につなげやすくなるからです。
5 争い方2-差止め請求(仮処分の申立て)・損害賠償請求の訴え
相手が警告書を無視したり、こちらの求めに応じなかったりした場合は、販売行為の差止め請求や損害賠償請求の訴え(意匠権侵害訴訟)を提起するとともに、(必要であれば)販売行為の停止を求める仮処分を申し立てます。
差止め請求は認められるまでに期間を要しますので、一刻も早く販売行為を停止させたい場合は、仮処分の申立てを検討します。ただし、仮処分の申立ての場合、多額の担保金を用意する必要があり、その後の訴訟で敗訴した場合に相手から損害賠償責任を問われるおそれもあります。仮処分の申立ての要否については、迅速に販売行為を停止する必要性のほか、予算や勝訴見込みも踏まえて検討する必要があります。
意匠権侵害訴訟については、西日本であれば大阪地方裁判所、東日本であれば東京地方裁判所に提起することをおすすめします。なぜなら、これらの裁判所には知的財産の専門部があり、円滑な審理が期待できるからです。
意匠権侵害訴訟を進めるうえでは、知的財産訴訟に関する専門知識が不可欠ですので、弁護士への依頼(必要に応じて弁理士との連携)が望ましいです。
第3章 意匠登録をしていないファッションデザインの場合
1 対応のポイント
意匠登録をしていないファッションデザインの場合は、自社商品とデザインを比較しながら、不正競争防止法が禁止する「形態模倣」に該当するかどうかを検討します。
仮に、形態模倣に該当する見込みがある場合は、模倣商品を販売する企業に警告書を送付します。その企業が警告書を無視したり、こちらの求めに応じなかったりした場合は、販売行為の差止め請求や損害賠償請求の訴えを提起するとともに、(必要であれば)販売行為の停止を求める仮処分を申し立てます。
2 形態模倣(不正競争防止法違反)はどのような場合に認められるか?
不正競争防止法2条1項3号では、「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣」(形態模倣)した商品を販売する行為が禁止されています。そして、「模倣」とは、「他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう」(同条5項)と定義されています。
このうち問題になるのが、「実質的に同一の形態」といえるかどうかです。意匠権侵害の場合は、意匠登録されたデザインと同一でなくても、「類似」しているといえれば、侵害が成立しました。しかし、形態模倣の場合、「実質的に同一」であることが求められますので、ハードルが上がります。
自社商品と相手の商品とを比較して、商品全体の中で異なる箇所が些細なものにとどまり、商品の全体的形態に与える変化が乏しいかどうかがポイントになります。
なお、単なる色違いについては、「実質的に同一」であることを否定する事情にはなりにくいと考えられています。ファッション業界では色違い商品がシリーズで販売されるケースが多いことや、単に色を変えるだけのデザイン変更に労力・資金は要しないことが理由に挙げられます。
3 形態模倣(不正競争防止法違反)の成否をどうやって検討すればよいか?
形態模倣の成否を判断するためのステップは、意匠権侵害の成否の判断と似ています。ただし、形態模倣の場合、比較対象となる登録意匠がないことや、成立するための要件が厳しいことから、意匠権侵害の場合よりも綿密な検討が必要になります。
自社商品と相手の商品の特徴を綿密に比較して相違点を細かく精査し、その相違が商品全体の中で些細なものかどうかを吟味する必要があります。
意匠権侵害の場合と同様に、そのジャンルの商品を愛用する年齢層・性別の方に、「商品を選ぶポイントはどの部分のデザインか?」「2つの商品のどこが似ていると思うか?」「2つの商品の中で異なるところは?」など、率直な意見を求めることも有益です。
4 争い方-警告書の送付・訴訟など
警告書の送付、差止め請求(仮処分の申立て)・損害賠償請求の訴えといった争い方は、意匠登録をしているケースとおおむね同じです。
ただし、意匠登録をしていない場合、模倣が違法行為と認められるレベルが格段に上がりますので、警告書において詳細な理由付けを示すことや、訴状の内容を一層綿密に検討することが求められます。
西日本であれば大阪地方裁判所、東日本であれば東京地方裁判所に提起すべきこと、弁護士への依頼(必要に応じて弁理士との連携)が望ましいことは、意匠登録をしている場合と同様です。
第4章 ファッションデザインの模倣を争いたいときは
ファッションデザインの模倣について争いたい場合は、ぜひ当事務所までご相談ください。当事務所では、ファッションデザインの知的財産に関するご相談・紛争対応の経験を活かして、専門的なアドバイス・サポートを差し上げております。
初めてのご相談は無料(60分まで)です。お困りの際は、ぜひ当事務所までお問い合わせください。