コラム

ベンチャー企業におけるストックオプション活用の基礎知識

目次

1 ストップオプションとは?
2 ストックオプションの発行のためにどのような手続が必要か
(1) ストックオプションの設計
(2) 株主総会での募集事項の決定
(3) ストックオプションの付与を受けたい申込者の募集
(4) 割当契約書の作成
(5) 新株予約権を割り当てるための株主総会決議
(6) 新株予約権の割当て
(7) 登記手続
(8) まとめ
3 税制適格ストックオプションについて
(1) ストックオプションを付与された役員・従業員に課される所得税(税制適格ストックオプションでない場合)
(2) 税制適格ストックオプションが適用される場合
(3) 税制適格ストックオプションの要件
4 ベンチャー企業における顧問弁護士の重要性

事例

このコラムでは、ある非上場企業の事例をもとに、ベンチャー企業におけるストックオプションの活用方法をご紹介しています。

〔事例〕
株式会社MIRAIは、AI技術の開発を主な事業目的とする会社で、3名のエンジニアで設立し、それぞれ3分の1ずつの株式(譲渡制限あり)を保有しています。現在、設立時のメンバー3名が取締役に就任しており、取締役会は設置されていません。この度、新プロジェクトの立ち上げを機に、30名のエンジニアを従業員として新規採用することになりました。MIRAIは、5年以内の上場を目指しており、従業員のインセンティブ向上のために、全員にストックオプションを付与することを検討しています。

1 ストップオプションとは?

ストップオプションとは、株式会社の役員や従業員(あるいは子会社の関係者等)が、一定の条件をもとに自社の株式を購入することができる権利のことです。

ベンチャー企業の場合、創業間もない段階での株式価値は小さいですが、将来的に事業を拡大して上場を達成することで、株式価値が大きく上昇します。

事業が拡大する前の段階に、(上場後に株式を購入するよりも有利な条件で)株式を購入することができる権利を役員や従業員に付与することで、事業拡大に向けて全社的に取り組もうとするインセンティブが生まれます。

ベンチャー企業は、事業の拡大を達成するまでの間は高額な報酬や給与を役員や従業員に支払うことが難しいため、代わりにストックオプションを付与するケースがよくあります。

2 ストックオプションの発行のためにどのような手続が必要か

ストックオプションは、会社法の「新株予約権」という制度を利用して付与します。例えば、〔事例〕において、新株予約権の発行のために必要な手続は、次のとおりです。

なお、ストックオプションを発行する対象が50名以下であることや、自社の「使用人」に限定されていることから、金融商品取引法は適用されないことを前提にしています。

(1) ストックオプションの設計

まずは、ストックオプションの仕組みについて、検討しなければなりません。検討に際しては、税制適格ストックオプション(後述)に対応させるか、無償で発行するかどうか、株式を購入することができる条件をどのように設定するか、その他詳細な技術的事項等を決める必要があります。税制適格ストックオプションに対応させる際には、(公認会計士に依頼して)自社の株式の価値を適正に評価しておく必要もあります。

ストックオプションの設計は、専門の税理士や公認会計士と相談しながら進めることが一般的です。

(2) 株主総会での募集事項の決定

ストックオプションの設計が終わった後は、株主総会を開催して、(その設計どおりに)新株予約権の募集事項を決定しなければなりません。株主総会の招集について、取締役会が設置されている場合は取締役会の決議が必要ですが、〔事例〕のように、取締役会が設置されていない場合は各取締役が招集することができます(会社法298条1項)。

また、株主全員の同意があれば、株主総会の招集手続を省略することができ(会社法300条)、さらに、株主全員が書面で同意の意思表示を示すことで、株主総会の決議があったものとみなすことができます(会社法319条1項)。

〔事例〕のように、創業メンバーのみが株式を保有し、お互いの信頼関係が維持されているようなケースであれば、実際に株主総会を開催せずに、書面による同意のみで手続を進めることが多いと思います。

募集事項として決定しなければならないことは、おおむね次のとおりです。

・(発行する予定の)新株予約権の内容と数
・新株予約権を発行する際に金銭の払込みを要するかどうか(要する場合はその額等)
・新株予約権をいつ割り当てるか

さらに、新株予約権を役員に発行する際には、(既存の報酬枠の範囲にとどまる場合を除き)株主総会において役員報酬決議もあわせて行わなければなりません。新株予約権は、それ自体に経済的価値があるため、役員報酬の付与に該当するからです。

(3) ストックオプションの付与を受けたい申込者の募集

株主総会の決議(みなし決議)の後は、(付与の対象となる)役員・従業員に対して(株主総会で決定した)募集事項を通知し、ストックオプションの付与を受けたい従業員を募集します(会社法242条1項)。

ストックオプションの付与を受けたい従業員からは、「新株予約権申込証」等の提出を受けます(同条2項)。

(4) 割当契約書の作成

会社とストックオプションを付与する役員・従業員との間では、割当契約書を作成することが一般的です。特に、税制適格ストックオプション(後述)に対応させたい場合には、契約において所定の事項を定めておく必要があるため、割当契約書の作成が事実上必須となります。

割当契約書の作成については、弁護士に依頼することをおすすめします。

(5) 新株予約権を割り当てるための株主総会決議

〔事例〕のように、「募集新株予約権の目的である株式の全部又は一部が譲渡制限株式である場合」には、新株予約権の割当てのために株主総会決議が必要です(243条1項、2項)。

もっとも、(2)と同様、創業メンバーのみが株式を保有し、お互いの信頼関係が維持されているようなケースであれば、実際に株主総会を開催せずに、書面による同意のみで手続を進めることが多いと思います。

(6) 新株予約権の割当て

あらかじめ株主総会の募集事項で定めた割当日に、ストックオプションを付与します。ストックオプションを割り当てた後には、税理士と連携して、適切な会計処理を行う必要があります。

(7) 登記手続

新株予約権の発行が完了した後は、2週間以内に、新株予約権について一定の事項を登記しなければなりません。登記については、司法書士に依頼して行うことが一般的です。

(8) まとめ

ストックオプションの発行には、法律・会計・税務・登記の知識が必要なため、弁護士・公認会計士・税理士・司法書士との連携が求められます。

3 税制適格ストックオプションについて

(1) ストックオプションを付与された役員・従業員に課される所得税(税制適格ストックオプションでない場合)

役員・従業員に付与されるストックオプションは、譲渡が制限されていることが一般的です。このようなストックオプションは、株式を取得するタイミング(権利行使のタイミング)と、取得した株式を売却するタイミングで、所得税が課されます。

まず、株式を取得するタイミング(権利行使のタイミング)では、取得した株式の時価から、株式の取得のために払い込んだ金額を差し引いた額が、給与所得等として扱われます。

また、株式を売却するタイミングでは、売却時の株式の価格と、取得時の株式の価格との差額が、株式等の譲渡所得として扱われます。

株式を取得するタイミングでは現金を得ていないにもかかわらず、所得税を課せられてしまい、負担感につながってしまう点が、デメリットです。

(2) 税制適格ストックオプションが適用される場合

一方で、税制適格ストックオプションが適用される場合には、株式を取得するタイミングでは課税がなく、株式を売却するタイミングで、売却時の株式の価格から、株式の取得のために払い込んだ金額を差し引いた額が、株式等の譲渡所得として扱われます。

この場合は、株式の売却益から税金を支払うことができるため、負担感が解消されます。

税制適格ストックオプションが適用されるようにストックオプションを設計したほうが、その付与を受けた役員・従業員の負担感がなくなり、より高いインセンティブの効果を期待できるようになります。

(3) 税制適格ストックオプションの要件

税制適格ストックオプションの要件は、次のとおりです。株主総会の募集事項の決定や、割当契約書の作成に当たっては、この要件を満たすための検討が必要です。

(a) 株式を取得するタイミング(権利行使のタイミング)が、付与決議から2年経過した日以降、10年経過前であること
(b) 株式の取得のために払い込んだ金額(権利行使価額)の年間合計が、1200万円を超えないこと
(c) 株式の取得のために払い込まなければならない金額(権利行使価額)が、新株予約権の契約を締結した当時の1株当たりの価額以上であること(非上場株式の場合、公認会計士に依頼して、価額を算定する必要があります。)
(d) 新株予約権の譲渡が禁止されていること
(e) 株主総会決議に定める事項に反せずに株式が交付されたこと
(f) 会社と金融商品取引業者・金融機関との間で締結される株式の振替口座簿への記載・記録、保管の委託又は管理等信託の取決めに従い、株式の取得後、会社を通じて、振替口座簿への記載・記録、保管の委託又は管理等信託をすること

このうち、(a)(c)については、株主総会で決議する募集事項の中に盛り込んでおくことが一般的です。

(b)については、割当契約書において、株式の取得のために払い込んだ金額(権利行使価額)の年間合計が、1200万円を超えてはならないことを定めておくことが一般的です。

(d)については、株主総会で決議する募集事項において新株予約権の譲渡を制限する旨を定めておくほか、割当契約書においても新株予約権の譲渡を禁止しておくことが一般的です。

(e)(f)についても、それぞれに対応した規定を割当契約書に置くことが一般的です。

なお、税制適格ストックオプションは、付与決議日の時点において(非上場であれば)3分の1を超える株式を保有する株主やその親族等の関係者について、適用を受けられません。〔事例〕の場合には問題ありませんが、3分の1を超える株式を保有する役員等に税制適格ストックオプションを付与したいときは、株式の譲渡によって保有株式数を減らすことが必要になります。

4 ベンチャー企業における顧問弁護士の重要性

このコラムでは、ストックオプションをクローズアップしましたが、ベンチャー企業においては、展開しようとするビジネスの適法性に関するアドバイスをはじめ、様々な法的課題をサポートする弁護士の存在が不可欠です。

Web Lawyersにおいては、ベンチャー企業の法務を多方面からサポートする顧問プランをご用意しております。顧問プランに関するご案内(Zoomによるオンラインミーティング)は、弁護士が無料で対応しておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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