コラム

民事裁判IT化がビジネスにもたらす効果を弁護士が解説

弁護士 石田 優一

目次

第1章 はじめに
第2章 民事裁判IT化で何が変わる?
1 現在の民事訴訟法
2 民事訴訟法の改正
3 「遠方の裁判所にわざわざ出張」問題が解消される
第3章 ビジネスにもたらす効果
1 弁護士の出張費用がかからない
2 場所を選ばずに弁護士を探せるように
3 契約交渉がよりスムーズに
第4章 弁護士は全国から選ぶ時代に

第1章 はじめに

最近、「民事裁判IT化」が進められていることがニュースで取り上げられていますが、「弁護士以外には関係のない話」と思っていらっしゃる方が多いのではないかと思います。実は、「民事裁判IT化」は、ビジネスに大きな効果をもたらします。

今回のコラムでは、「民事裁判IT化」で一体何がどう変わっていくのか、そして、それがビジネスにどのような効果をもたらすのか、弁護士の視点から解説します。

第2章 民事裁判IT化で何が変わる?

1 現在の民事訴訟法

「民事裁判IT化」は、執筆時点(2023年2月)で完全には実現していないものの、段階的に進められています。最近は、争点を整理するための期日にWeb会議(Microsoft Teams)が導入され、活用が進んでいます。ただ、すべての手続においてWeb会議が利用できる状況にはなっていません。その理由は、民事訴訟法上の制約にあります。

現在の民事訴訟法は、当事者が裁判所に「出頭」、つまり、「出向くこと」が重視されています。

訴状を提出した後は、裁判所で開かれる第1回口頭弁論期日に出頭しなければならず、その後も、尋問が開かれる期日や、審理を終結(結審)するための期日について、裁判所への出頭が必要です。そのため、訴えて判決を得るまでに、原則として最低3回は裁判所に出向かなければなりません。
※厳密には、第1回期日が事実上省略されたり、尋問期日が開かれなかったりする例外はありますが、詳しい説明は割愛します。

裁判所が遠方の場合、裁判所に何度も出頭しなければならない手間が発生し、当事者にとって大きな負担になるケースが少なくありません。

2 民事訴訟法の改正

令和4年5月に、このような民事訴訟法の課題を解消する改正法が成立しました。その内容を簡単にご紹介します。

口頭弁論期日もWeb会議で

現在の民事訴訟法では、口頭弁論期日という公開の法廷で行わなければならない手続については、Web会議を利用することが認められていません。判決を出すためには、必ず口頭弁論期日を開かなければならないため、1度も当事者が裁判所に出向くことなく最後まで手続を進めることはできません。

ただ、口頭弁論期日は、尋問が開かれる期日を除いては、数分ほどで終了するケースがほとんどで、「何のためにわざわざ裁判所まで来たのだろう」と当事者が疑念を抱くほどに形式的な手続になっています。新幹線で片道数時間かけて来たのに、裁判所での滞在時間は5分か10分くらい、というケースも珍しくありません。

このような問題を解消するために、改正民事訴訟法では、次のような規定が新設されます。

改正民事訴訟法87条の2 裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、・・・裁判所及び当事者双方が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、口頭弁論の期日における手続を行うことができる。
2 ・・・省略・・・
3 前2項の期日に出頭しないでその手続に関与した当事者は、その期日に出頭したものとみなす。

これを受けて、裁判所は、出席者の所在場所が(プライバシーなどの観点から)適切かどうかを確認したうえで(改正民事訴訟規則30条の2)、口頭弁論期日についても、Web会議による出席を認めることができるようになります。

和解期日もWeb会議で

現在の民事訴訟法のもとでは、民事訴訟手続の中で和解をする場合、少なくとも当事者の一方が裁判所に出向くことが必要です。
※裁定和解など例外的な方法はありますが、詳しい説明は割愛します。

このような問題を解消するために、改正民事訴訟法では、次のような規定が新設されます。

改正民事訴訟法89条 ・・・
2 裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、・・・裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、和解の期日における手続を行うことができる。
3 前項の期日に出頭しないで同項の手続に関与した当事者は、その期日に出頭したものとみなす。
[4以下省略]

これを受けて、裁判所は、出席者の所在場所が(プライバシーなどの観点から)適切かどうかを確認したうえで(改正民事訴訟規則32条)、和解の期日についても、双方Web会議での出席を認めることができるようになります。

紙書類から電子データへ

これまで、裁判所での手続は、「紙」で訴状を提出し、郵便やFAXで書面を提出し、裁判所で作成される書類も「紙」と、とにかく「紙書類だらけ」でした。細かい説明は割愛しますが、今回の民事訴訟法改正で、これらの様々な書類について、電子データで取り扱うことが認められるようになります。

さらに、弁護士が民事訴訟手続を行う際などは、電子データとして書面を提出することが原則になります(改正民事訴訟法132条の11)。

証人尋問のための期日も一部見直し

現在の民事訴訟法でも、証人が遠隔地に居住する場合に、その証人がテレビ会議形式で尋問をすることが認められています(同法204条)。ただし、最高裁判所の制定する民事訴訟規則によって、このテレビ会議形式は、証人が近隣の裁判所に出向くことが要件となっています(同規則123条1項)。

証人の場合、尋問中にメモを見ながら話したり、周囲の人からジェスチャーで指示を受けながら話したりするおそれを防ぐために、裁判所に出向くことが要件とされています。

民事訴訟法改正で、証人が遠隔地に居住していなくても、当事者に異議がなければ、テレビ会議形式での尋問が認められることになりました(改正民事訴訟法204条3号)。ただし、執筆時点(2023年2月)において、証人が裁判所に出向かずに尋問に出席することができるような民事訴訟規則改正はされていません。

証人について、Web会議での出席を認めるかどうかは、残された課題となっています。

3 「遠方の裁判所にわざわざ出張」問題が解消される

今回の民事訴訟法改正によりもたらされる最大の効果は、「遠方の裁判所にわざわざ出張しなければならない」問題が解消されることです。このことが、ビジネスになぜプラス効果をもたらすのか、次章で説明します。

第3章 ビジネスにもたらす効果

1 弁護士の出張費用がかからない

これまで、訴訟事件の代理人を弁護士に依頼する際に負担となってきたのが、裁判所への出張費用です。弁護士の所在する事務所と、出頭しなければならない裁判所とが離れている場合、弁護士に出頭日当や交通費、場合によっては宿泊費まで支払わなければなりませんでした。

民事裁判IT化によって、このような出張費用を負担する必要がなくなり、費用を大きく節約することができます。

2 場所を選ばずに弁護士を探せるように

「遠方の裁判所にわざわざ出張しなければならない」問題は、弁護士にとってこれまで大きな負担となってきました。遠方での事件について依頼を受けようとしても、「管轄の裁判所が遠いために断念せざるを得ない」ケースが少なからずありました。

民事裁判IT化によって、このような問題が解消されることで、弁護士の側も、管轄の裁判所が遠い事件を躊躇なく受任することができるようになります。 これは、ご依頼者の側から見れば、「選ぶことのできる弁護士が増える」効果をもたらします。「この弁護士に依頼したいが、遠方の事務所だから受けてもらえないかな」という不安を感じることなく、全国の弁護士の中から本当に依頼したい弁護士を探すことができるようになります。

3 契約交渉がよりスムーズに

ほとんどの契約書では、「もしこの契約で揉めてしまったらどこの裁判所で争うか」という(第一審の)合意管轄裁判所が定められます。取引先が遠方に所在する場合、合意管轄裁判所をどちらに近いところにするかが交渉上の1つのポイントになることが少なくありません。

民事裁判IT化によって、合意管轄裁判所がどちらに近いとしても双方の負担があまりなくなるため、交渉上重視する必要性があまりなくなります。ビジネスの交渉において重要なのは、譲れない点をできる限りしぼることです。合意管轄裁判所をポイントから外せるようになれば、交渉がよりスムーズになります。

第4章 弁護士は全国から選ぶ時代に

これまで、「弁護士は近くで探す」が、多くの企業において常識となっていました。たしかに、「遠方の裁判所にわざわざ出張しなければならない」問題が解消されない限りは、このような考え方も一理あります。

ただ、民事裁判IT化によって、「遠方の裁判所にわざわざ出張しなければならない」問題が解消されれば、もはや、「弁護士は近くで探す」必要性が乏しいのではないかと思います。

むしろ、自社で起きている紛争やビジネスモデルについて専門的な知見を持ち、相性のよい弁護士を「全国単位」で探すほうが、メリットは大きいように思います。

Web Lawyersは、このような時代の流れに着目し、他事務所に先駆けて、「オンライン法律相談」サービスを展開して参りました。また、スタートアップ段階やフリーランスの方でも気軽に始められる1万円(税別)顧問プラン(ライト顧問プラン)や、オンラインサービスのスタートを応援する「DXスタートアップ法務サービスパック」など、様々なビジネスのニーズに対応するためのプランを提案して参りました。

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