コラム

AI活用推進法から読み解く近未来のベンチャービジネス

コラムの概要

AI活用推進法の施行でベンチャービジネスはどう変わるのか?読み解いてみました。起業家の方にとっては大きなビジネスチャンスにつながる第1歩かもしれません。詳しくはこちらのコラムをお読みください。

目次

1 AI活用推進法が施行へ
2 AI活用推進法の概要
(1)AI活用推進法の目的(第1条)
(2)基本理念(第3条)
(3)国の責務(第4条)
(4)地方公共団体の責務(第5条)
(5)AI研究開発機関の責務(第6条)
(6)活用事業者の責務(第7条)
(7)国民の責務(第8条)
(8)連携の強化(第9条)
(9)法制上の措置(第10条)
(10)研究開発の推進(第11条)
(11)施設・設備等の整備及び共用の促進(第12条)
(12)適法性の確保(第13条)
(13)人材の確保(第14条)
(14)教育の振興(第15条)
(15)調査研究(第16条)
(16)国際協力(第17条)
(17)人工知能基本計画・人工知能戦略本部(第18条・第19条)
3 AI活用推進法でビジネスはどう変わる?
(1)AIの開発・導入をサポートする補助金制度の創設
(2)官民連携のもとでのデータ連携プラットフォームの構築
(3)AI人材の専門家に関する国家資格の創設
(4)AI開発に特化した大学発ベンチャーの増加
(5)AI・ビッグデータに関する知財制度の創設
4 AIベンチャーの法律相談のことなら

1 AI活用推進法が施行へ

2025年6月4日に、AI活用推進法(正式名称「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」)が公布・一部施行されました。2025年9月までに人工知能戦略本部が内閣に設置され、その後、人工知能基本計画が策定される予定です。

AI活用推進法は、AI利活用のための政策を進めるための方向性を定めたもので、この法律自体に具体的な内容が示されているわけではありません。ただ、これまで内閣府の「AI戦略会議」で進められてきた議論と相まって読み解くことで、日本の近未来が見えてきます。

このコラムでは、AI活用推進法の概要をご紹介したうえで、筆者の視点で日本の近未来予想をしてみたいと思います。

2 AI活用推進法の概要

まずは、AI活用推進法の概要について、ご説明します。

(1)AI活用推進法の目的(第1条)

AI活用推進法は、AI(人工知能関連技術)の研究開発・活用の推進に関する施策の総合的・計画的な推進を図り、もって国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的としています。

AIの研究開発・活用について、関係機関が「共同歩調」を取りながら計画的に推し進めることが、AI活用推進法の目的です。

(2)基本理念(第3条)

AI活用推進法には、AIの研究開発・活用の推進について、次のような基本理念が掲げられています。

ア) AI研究開発能力の保持・国際競争力の向上

第1に、AIが、官民の事務・活動の効率化・高度化、そして、経済社会の発展や安全保障の観点から重要な技術であることを踏まえて、AI研究開発能力の保持と国際競争力の向上を旨とすることが、基本理念として掲げられています。

イ) 基礎研究から実用までの各プロセスにおける取組みの総合的・計画的推進

基礎研究から実用までの各プロセスでの取組みが相互に密接な関連を有することを踏まえて、総合的・計画的な取組みの推進を旨とすることが、基本理念として掲げられています。

ウ) 透明性の確保その他の必要な施策

AIが犯罪利用・個人情報漏えい・著作権侵害等を助長するリスクを有していることを踏まえて、透明性の確保その他の必要な施策を講じることが、基本理念として掲げられています。

エ) AIの研究開発・活用に関する国際協力

国際的強調のもとで、AIの研究開発・活用に関する国際協力において主導的役割を果たすように努めることが、基本理念として掲げられています。

(3)国の責務(第4条)

AIの研究開発・活用の推進に関する施策を、総合的・計画的に策定・実施する責務が定められています。また、行政事務の効率化・高度化のために、行政機関においてAIの積極的活用を進めることが定められています。

(4)地方公共団体の責務(第5条)

地方公共団体については、国との適切な役割分担のもとで、地域性を活かした自主的な施策を策定・実施する責務があります。

(5)AI研究開発機関の責務(第6条)

大学その他のAI研究開発機関については、AIの研究開発やその成果の普及、AI人材の育成、国・地方公共団体の施策への協力が、努力義務とされています。

(6)活用事業者の責務(第7条)

AIを活用した製品・サービスの開発・提供をしようとする事業者や、その他のAIを事業活動で利用しようとする事業者については、積極的なAIの活用によって事業活動の効率化・高度化や新産業の創出に努めることや、国・地方公共団体の施策に協力することが、義務づけられています。

(7)国民の責務(第8条)

AIに関する理解・関心を深めることや、国・地方公共団体の施策に協力することが、努力義務とされています。

(8)連携の強化(第9条)

国は、国・地方公共団体・研究開発機関・活用事業者の間の連携強化に必要な施策を講じるものとされています。

(9)法制上の措置(第10条)

国は、AIの研究開発・活用の推進に関する施策を実施するために必要な法制上・財政上の措置を講ずるものとされています。

(10)研究開発の推進(第11条)

国は、AIの基礎研究から実用化までの一貫した研究開発の推進、研究開発機関における研究開発の成果の移転のための体制整備、研究開発の成果に係る情報の提供その他の施策を講ずるものとされています。

(11)施設・設備等の整備及び共用の促進(第12条)

国は、AIの研究開発・活用に当たって必要なデータセンター・データセットその他の知的基盤を研究開発機関・活用事業者が広く利用できるように、これらの知的基盤の整備・共用の促進のために必要な施策を講ずるものとされています。

(12)適法性の確保(第13条)

国は、AIの研究開発・活用の適正な実施を図るために、国際的な規範の趣旨に即した指針の整備等の施策を講ずるものとされています。

(13)人材の確保(第14条)

国は、地方公共団体・研究開発機関・活用事業者と緊密な連携強化を図りながら、AIの基礎研究から実用までの各段階で必要な専門的・幅広い知識を有する多様な人材の確保・養成・資質向上に必要な施策を講ずるものとされています。

(14)教育の振興(第15条)

国は、国民が広くAIへの理解・関心を深められるように、AI教育の振興、広報活動の充実等の施策を講ずるものとされています。

(15)調査研究(第16条)

国は、国内外のAIの研究開発・活用の動向に関する情報の収集、不正な目的、不適切な方法によるAIの研究開発・活用に伴って国民の権利利益の侵害が生じた事案の分析・対策の検討その他のAIの研究開発・活用の推進に資する調査・研究を行い、その結果に基づいた研究開発機関・活用事業者等への指導・助言・情報提供等を行うものとされています。

(16)国際協力(第17条)

国は、AIの研究開発・活用に関する国際協力を推進し、国際的な規範の策定に積極的に参画するものとされています。

(17)人工知能基本計画・人工知能戦略本部(第18条・第19条)

内閣に、内閣総理大臣を中心とする内閣官房長官・国務大臣で構成される人工知能戦略本部(AI戦略本部)が置かれ、人工知能基本計画を企画・立案します。

3 AI活用推進法でビジネスはどう変わる?

さて、ここからは、AI活用推進法が今後の日本のビジネスにどのような効果をもたらしうるか、近未来を予想してみましょう。

(1)AIの開発・導入をサポートする補助金制度の拡充

AI活用推進法では、AIの研究開発・活用を国が総合的・計画的に推進し(第4条)、そのために必要な財政上の措置を講じること(第10条)が掲げられています。そして、AIを活用した製品・サービスを開発・提供する事業者や、AIを事業活動で利用する事業者に対しては、AI活用によって事業活動の効率化・高度化を図ったり、新産業の創出に努めるように求めています(第7条)。

今後、これらの規定に従って、AIの開発・導入をサポートする補助金制度が創設されることが予想されます。執筆時点では、関係する補助金として、中小企業新事業進出促進補助金や中小企業省力化投資補助金、ものづくり補助金などがありますが、いずれも、AIの開発・導入に特化した補助金ではありません。

AI活用推進法の施行後は、例えば、次のような補助金が創設されたり、既存の関連補助金が拡充されたりすることが予想されます。

ア AI開発に関連した補助金

例えば、業務効率化を提案するAIや、新サービスを実現するAIの開発費用に充てられる補助金制度が創設されることが予想されます。AI開発には多額のコストを要するケースが多いため、このような補助金制度の創設は、AIベンチャー・スタートアップ企業の救世主となることが期待されます。

イ AI導入に関連した補助金

例えば、社内の業務効率化につながるAIを導入する際などに活用できる補助金制度が創設されることが予想されます。 AIがビジネスの現場においてより身近なものになることが期待されます。

(2)官民連携のもとでのデータ連携プラットフォームの構築

2025年5月に、政府は、ビッグデータの利活用促進に向けた基本方針案を明らかにしています。それによれば、重要分野のデータについて政府が標準規格を策定し、データ連携プラットフォームを構築していくことが表明されています。

AI活用推進法には、国が、AIの研究開発・活用に当たって知的基盤を整備することが掲げられています(第11条)。また、AI活用推進法は、地方公共団体やAI研究開発機関、AIを活用する事業者に対して、国の施策に協力することを求め(第5条から第7条まで)、これらの連携強化に必要な施策を国が講じていくことを掲げています(第9条)。

AI活用推進法の諸規定を踏まえれば、今後、政府は、ヘルスケア・教育・介護・交通など様々な分野で、官民連携のもとでの大規模なデータ連携プラットフォームを構築していくことが予想されます。現行制度のもとでは、データ連携プラットフォームの構築において、個人情報保護法の様々な規制が障壁になっているケースがありますが、並行して法制度の見直しも進められることが予想されます。

AIベンチャー・スタートアップ企業にとっては、データ連携プラットフォームを利用して、少ない初期投資でAIを利用した新サービスを開発できるようになり、大きなビジネスチャンスが生まれることを期待することができます。

(3)AI人材の専門家に関する国家資格の創設

AI活用推進法には、AIの基礎研究から実用までの各段階で必要な専門的・幅広い知識を有する多様な人材の確保・養成(第14条)や、AI教育の振興(第15条)が掲げられています。

今後、政府は、AI人材の専門家を育成するために、国家資格を創設することが予想されます。

現在でも、AIに関連した民間資格は存在しますが、国家資格はありません。これまでも、民間資格が社会のニーズに合わせて国家資格化したケースは複数ありますので、AIについても、同様の方向性に進んでいくことは十分に想定できます。

AIの専門知識を有する起業家の方が、国家資格受験生を対象にしたオンライン塾やコンテンツ配信サービスをリリースして、大きなビジネスチャンスを獲得することができるかもしれません。

(4)AI開発に特化した大学発ベンチャーの増加

AI活用推進法には、大学などの研究開発機関に対して成果の普及に努めること(第6条)を義務づけ、国が研究開発機関と事業者との連携強化に必要な施策を講じる(第9条)ものとされています。

このような方向性から、今後、AI開発を専門にした大学発ベンチャーが大きく成長することが期待されます。大学で専門的なAI研究に関わってきた学生の方が、大学の協力を得ながらベンチャー企業を立ち上げ、産学連携でAIの発展に寄与することが期待されます。

(5)AI・ビッグデータに関する新たな知財制度の創設

AI活用推進法には、AIの研究開発・活用の推進に関する施策を実施するために必要な法制上の措置を講じることが掲げられています(第10条)。また、基本理念として、AI研究開発能力の保持と国際競争力の向上が掲げられています(第3条)。

昨今、AI・ビッグデータに関して、知財制度を整備していくことが世界各国の課題になっていることを踏まえれば、AI・ビッグデータの保護に関する新たな知財制度の創設について議論が加速していくことが予想されます。

現在も、新たなAI技術が特許法で保護されたり、ビッグデータが不正競争防止法で保護されたり、知財分野での保護が進んではいますが、AI・ビッグデータに特化した知財法制が実現するには至っていません。

今後は、このような知財法制が整備され、AIの開発を専門とするベンチャー企業にとって、大きなビジネスチャンスにつながる制度改正がなされることも期待できます。

4 おわりに

AI活用推進法は、今後の政策的な「舵取り」を定めたものにすぎません。AIベンチャー・スタートアップ企業が大切なビジネスチャンスに遅れを取らないためには、今後内閣が発表する「人工知能基本計画」や、関連法制に着目して、今後の動きをキャッチしておく必要があります

当事務所では、AIベンチャーのスタートアップ法務や、AIサービスの利用規約・使用許諾契約書・プライバシーポリシーや、データ利用契約書の作成等、AI法務に関する様々なリーガルサービスをご提供しています。

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