コラム

ECサイト運営者のための景品表示法のポイント1-不当表示編

弁護士 石田 優一

目次

第1章 はじめに
第2章 不当表示規制の基礎知識
1 景品表示法第5条
2 不当表示規制に違反した場合の制裁
3 措置命令や課徴金納付命令を受けないために
第3章 優良誤認表示が問題になるケース
1 X社は景品表示法違反に問われるか
2 優良誤認表示について
3 打消し表示について
4 表示主体性について
第4章 有利誤認表示
1 X社は景品表示法違反に問われるか
2 有利誤認表示について
3 価格についての有利誤認表示
4 価格以外の取引条件についての有利誤認表示
第5章 おとり広告
第6章 おわりに

第1章 はじめに

2022年11月、“「麦みそ」は景品表示法に違反するか”という問題が物議を醸しました。事の発端は、「麦みそ」という名称が、「みそ」の表示基準である「大豆を蒸煮した」の要件を満たしていないにもかかわらず、「みそ」と表示するものであるとして、愛媛県が景品表示法違反の可能性を指摘したことにありました。結論としては、愛媛県が指摘を撤回し、「麦みそ」の名称を使用することは景品表示法に違反しないとの見解を示したことで事態は収束しましたが、景品表示法がいかに“身近なビジネスにかかわりうる法律”であるかを考えるきっかけになりました。

最近の景品表示法違反の事例では、回転ずしの運営会社がおとり広告を理由に措置命令を受けたことや、洗濯用グッズを販売していた会社が優良誤認表示により課徴金納付命令を受けたことが報道されました。統計的には、毎年数十件の事例で景品表示法違反に基づく措置命令がされています。

B to CのECサイトを運営するうえで、景品表示法の知識は欠かせません。景品表示法に違反すれば、法的な制裁を受ける可能性があるだけではなく、報道などによって社会的信用を失ってしまうおそれもあります。

今回のコラムでは、景品表示法で規制される不当表示をテーマに、ECサイトの運営者が押さえておくべき知識を解説します。

第2章 不当表示規制の基礎知識

1 景品表示法第5条

(不当な表示の禁止)
第5条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
三 前2号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの

景品表示法第5条は、大きく3つの類型の不当表示を禁止しています。

(1) 優良誤認表示(1号)

商品やサービスの内容について、一般消費者に対し、実際よりも著しく優良であることや、事実に反して同種・類似の商品やサービスを提供する他事業者のものよりも著しく優良であることを示した表示のことをいいます。このような表示のうち、「不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害する」ものが、規制の対象です。

例えば、実際にはそのような効果が全くないにもかかわらず、「この空気清浄機を1台置いておけばウイルスをすべて撃退します」といった表示をすれば、優良誤認表示に該当します。

一般消費者は、本来、様々な商品やサービスの中から自分が一番欲しいと思うものを選びます。しかし、事業者が優良誤認表示をすると、その内容を信頼して、本来自分が欲しいものとは異なる商品やサービスを選んでしまいます。このような不当な手段から一般消費者を保護するために、優良誤認表示を禁止しています。

(2) 有利誤認表示(2号)

商品やサービスの価格などの取引条件について、実際のものよりも著しく有利であることや、事実に反して同種・類似の商品やサービスを提供する他事業者のものよりも著しく有利であることを示した表示のことをいいます。このような表示のうち、「不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害する」ものが、規制の対象です。

例えば、実際には基本料金1万円のほかにオプション料金10万円を支払わなければサービスを利用することができないにもかかわらず、「基本料金1万円でご利用いただけます」と表示してオプション料金のことを表示しなければ、有利誤認表示に該当します。

一般消費者は、本来、様々な商品やサービスの中から価格などの取引条件がよいと思うものを選びます。しかし、事業者が有利誤認表示をすると、その内容を信頼して、本来自分がよいと思う条件とは異なる条件の商品やサービスを選んでしまいます。このような不当な手段から一般消費者を保護するために、有利誤認表示を禁止しています。

(3) その他の不当表示(3号)

優良誤認表示や有利誤認表示のほか、商品やサービスの取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示で、「不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」が、規制の対象です。

内閣総理大臣が告示によって指定するもののうち、一般にECサイトにかかわるものは、次のとおりです。

・商品の原産国に関する不当な表示
・無果汁の清涼飲料水等についての表示
・おとり広告に関する表示

このコラムでは、おとり広告に関する表示の規制について取り上げます。

2 不当表示規制に違反した場合の制裁

不当表示は、消費者庁長官(内閣総理大臣から委任されています。)による措置命令(法7条)や課徴金納付命令(法8条)の対象になります。また、措置命令については、不当表示がされた地域の都道府県知事が行うこともできます(法33条11項、施行令23条)。

その他、不当表示の事実は認められるものの、課徴金納付命令の対象ではなく、措置命令の必要性もないと判断された場合に、行政指導を受けることもあります。

※消費者庁サイト「景品表示法違反行為を行った場合はどうなるのでしょうか?」より引用

(1) 措置命令

措置命令においては、不当表示の事実を周知すべきことや、再発防止策を講ずべきこと、以後は不当表示をしないことなどが命じられます。措置命令の概要は、消費者庁のサイトでも公表されます。

措置命令に違反すると、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金(あるいはその両方)に課せられます(法36条)。

措置命令の前には、弁明書やその他の証拠を提出する機会が与えられます(行政手続法13条1項2号)。事業者としては、措置命令を受けないために、不当表示に該当しないことを主張し、できる限り具体的な証拠を提出する必要があります。

特に、優良誤認表示については、優良誤認表示に該当しないことを裏付ける合理的な根拠を示す資料の提出を求められ、その資料を提出することができなければ、不当表示とみなされます(法7条2項)。

(2) 課徴金納付命令

優良誤認表示と有利誤認表示については、措置命令だけではなく、課徴金納付命令の対象にもなります。課徴金納付命令は、措置命令とは異なり、要件を満たす場合には必ず課せられます(法8条1項)。その代わりに、措置命令とは異なって、一定の悪質な行為に対象が限定されています。

課徴金は、不当表示によって課徴金対象期間に販売した商品・サービスの売上額の3%を課せられます。課徴金対象期間は、不当表示による販売をしていた期間及びその後の一定期間のことをいい、3年間が上限とされます。

例外的に、(a)課徴金の額が150万円未満となる場合や、(b)優良誤認表示と有利誤認表示に該当することを知らず、過失もなかった場合には、課徴金納付命令の対象外とされます。

優良誤認表示については、優良誤認表示に該当しないことを裏付ける合理的な根拠を示す資料の提出を求められ、その資料を提出することができなければ、不当表示であるとの推定を受けます(法8条3項)。

3 措置命令や課徴金納付命令を受けないために

事業者としては、不当表示について正確に理解したうえで、不当表示であることが疑われる表示を行わないように留意することが何よりも重要です。また、商品やサービスの内容が優れていることを表示する際は、その根拠となる資料をあらかじめ調査して、保存しておくことも必要です。

また、不当表示に該当する行為をしていることが明らかになった場合には、直ちにその表示を中止するのはもちろんのこと、必要に応じて公表や謝罪などを検討することも必要です。

さらに、不当表示に明らかに該当する行為を長期間継続してしまい、課徴金納付命令の対象となることを免れないのであれば、消費者庁への自主報告も検討する必要があります。消費者庁の調査などを受ける前の段階で、自主報告をした場合には、課徴金の2分の1が減額されます(法9条)。自主報告の方法については、消費者庁サイトの「景品表示法に関する情報提供・相談の受付窓口」ページの中に説明があります。

第3章 優良誤認表示が問題になるケース

【ケース1】
X社は、文房具を専門に取り扱うECサイト「ぶんぐや」を運営しています。「ぶんぐや」で取り扱う商品の中に、「服に付いても水で落とせるクレヨン」というタイトルのものがありました。このクレヨンのパッケージには、「お子様の服に間違ってクレヨンが付いてしまっても水で洗えばすぐに落ちます!」と大きく書かれていました。また、パッケージの下のほうに、小さい文字で、「※服の素材によっては色が落ちにくいこともあります。」という注意書きがされていました。
「ぶんぐや」の商品紹介ページでは、パッケージの写真が大きく画像表示され、商品説明欄には、「お子様の服に間違ってクレヨンが付いてしまっても水で洗えばすぐに落ちます!」という内容が記載されていました。
ところが、このクレヨンは、ポリエステルを主な素材とする衣服であれば水で洗い流せるものの、それ以外の素材の衣服では、ほとんど水で落ちないことが明らかになりました。

1 X社は景品表示法違反に問われるか

まず、「お子様の服に間違ってクレヨンが付いてしまっても水で洗えばすぐに落ちます!」という表示が、優良誤認表示に該当するかが問題になります。その検討に当たっては、「※服の素材によっては色が落ちにくいこともあります。」が打消し表示に該当するかも検討しなければなりません。

また、景品表示法違反を問われる事業者は、不当表示の内容の決定に関与した事業者に限られるものとされています(表示主体性)ので、X社が不当表示の内容の決定に関与したといえるかどうかが問題になります。なぜなら、X社は、あくまでも、クレヨンのメーカーが表示していた表記を、そのままの内容でECサイト上に表示したにすぎないからです。

2 優良誤認表示について

(1) 優良誤認表示の定義

商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

優良誤認表示の定義を分解すると、次のとおり整理することができます。

(a) 商品又は役務の品質、規格その他の内容についての表示であること
(b) 次のいずれかに該当する表示であること
・一般消費者に対し、実際のものよりも“著しく優良であると示す表示”
・事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも“著しく優良であると示す表示”
(c) 不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあること

このうち、(c)については、(a)(b)の要件が満たされれば通常認められると考えられていますので、(a)(b)の要件を満たすかどうかを検討すれば足ります。

(2) 商品又は役務の品質、規格その他の内容についての表示

「商品又は役務の品質、規格その他の内容」の範囲は広く、原材料や性能などの品質や、特定の基準への適合性、原産地、製造方法、さらには、他者からの評価(顧客満足度やレビュー)なども含まれると考えられています。

【ケース1】における「お子様の服に間違ってクレヨンが付いてしまっても水で洗えばすぐに落ちます!」は、商品の品質を表示するものといえます。

(3) 著しく優良であると示す表示

「著しく」とは、社会一般に許容される誇張の程度を超えて、一般消費者の商品やサービスの選択に影響を与えることをいいます。広告において多少の誇張表現を使用することは一般にありますので、景品表示法違反に該当する不当表示は、そのような程度を超えたものに限定されています。

【ケース1】について、実際にはポリエステル以外の素材の衣服ではほとんど水で落ちないにもかかわらず、「お子様の服に間違ってクレヨンが付いてしまっても水で洗えばすぐに落ちます!」と表示することは、一般消費者に(実際の品質を知っていれば購入しない人が相当数いるものと考えられる程度に)商品選択への大きな影響を及ぼすもので、社会一般に許容される誇張の程度を超えているものと考えられるため、「著しく優良であると示す表示」であると考えられます。

3 打消し表示について

【ケース1】において、X社は、「※服の素材によっては色が落ちにくいこともあります。」という注意書きをすることで、著しく優良であるとの誤認が生じないように配慮していることを理由に、優良誤認表示には該当しないと反論することが考えられます。

商品やサービスの品質などについて“強調表示”(断定的な表現や目立つ表現を使用した表示)をした場合に、一般消費者がその表示から認識することができない例外的な条件がある場合にその旨を表示することを、“打消し表示”といいます。“強調表示”と“打消し表示”の双方から、一般消費者が商品やサービスの品質などについて誤った認識をしないものといえるのであれば、優良誤認表示に該当しないものと考えられます。

“打消し表示”は、一般消費者がきちんと認識することができるものでなければなりません。例えば、“強調表示”に対して“打消し表示”が目立たない表示方法であったり、一般消費者が商品やサービスの品質などを正確に認識することができない内容であったりした場合は、たとえ“打消し表示”があったとしても、優良誤認表示の該当性は否定されません。

特に、スマートフォンにおいては、閲覧者が目立つ表示にばかり視線を向けやすい傾向にあるため、“打消し表示”に目立つ表示方法を採用することが求められます。最近は、インターネットの利用においてスマートフォンを利用する人がかなり増えていますので、“打消し表示”のデザインには十分に留意する必要があります。なお、“打消し表示”についての詳細は、「強調表示と打消し表示に関する景品表示法上の考え方」(別冊NBL、No.169)において取り上げられています。

【ケース1】における「※服の素材によっては色が落ちにくいこともあります。」という表示は、“打消し表示”に該当しうるものではありますが、具体的にどのような素材で落ちにくいかが不明瞭なうえ、落ちにくい素材が例外的なものであるかのように表示されています。ただ、実際は、多くの素材で水に落としにくいことから、実態を正確に反映した“打消し表示”とはいえません。また、「お子様の服に間違ってクレヨンが付いてしまっても水で洗えばすぐに落ちます!」という表示と比較して目立ちにくいサイズで表示されている点も、問題があります。

【ケース1】であれば、“打消し表示”において特定の素材でしか十分な効果を発揮しない旨を明示するとともに、その表示方法についても目立ちやすい工夫が必要であると考えられます。

4 表示主体性について

ECサイトの場合は、取り扱う商品に(メーカーの問題によって)優良誤認表示が含まれており、その内容を踏まえて商品紹介をした結果、ECサイト運営者が優良誤認表示に関与してしまうケースがあります。このような場合に、ECサイト運営者に表示主体性があるものと評価されるのでしょうか。

ECサイト上で商品を販売する際は、必然的に、その商品のパッケージ画像を表示したり、商品の概要を紹介する文章を表示したり、その商品についての表示に関与することになります。

ECサイト上での商品の販売は、単に店頭に商品を陳列するケースとは異なり、より積極的に商品についての表示に関与することになりますので、表示主体性が認められやすいものと考えられます。

それを踏まえ、ECサイト事業者としては、新しい商品を取り扱う際に、その商品説明やパッケージに優良誤認表示が疑われるものがないか積極的に確認し、その疑いがある場合は、仕入元に問い合わせるような対応が求められます。

第4章 有利誤認表示

【ケース3】
X社は、ECサイトで家電製品を販売しています。
(1) エアコンの販売を5月1日から開始し、同月20日から、「通常価格10万円のところ、今だけ特別価格7万円でご奉仕!」という表示をしています。
(2) 最新機種のテレビの販売を9月1日に開始し、「新発売!2か月限定にて特別価格でご奉仕!」という表示をしました。ただ、実際には、11月から値上げをするかどうかは社内で明確に決まっておらず、売上げ状況を見て10月末に決定することになっていました。
(3) 「5年間保証サービスを無料でつけられます!」と表示していましたが、無料で付帯することができる保証サービスは初期不良によるものに限定され、それ以外の故障について保証サービスを受けるためには年会費を支払う必要があります。

1 X社は景品表示法違反に問われるか

(1)(2)については、価格について一般消費者に誤認を生じさせうるものです。また、(3)については、保証サービスの利用条件について一般消費者に誤認を生じさせうるものです。それぞれ、景品表示法で禁止される有利誤認表示に該当しないかが問題になります。

2 有利誤認表示について

(1) 有利誤認表示の定義

商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

有利誤認表示の定義を分解すると、次のとおり整理することができます。

(a) 商品又は役務の価格その他の取引条件についての表示であること
(b) 実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に“著しく有利”であると一般消費者に誤認される表示であること
(c) 不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあること

このうち、(c)については、(a)(b)の要件が満たされれば通常認められると考えられていますので、(a)(b)の要件を満たすかどうかを検討すれば足ります。

(2) 商品又は役務の価格その他の取引条件についての表示

商品・サービスの価格・料金のほか、数量や、購入・利用時に受け取れる景品、アフターサービス、付帯するオプションなどが、幅広く「商品又は役務の価格その他の取引条件」に含まれます。

商品・サービスの価格・料金については、その金額自体のほか、割引率や、安価に設定した理由・程度についても含まれます。

商品・サービスの数量については、商品であれば個数や内容量などサービスであれば利用可能回数や利用可能時間などが含まれます。

(3) 著しく有利であると一般消費者に誤認させる表示

「著しく」とは、社会一般に許容される誇張の程度を超えて、一般消費者の商品やサービスの選択に影響を与えることをいいます。広告において多少の誇張表現を使用することは一般にありますので、景品表示法違反に該当する不当表示は、そのような程度を超えたものに限定されています。

たとえ価格などの取引条件について事実を表示していたとしても、すべてのユーザーに対して「あなただけ特別な価格でご提供!」と表示するようなケースは、一般消費者に対して他の人よりも優遇されているという誤認を与えるものとして、“著しく有利”に該当しうるとされています。

価格について“著しく有利”であるかどうかは、「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(平成12年 6月30日公正取引委員会)、いわゆる「価格表示ガイドライン」がありますので、これに沿って判断することになります。

3 価格についての有利誤認表示

(1) 販売価格単体の表示が有利誤認表示となる場合

販売価格(「1か月のご利用につき〇〇円」など)単体での表示が有利誤認表示となる場合は、次のいずれかに該当する場合です。

(a) 実際の販売価格よりも安い価格を販売価格として表示する

例えば、実際には「10,000円」であるにもかかわらず、「8,000円」と表示するような場合が該当します。税抜価格であるにもかかわらず、税込価格であるとの誤解を生じさせるような表示も、これに該当します。

(b) 通常は他の商品やサービスと一緒に購入・利用するものであるにもかかわらず、その商品やサービスについて表示しない

例えば、別途ソフトウェアを購入しなければ通常の使用ができないデバイスであるにもかかわらず、デバイスの価格のみを表示してソフトウェアについての表示をしない場合が、これに該当します。このような場合、一般消費者に対して、商品を使用するために必要なコストが実際よりも安いものと誤認させるおそれがあるため、有利誤認表示に該当します。

(c) 表示した販売価格が適用される顧客が限定されているにもかかわらず、その条件について表示しない(条件に当てはまらない場合でもその販売価格での購入ができるという誤認が生じる表示であるため)

例えば、すでに自社サービスを利用している場合には値下げ価格が適用されないにもかかわらず、そのことを示さずに、値下げ価格のみを表示するような場合が、これに該当します。このような場合、条件を満たさない一般消費者に対して、実際よりも価格が安いものと誤認させるおそれがあるため、有利誤認表示に該当します。

(2) 過去の販売価格と比較した価格の表示が有利誤認表示となる場合

販売価格の際に比較の対象となる“より高い価格”と併記する表示を、二重価格表示といいます。二重価格表示は、一般消費者が商品やサービスを選択するうえで適正なものであれば、特に景品表示法上の問題はありません。一方で、一般消費者に対して実際よりも販売価格が安いという誤認を生じさせるようなものであれば、有利誤認表示に該当します。

過去の販売価格と比較した価格の表示としてしばしば用いられるのが、「通常価格」と比較した表示です。「通常価格」という表示が比較対象になっていると、その金額でそれなりの期間にわたって販売されているものと一般消費者は認識しますので、実際には短期しかその価格が用いられていなかった場合、有利誤認表示になりえます。短期間しか用いていない価格と比較するのであれば、いつからいつまで用いていた価格であるかを一般消費者が理解することができるように表示する必要があります

価格表示ガイドラインによれば、「通常価格」表示が認められるための基準として、次の要件が掲げられています。

(a) 「通常価格」が用いられていた期間が、値下げ開始前8週間前のうち実際に商品やサービスが販売されていた通算期間の2分の1を超えていること
(b) 「通常価格」が用いられていた通算期間が2週間以上であること
(c) 「通常価格」が用いられていた最後の日から値下げ開始まで2週間以上を経過していないこと

(a)については、「通常価格」の表示を使用しているどの日においても満たしている必要がありますので、値下げ開始時点では問題がなくても、長期間にわたって「通常価格」の表示を使用することで有利誤認表示に該当することになります。ただし、値下げ開始時点でいつまで値下げを継続するかを明示している場合は、例外的に、値下げ開始時点で問題がなければ直ちに有利誤認表示には該当しないものと理解されています。

【ケース3】(1)の場合、特別価格での販売を開始した時点では「通常価格」表示の要件を満たしますが、その後特別価格での販売を継続している間に、特別価格の期間が「通常価格」を用いていた期間以上になると、有利誤認表示の問題が生じることになります。ただし、5月20日に特別価格での販売を開始した時点で、「5月20日から8月31日まで限定の特別価格」など期間を明示すれば、直ちに有利誤認表示には該当しないものと考えられます。

(3) 将来の販売価格と比較した価格の表示が有利誤認表示となる場合

過去の販売価格との比較と同様に多いのが、「新発売限定価格」のように、将来的に値上げをすることを前提に、その価格よりも安い価格であることを示す二重価格表示です。

このような手法を用いる場合は、将来の販売価格について確実にその価格で販売する予定があることが必要であり、その予定が不確実なものであれば、有利誤認表示に該当します。具体的には、事業者において将来の値上げを前提にした合理的な販売計画を策定するなどしている事情が必要です。

【ケース3】(2)の場合、11月から値上げされるような表示をしながら、実際には“売上げ状況を見て値上げをするかどうか決める”というあいまいな計画しかない状況であるため、将来の販売価格を用いる予定が不確実です。そのため、有利誤認表示に該当しうるものと考えられます。

4 価格以外の取引条件についての有利誤認表示

価格以外の取引条件についての有利誤認表示としては、数量、購入・利用時に受け取れる景品、アフターサービス、付帯するオプションなどが挙げられます。

【ケース3】(3)の場合、「5年間保証サービスを無料でつけられます!」という表示は、一般消費者からすれば、初期不良以外の保証サービスも対象であると認識するのが通常です。なぜなら、家電小売店の業界において「5年間保証サービス」という名称で提供されるサービスは、初期不良以外の保証も対象であることが一般的であるためです。このような表示は、有利誤認表示に該当しうるものと考えられます。

第5章 おとり広告

【ケース4】
X社のECサイトでは、GoogleとYahoo!でバナー広告を配信していますが、各ジャンルで前月に最も売上額が多かった商品の情報を、「おすすめ商品」と表記してバナー広告を配信しています。
バナー広告を配信した商品が在庫切れの場合は、バナーをクリックすると、「こちらの商品は在庫切れです。代わりにこちらの商品をおすすめしています。」という表記とともに当該商品と類似した商品の一覧が表示されるページに遷移する仕様にしています。

おとり広告とは、他の商品やサービスに顧客を誘導するために、次のような表示をすることをいいます。

(a) 実際には販売する準備ができていない商品やサービスの表示
(b) 提供する数量が著しく限定されているにもかかわらず、その内容を明瞭に記載せずにする商品やサービスの表示
(c) 提供期間・提供を受けられる対象者・顧客1人当たりに提供する数量が限定されているにもかかわらず、その内容を明瞭に記載せずにする商品やサービスの表示
(d) 実際には提供するつもりがない商品やサービスの表示

ECサイトにおいては、特に、リスティング広告やバナー広告においておとり広告の手法を用いるケースが問題になりえます。例えば、実際にはすでに販売を中止している商品を人気商品としてバナー広告に表示し、閲覧者をECサイトに誘導した後に、その商品がすでに売り切れていることを告知して類似品の購入を促すような手法は、おとり広告に該当するおそれがあります。

【ケース4】の場合、バナー広告を配信した商品が在庫切れの場合にも、あたかもその商品を購入することができるような広告配信を継続し、かつ、それによって他の商品の購入へと顧客を誘導しようとしている点が、おとり広告と評価されるおそれがあります。

第6章 おわりに

今回は、ECサイトのケースを踏まえて、景品表示法で禁止される不当表示について詳しく取り上げました。不当表示にならないために重要な視点は、自分自身が一般消費者の立場でECサイトを利用するとして、“どのような表示をされると、「本来であれば買わない商品やサービスを間違って買ってしまった」という事態に陥ってしまうか”を考えることです。“どうすれば景品表示法を回避できるのか”ではなく、“どうすればユーザーに信頼される表示になるのか”という視点で考えると、おのずと景品表示法違反を回避することができます。

当事務所では、景品表示法についてのご相談も承っております。はじめての方のご相談(60分以内)は無料で、オンラインでのご対応をしておりますので、お悩みのことがございましたら、まずはお気軽にお問い合わせください。

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