コラム

ビジネスマッチングサービスのフリーランス新法対応を弁護士が解説

目次

1 ビジネスマッチングが身近な社会に
2 フリーランスとの契約内容の明示
(1) フリーランス新法のルール1-書面・データによる契約内容の明示
(2) フリーランス新法のルール2-データで契約内容を明示した場合
(3) ビジネスマッチングサービスの運営者に求められる対応1-文書で明示すべきこと
(4) ビジネスマッチングサービスの運営者に求められる対応2-書面交付を求めた場合
3 報酬支払期日の設定
4 その他
5 顧問契約をおすすめします

1 ビジネスマッチングが身近な社会に

最近、フリーランスの方が、オンライン上で企業とマッチングをして収益を得るケースが増えています。大手サービスとしては、「ランサーズ」や「クラウドワークス」が有名ですが、それに限らず、様々なビジネスマッチングサービスが新たに登場しています。当事務所でも、ビジネスマッチングサービスのスタートアップに関して、ご相談をいただく機会が増えています。

「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス新法)が令和6年11月に施行予定ですが、多くのビジネスマッチングサービスにおいては、その施行に備えて、サービスの仕様や運用の見直しが求められます。このコラムでは、ビジネスマッチングサービスの運営者に向けて、フリーランス新法の施行前に知っておくべきポイントを解説しています。
※このコラムは、令和6年5月現在の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、公正取引委員会のWebサイトなどを参照してください。

なお、フリーランス新法については、コラム「フリーランス新法施行前にITベンダーが見直すべきポイント」でも詳しく解説しています。

2 フリーランスとの契約内容の明示

(1) フリーランス新法のルール1-書面・データによる契約内容の明示

フリーランス新法3条1項には、「業務委託事業者」が、「特定受託事業者」に業務委託をした場合、直ちに、次の事項を書面やデータで明示しなければならないことが定められています。

a) 業務委託事業者・特定受託事業者の商号・氏名・名称又は識別ID
b) 業務委託をした日
c) 給付すべき成果物や提供すべきサービスの内容
d) 成果物の給付やサービスの提供を受ける期日(あるいは期間)
e) 特定受託事業者の給付を受領する場所/サービスの提供を受ける場所
f) 給付された成果物/提供されたサービスについて検査する場合は検査完了期日
g) 報酬の額(具体的な金額の明示が困難なやむを得ない事情があれば報酬算定方法)・支払期日
(※タイムチャージ方式の場合、時間単価を示すことで足ります。)
h) 現金以外で報酬を支払う場合における一定事項

「特定受託事業者」

「特定受託事業者」とは、従業員がいない個人事業主や、代表者以外に役員・従業員がいない法人をいいます。フリーランスは、「特定受託事業者」に該当します。

「業務委託事業者」

「業務委託事業者」とは、「業務委託」をする事業者をいいます。個人事業主や、代表者以外に役員・従業員がいない法人であっても、事業を営んでいれば「業務委託事業者」に該当します。

「業務委託」

「業務委託」とは、「事業のために」以下のいずれかの委託をすることをいいます。

a) 物品の製造加工の委託
・・・[例]手作りバッグの制作
b) 情報成果物の作成の委託
・・・[例]アプリ・動画・Webデザインの制作など
c) サービスの提供の委託
・・・[例]音楽の演奏や舞台への出演など

ビジネスマッチングサービスで扱われるフリーランス向け案件のほとんどは、発注者が個人事業主や法人であれば、「業務委託」に該当します。

(2) フリーランス新法のルール2-データで契約内容を明示した場合

フリーランス新法3条2項によれば、データでフリーランスに契約内容を明示した場合、フリーランスから書面で契約内容を明示するように求められたときは、原則として、改めて書面で契約内容を明示しなければなりません。

例外として、次のいずれかに該当する場合、フリーランスからの求めがあっても、書面での契約内容の明示に応じる必要はありません

a) 特定受託事業者からの求めに応じてデータで明示した場合
b) 業務委託事業者により作成された定型約款を内容とする業務委託で、オンラインで契約締結され、その定型約款がオンラインで特定受託事業者の閲覧できる状態になっている場合

ビジネスマッチングサービスの場合、運営者が「サービス利用規約」を定めることが一般的ですが、「サービス利用規約」は業務委託事業者が作成したものではありません(運営者は、あくまでも、マッチングの場を提供しているだけですので、業務委託事業者ではありません)。そのため、運営者が「サービス利用規約」を定めていたとしても、b)には該当しません。

また、a)について、フリーランスが「データでの契約内容の明示」に承諾しなければマッチングができない仕様にすることも考えられますが、このようなフリーランスの選択の自由がない仕様のもとでの承諾は、フリーランスの「求め」があったと評価できないように思われます。

つまり、ビジネスマッチングサービスの場合、a)b)いずれの要件も満たせないケースが必然的に生じます。

(3) ビジネスマッチングサービスの運営者に求められる対応1-文書で明示すべきこと

まず、ビジネスマッチングサービスにおいては、マッチングが成立したタイミングで、発注者からフリーランスに対し、以下の事項が明記された文書がメール・チャットなどで自動的に交付される仕組みを採用することが望ましいです。

a) 発注者の情報

発注者について、商号・氏名・名称を示すか、あるいは、事業者別に付されたIDを示さなければなりません。
必ずしも実名を明示する必要はなく、ニックネームやアカウントIDを明示することでも足ります

b) フリーランスの情報

フリーランスについて、商号・氏名・名称を示すか、あるいは、事業者別に付されたIDを示さなければなりません。

必ずしも実名を明示する必要はなく、ニックネームやアカウントIDを明示することでも足ります

ビジネスマッチングサービスの場合、フリーランスの実名が発注者に伝わらないこと(匿名性を担保できること)をサービスの売りにしているケースもありますので、このような場合は、ニックネームやアカウントIDを明示する運用が適切です。

c) 業務委託をした日

ビジネスマッチングサービスにおいては、マッチング成立日が業務委託をした日ですので、自動的にその日が文書に明示されるようにしておくことが適切です。

d) 給付すべき成果物や提供すべきサービスの内容

 発注者とフリーランスとの間で、どのような成果物を提供するか(あるいはどのような仕事をするか)協議して決めた内容が、文書で明示される仕組みにしておくことが適切です。

また、給付すべき成果物には、譲渡する著作権も含まれます。そのため、成果物の著作権を譲渡するかどうかも、文書で明示されるようにしておくことが適切です。

これらの事項については、発注者のほうで内容を決めていただく必要がありますので、(1)具体的に成果物・サービスの内容を示すためにはどのような方法がよいか、(2)成果物の著作権はどこまで発注者に帰属するかを明確にするように、発注者に対してサービス上で周知することが望ましいです。

e) 成果物の給付やサービスの提供を受ける期日・期間

成果物の給付やサービスの提供を受ける期日・期間について、発注者・フリーランスでマッチング時に決めた期日・期間が、文書に自動的に明示される仕様にしておくことが適切です。

f) 成果物を受領する場所/サービスの提供を受ける場所

・成果物を郵送する場合には、郵送先を文書で明示することが適切です。
・電子メールで成果物を送信する場合には、送信先の電子メールアドレスを文書で明示することが適切です。
・ビジネスマッチングサービス内のチャットなどで送信する場合には、その旨を文書で明示することが適切です。
・特定の仕事の提供(音楽の演奏や舞台への出演など)をする場合は、その場所を文書で明示することが適切です。

g) 給付された成果物/提供されたサービスの検査完了期日

発注者のほうで成果物に不備がないか/提供されたサービスに不足がないかを確認したうえでフリーランスに報酬が支払われる仕組みになっている場合は、いつまでにその確認をしなければならないか、期日を明確にして、文書に自動的に明示される仕様にしておくことが適切です。

ビジネスマッチングサービスの運営者としては、サービス利用規約において、成果物・サービスの提供日から何日以内にこのような確認をしなければならないかルールを明確化して、期日が自動的に設定されるようにすることが望ましいです。

h) 報酬の額・支払期日

ビジネスマッチングサービスの場合、報酬は、運営者が発注者から代行受領して、手数料を差し引いたうえでフリーランスに支払われる仕組みが一般的です。支払期日についてはサービスの仕組みで自動的に決定されますので、文書に自動的に明示される仕様にしておくことが適切です。

(4) ビジネスマッチングサービスの運営者に求められる対応2-書面交付を求めた場合

フリーランスが書面交付を求めた場合は、原則として、(3)で説明した契約内容を明示した文書を、書面で交付しなければなりません。書面交付については、次のいずれかの仕組みを採用することが適切です。

a) 運営者がフリーランスに対して自動的に郵送で文書を発送する仕組み
b) 文書を発注者がダウンロード・印刷して自分で郵送できるようにする仕組み

フリーランス側の住所が発注者に開示されない仕様にしたい場合、b)の仕組みは採り得ませんので、運営者にはコストとなりますが、a)の仕組みを採用せざるを得ません。

3 報酬支払期日の設定

フリーランス新法4条1項によれば、フリーランスの方への報酬支払期日は、原則として、納期から起算して60日以内、かつ、できる限り短い期間内に設定しなければなりません

運営者は、サービス利用規約で報酬支払期日のルールを定める場合に、報酬支払期日が納期から起算して60日以内になるように留意しなければなりません。

4 その他

その他、フリーランス新法には、発注者が遵守すべき様々なルールが定められています。ビジネスマッチングサービスの運営者としては、フリーランス新法に関する情報を積極的に発信し、違反行為の横行を予防することが望ましいです。

フリーランス新法について詳しくは、コラム「フリーランス新法施行前にITベンダーが見直すべきポイント」もお読みください。

5.顧問契約をおすすめします

ビジネスマッチングサービスを適切に運営し、信頼のあるサービスにしていくためには、フリーランス新法はもちろん、民法、特定商取引法、資金決済法など、様々な法律知識を理解することが求められます。ただ、スタートアップの段階で、このような知識を網羅することは、ハードルが高いです。顧問契約をいただき、弁護士から継続的なサポートを受けていただくことで、スタートアップ段階から法務対応を万全にできます。ぜひ、月1万円(税別)からスタートできる、当事務所の顧問契約をご検討ください。

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