コラム

インバウンドビジネスの法的留意点を弁護士が解説

目次

1 インバウンドビジネスの最新事情
2 旅行業法に抵触しないために
3 利用規約作成時の留意点
4 プライバシーポリシーの見直し
5 弁護士への相談をおすすめします

1 インバウンドビジネスの最新事情

新型コロナウイルスのまん延で大きな打撃を受けたインバウンドビジネスは、2022年から段階的に回復し、2024年の訪日外国人数は、過去最高を記録しました。

「インバウンドビジネス」は多種多様で、次々に新しいビジネスが登場しています。例えば、着物体験や料理体験など、「体験サービス」が多様化しています。

また、インバウンドを意識した地図アプリ・通訳アプリ・施設予約アプリ・観光地情報サイト、さらには、外国人観光客と日本人とのマッチングサービスなど、IT分野において様々なインバウンドビジネスが登場しています。

このコラムでは、インバウンドビジネスのスタートアップに挑戦する企業に向けて、どのような法律問題に留意すべきかをご紹介します。

2 旅行業法に抵触しないために

インバウンドビジネスを始める際には、企画しているビジネス内容に、旅行業法に抵触するものがないかを吟味する必要があります。まずは、インバウンドビジネスに関連する旅行業法の規制について、確認しましょう。

(1)旅行業の登録について

旅行業法第3条によれば、「旅行業」を営むには、観光庁長官の登録を受けなければなりません。例えば、国内全域でパッケージツアーの企画等を行うためには、「第2種旅行業」の登録が必要です。

「第2種旅行業」に登録するためには、少なくとも700万円以上の「基準資産」(資産総額から、負債や営業保証金などを差し引いた額)が必要で、さらに、多額の営業保証金を確保することや、旅行業務取扱管理者(国家資格)を選任したりすることも必要です。

スタートアップ企業が「第2種旅行業」を始めることは、かなりハードルが高いです。そのため、インバウンドビジネスを始める際には、「旅行業」に該当しないビジネスを探すことからスタートすべきです。

(2)旅行業に該当するケース

ここからは、旅行業に該当するケースを、いくつか事例でご紹介します。

観光地を巡るツアーの企画

X社は、外国人観光客向けに、京都市の寺社仏閣を巡るツアーを企画しています。

例えば、寺社仏閣巡りツアーを企画して、観光用バスの手配を報酬を得て行う事業は、旅行業に該当します(旅行業法2条1項1号)。

また、寺社仏閣を巡るスケジュールや、寺社仏閣間を移動する市バスルートなどを案内する企画を、報酬を得て行う事業は、「旅行に関する相談に応ずる行為」に該当するとして、旅行業に該当しえます(旅行業法2条1項9号)。

外国語に対応した旅館の紹介・予約代行

X社は、外国人観光客からの相談を受けて、外国語に対応した旅館の紹介や、予約代行を行っています。

旅行者のために宿泊施設との契約を代理したり、媒介・取次ぎをしたりする業務を、報酬を得て事業として行うことは、旅行業に該当します(旅行業法2条1項4号)。

また、契約の代理・媒介・取次ぎは行わず、単に宿泊施設を紹介するだけでも、相談料金を受け取れば、「旅行に関する相談に応ずる行為」に該当するとして、旅行業に該当しえます(旅行業法2条1項9号)。

旅行スケジュールの提案

X社は、外国人観光客から予算や興味関心などを聴きとって、旅行スケジュールを有償で作成するサービスを提供しています。

少なくとも、電車・バスルートや宿泊地の案内を伴う旅行スケジュールを作成して有償提供することは、「旅行に関する相談に応ずる行為」として、旅行業に該当しえます(旅行業法2条1項9号)。

(3)旅行業に該当しないケース

他方で、旅行業には該当しないと考えられるケースを、いくつかご紹介します。

観光施設内の紹介ツアー

X社は、京都市内の神社と提携して、外国語で歴史を紹介しながら境内を案内するツアーを企画しています。

この場合は、(現地集合、現地解散であれば)運送や宿泊に関するサービスが含まれていないことから、「旅行業」には該当しません。

ただし、「通訳ガイドサービス」「京都ガイドサービス」といった名称を用いると、名称独占資格である全国通訳案内士・地域通訳案内士の類似名称に該当するものとして、通訳案内士法に抵触します。この点は、旅行業法とは別の観点で、注意が必要です。

観光地に関する情報提供サービス

X社は、インバウンドに特化してWebサイトを立ち上げて、全国各地の観光地に関するイベント情報をユーザー登録者に提供しています。

単に観光地に関する情報を提供するだけであれば、「旅行に関する相談に応ずる行為」ではないため、旅行業には該当しません。

ただし、例えば、ユーザー登録者が予算や趣味関心などを入力すると、おすすめの観光地や電車・バスルート、旅館情報などをAIが自動案内するようなサービスは、「旅行に関する相談に応ずる」サービスに該当するおそれがあります。この場合、旅行業に該当しえますので、注意が必要です。

料理体験サービス

X社は、日本料理店と提携して、日本料理の体験ができるサービスを外国人観光客向けに提供しています。

このようなサービスも、運送・宿泊に関するサービスを伴う旅行企画ではないため、旅行業には該当しません。

ただし、サービスの提供過程で食中毒が発生すれば、運営者として責任を問われるおそれはあります。このような問題を防ぐため、利用者(外国人観光客)に対しては料理店側の指導に従うように義務づけるとともに、料理店側にも衛生管理を徹底するように義務づけることが必要です。

なお、このケースであれば日本料理店と提携しているために問題はありませんが、自社で施設を用意してこのような体験サービスを開く場合、食品衛生法上の許可が必要になるケースがありますので、注意が必要です。

(4)旅行業に該当するかどうかの判断が難しい場合は?

ご検討中のインバウンドビジネスが旅行業に該当するかどうかの判断が難しい場合、まずは、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。ただ、このような専門家でも、旅行業に該当するかどうか見解が分かれたり、明確な判断が難しいケースがあります。

その場合は、観光庁の「グレーゾーン解消制度」の利用をご検討ください。

3 利用規約作成時の留意点

インバウンドビジネスにおいて、利用規約作成時に留意しておきたいポイントを、ご紹介します。

(1)ルールはあいまいさをなくして、なるべく明確に

インバウンドビジネスにおいては、法律や文化が異なる顧客がターゲットになるため、利用規約などのサービス内のルールにあいまいさがあれば、トラブルが発生しやすいです。サービス利用時のルールや、免責事項などを利用規約やその他のルールとして示す際は、あいまいな表現を避けて、なるべく明確にしておくことが重要です。

(2)「日本の常識」を疑うことの大切さ

国民生活センターが公表した「訪日観光客消費者ホットライン」に寄せられたトラブル事例(令和元年9月19日公表)を見ますと、飲食店で「お通し代」を請求されたことがトラブルになったケースが挙げられています。このように、「日本の常識」とされていることが、外国人観光客との関係では、思わぬトラブルを招くことがあります。

例えば、お風呂体験で「湯船にタオルを浸けない」「湯船で体を洗わない」といったことは、日本では常識ですが、海外の方にとっては、常識とは限りません。

利用規約やその他のルールを作成する際は、「これは常識だからルール化しなくてもよい」という固定観念を捨てて細かいことまで利用規約などで明文化しておく姿勢が重要です。

(3)「宗教の違い」を意識することの大切さ

外国人観光客との間でトラブルに発展しやすいのが、「宗教の違い」に伴う問題です。例えば、イスラム教徒に対するハラール対応について顧客との認識がずれると、取り返しのつかない紛争に発展しかねません。利用規約の作成時は、ハラール対応の範囲・免責について、利用規約などのサービス内のルールで明確にするなど「宗教の違い」への意識も重要です。

(4)利用規約への準拠法の明示

消費者契約については、当事者が準拠法を選択しない限り、消費者の常居所地法が準拠法となります(法の適用に関する通則法第11条2項)。利用規約には、必ず日本法が準拠法になることを明示しておきましょう。

(5)主要言語への利用規約の翻訳

利用規約は、顧客と事業者との契約関係を形成するために大切なものです。ただ、利用規約を日本語版しか用意しておらず、英語などの主要言語に対応していないと、外国人観光客から、「(日本語版のみでは)実質的に利用規約が示されていたとはいえない」と主張(反論)されるおそれがあります。このような主張(反論)を避けるために、利用規約を主要言語に翻訳しておくことも重要です。

なお、日本語版と外国語版との優先関係を明確にするために、両者の条項に矛盾がある場合にどちらが優先するか(通常は日本語版)も、利用規約中に明示してください。

4 プライバシーポリシーの見直し

(1)海外の個人情報保護法制への対応を

インバウンドビジネスにおいては、海外の個人情報保護法制も意識しておかなければなりません。なぜなら、外国に居住する方から個人情報(パーソナルデータ)を収集する際には、日本の個人情報保護法だけではなく、その国の個人情報保護法制が適用されうる(域外適用)からです。

特に、EU圏・英国の個人情報保護法制であるGDPRへの留意は重要です。なぜなら、GDPRは、インバウンド人口の多いアジア圏の国の個人情報保護法制でも、参考にされているからです。

インバウンドビジネスを展開する際は、少なくとも、GDPRを意識したプライバシーポリシーを制定する(現行のプライバシーポリシーを見直す)ようにしてください。

(2)GDPR対応について詳しくは

GDPR対応については、以下のコラムで詳しく取り上げていますので、あわせて参考にしてください。

5 弁護士への相談をおすすめします

インバウンドビジネスのリリースを検討している方は、ぜひ一度、弁護士にご相談いただくことをおすすめします。最後に、インバウンドビジネスに関して、当事務所でサポートできることをご紹介します。

(1)旅行業法などの関連法令に関するアドバイス

前述したように、インバウンドビジネスは、旅行業法やその他の法令に抵触するおそれがありますので、十分に注意が必要です。当事務所にご相談いただければ、弁護士から、この課題について法的アドバイスを差し上げることができます。

(2)利用規約の整備

インバウンドビジネスの課題を意識した利用規約を、弁護士がオーダーメイドで作成いたします。特に、類似サービスのない斬新なインバウンドビジネスをスタートする際には、専門家に利用規約の作成を依頼することを強くおすすめします

(3)GDPRに準拠したプライバシーポリシーの作成

当事務所には、GDPRに準拠したプライバシーポリシーの作成にも対応しています。GDPRは、日本の個人情報保護法とはルールの差異が大きく、難解です。そのため、専門家に作成を依頼することを強くおすすめします

(4)まずはご相談ください!

はじめてのご相談は無料(60分まで)です。お困りの際、まずはご相談ください。サービスの内容をうかがったうえで、弁護士から、直接アドバイスを差し上げます。


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