コラム

人材マッチングサービスを始めるための法律知識を弁護士が解説

ケーススタディでわかるオンラインサービスのスタート法務

※2022年8月30日更新(令和4年職業安定法改正を受けて改訂しています)

目次

第1章 はじめに
第2章 人材マッチングサービスの法的スキーム比較
1 職業紹介スキーム
2 募集情報等提供スキーム
3 業務委託仲介スキーム
第3章 職業紹介スキーム
1 職業紹介事業と募集情報等提供事業の違い
2 有料職業紹介事業の許可を受けるための要件
3 個人情報の収集に関するルール
4 求人・求職不受理の制限
5 労働条件等の明示
6 手数料に関するルール
7 まとめ
第4章 募集情報等提供スキーム
1 情報の的確な表示
2 個人情報の取扱い
3 報酬受領の禁止
4 秘密の保持
5 その他
6 特定募集情報等提供事業の届出
7 まとめ
第5章 業務委託仲介スキーム
1 職業紹介スキームや募集情報等提供スキームとの違い
2 労働契約の性質がない業務委託契約
3 関係ガイドライン
4 まとめ
第6章 おわりに

第1章 はじめに

これまで恋人探しや婚活の場としてのイメージが大きかったマッチングサービスが、最近では、仕事探しや商談など様々な目的で人と人をつなぐサービスへと大きく進化しています。特に、コロナ禍でリモートワークが当たり前の時代になった昨今では、全国から幅広く良質な人材を見つけられる人材マッチングサービスの需要が増大しています。また、働き方の多様化により、ランサーズやクラウドワークスのようなフリーランスと企業とをつなぐクラウドソーシング型の人材マッチングサービスも利用層が増えています。

このような社会の動向を受けて、人材マッチングサービスを立ち上げたいと構想している企業やフリーランスの方は、決して珍しくないと思います。ただ、人材マッチングサービスを始める前に、まずは、職業安定法の規制や、関係ガイドラインについて正確に押さえておかなければなりません。これらの知識がないままにサービスをスタートしてしまうと、社会的信頼を得られるサービスにしていくことができないほか、最悪の場合、廃業を余儀なくされるおそれもあります

また、事業展開のために投資や融資を受ける際にも、職業安定法の規制や、関係ガイドラインを意識した取組みを積極的にアピールすることは1つの強みになります。

今回のコラムでは、人材マッチングサービスを3つの法的スキームに分類したうえで、それぞれのメリット・デメリットを比較しながら、必要な法的対応を解説したいと思います。

第2章 人材マッチングサービスの法的スキーム比較

人材マッチングサービスを展開する法的スキームは、大きく3つに分けることができます。適切な法的スキームを選択するためには、それぞれの法的スキームのメリット・デメリットを理解したうえで、将来的なビジョンも見据えた判断をする必要があります。

1 職業紹介スキーム

第1の法的スキームは、職業紹介事業として人材マッチングサービスを展開することです。厚生労働大臣から有料職業紹介事業の許可を受けることで、企業と労働者とのマッチングサービスを柔軟に展開することができます。

ただし、後ほど詳しく解説するとおり、有料職業紹介事業の許可を受けるためには、純資産や現預金が一定額以上でなければならず、かつ、職業安定法に準拠するための社内体制整備も必要になります。小規模にスタートしようとするベンチャー企業にとっては、このような制約がハードルになることがあります

2 募集情報等提供スキーム

第2の法的スキームは、募集情報等提供事業として人材マッチングサービスを展開することです。募集情報等提供とは、単に求人情報を求職者に提供したり、求職者情報を求人者に提供したりするだけで、求人者と求職者とのあっせんまでは行わないことをいいます。

職業紹介と募集情報等提供の線引きについては、厚生労働省の「民間企業が行うインターネットによる求人情報・求職者情報提供と職業紹介との区分に関する基準について」において判断基準が示されています。判断基準については、後ほど解説します。

募集情報等提供については、有料職業紹介事業の許可を受ける必要がなく、ハードルが大きく下がります。ただし、職業紹介事業ほどの柔軟性はありません。

3 業務委託仲介スキーム

第3の法的スキームは、人材マッチングの対象から労働契約を除外して、業務委託の仲介事業として人材マッチングサービスを展開することです。労働契約に該当しない業務委託形態の人材紹介であれば、職業安定法が適用されず、法的規制がありません。

ただし、業務委託仲介スキームを採用する場合には、職業安定法の潜脱といわれないために、マッチングの対象から労働契約の性質を有する案件を厳格に排除するルールの整備が必要です

その他、社会的に信頼されるサービスを目指す観点からは、関係ガイドラインに沿ったルールの整備も必要になります。

第3章 職業紹介スキーム

1 職業紹介事業と募集情報等提供事業の違い

職業紹介事業とは、「求人及び休職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんする」(職業安定法4条1項)事業のことです。職業紹介事業として人材マッチングサービスを展開するためには、有料職業紹介事業の許可を受けなければなりません。

人材マッチングサービス型の職業紹介事業に類似した形態として、募集情報等提供事業があります。募集情報等提供事業の場合、有料職業紹介事業の許可が不要であることから、参入のハードルがかなり低くなります。

「民間企業が行うインターネットによる求人情報・求職者情報提供と職業紹介との区分に関する基準について」によれば、単に求人情報・求職者情報をインターネット上で閲覧できるように掲載するだけであれば原則として募集情報等提供事業に該当する一方で、次のようなケースは、職業紹介事業に該当するものとされています

(1) 求人者又は求職者に「どのような情報を提供するか」又は「だれの情報を提供するか」について、あらかじめ明示的に設定された客観的な検索条件に基づかずに、サービス提供者の判断によって選別や加工を行う仕様になっているケース

例えば、求職者の閲覧履歴から求職者の希望する仕事の傾向をプロファイリングして、求職者に対しておすすめの求人情報を分かりやすく掲載するような仕様は、職業紹介事業に該当する可能性があります。

(2) サービス提供者から、求職者に対して求人情報の連絡をしたり、求人者に対して求職者情報の連絡をしたりするケース

例えば、求職者の閲覧履歴から求職者の希望する仕事の傾向をプロファイリングして、定期的におすすめの求人情報を個別にメール配信するような仕様は、職業紹介事業に該当する可能性があります。また、採用面接の調整を仲介するサービスを提供することも、職業紹介事業に該当する可能性があります。

(3) 求職者と求人者との間の意思疎通を中継する場合に、当該意思疎通のための通信の内容に加工を行うケース

単に申込みフォームを用意して求職者と求人者との間でメッセージをやり取りすることのできる仕様を設けることは、このケースには該当しないとされています。なお、2者間のメッセージのやりとりをサービス運営者が加工することのできる仕様は、電気通信事業法に抵触するおそれもあります。

(1)から(3)までのいずれにも該当しないケースであっても、「あなたにふさわしい仕事(貴社に最適の人材)を紹介する」といった広告を掲載して求職者・求人者を募集するようなケースは、職業紹介に該当するものと判断される可能性があるので、注意が必要です。

単に指定した検索条件に従ってランダムに求人情報(あるいは求職者情報)を掲載するだけであれば職業紹介事業には該当しませんが、プロファイリングの利活用によってより高度なサービスを提供したり、「あなたにふさわしい仕事(貴社に最適の人材)を紹介する」といった積極的な広告を採用したりすることで、職業紹介事業に該当する可能性があります

構想している人材マッチングサービスがどのような性質のものか、将来的にどのような事業拡大を考えているかを踏まえて、有料職業紹介事業の許可を受けておくべきか(あるいは将来的に有料職業紹介事業の許可を受けなければならない可能性があるか)を慎重に検討しておく必要があります。

なお、人材マッチングサービスであっても、雇用契約形態のマッチングを一切行わないのであれば、職業紹介事業や募集情報等提供事業には該当しません。この点については、後ほど詳しく説明します。

2 有料職業紹介事業の許可を受けるための要件

有料職業紹介事業の許可については、職業安定法31条1項各号のいずれも満たすことが要件とされています。厚生労働大臣があらかじめ許可基準を定めており、許可をするかどうかについては、許可基準をもとに判断されています。

(1) 財産的基礎の要件(1号関係)

ア・イのいずれも満たすこと
ア (繰延資産・営業権を除く資産総額)-(負債総額)≧(500万円)×(事業所数)
イ (自己名義の現金・預貯金)≧(150万円)+{(事業所数)-1}×(60万円)

事業開始とともに有料職業紹介事業をスタートするのであれば設立時の貸借対照表、事業の中途で有料職業紹介事業をスタートするのであれば決算書をもとに要件を確認することになります。インターネットの人材マッチングサービスの場合は、事業所を1か所に集約するケースが多いように思いますので、{(繰延資産・営業権を除く資産総額)-(負債総額)}が500万円以上、(自己名義の現金・預貯金)が150万円以上であればよいことになります。

小規模にスタートしようとするベンチャー企業にとっては、これらの要件がハードルになる可能性があります。

(2) 事業所の要件(3号関係)

ア 位置が適切であること(風俗営業の密集地などにはないこと)
イ プライバシーを保護しつつ求人者・求職者に対応することができること
ウ 職業安定機関その他公的機関であるとの誤認を生ずるものでないこと

イについては、もっぱらインターネットの利用によって対面を伴わない職業紹介を行う場合には、個室やパーテーションを事業所に設置していなくても要件を満たすとされています。インターネットの人材マッチングサービスの場合、事業所要件のハードルは高くありません。

(3) 事業主の要件(3号関係)

事業主(法人の場合はすべての役員)について、次の要件を満たさなければなりません。

ア 職業安定法32条の欠格事由(一部の前科、心身の故障、破産者、暴力団関係など)に該当しないこと
イ 貸金業・質屋営業を営むのであれば適正な登録・許可を受けていること
ウ 風俗営業など職業紹介事業にふさわしくない営業を行っていないこと
エ 外国人の場合は在留資格を有すること
オ 住所・居所が一定しないなど生活根拠が不安定な者でないこと
カ 不当に他人の精神、身体及び自由を拘束するおそれのない者であること
キ 公衆衛生・公衆道徳上有害な業務に就かせる行為を行うおそれがないこと
ク 虚偽・不正の方法で許可申請を行ったり、許可の審査のために必要な調査を拒み、妨げ、又は忌避したものでないこと
ケ 国外にわたる職業紹介を行う場合は、相手先国の状況や法制度を把握し、求人者・求職者と的確な意思疎通を図る能力があること

特に、法人の場合には、代表者だけではなく、他の役員についても要件を満たさなければならないことに留意が必要です。

(4) 職業紹介責任者の要件(3号関係)

有料職業紹介事業を営むためには、事業所ごとに専属の職業紹介責任者を選任しなければなりません。職業紹介責任者は、有料職業紹介事業に従事する者50人について1人以上を選任しなければなりません。

ア (3)事業主と同様の要件を満たすこと
イ 精神の機能の障害により職業紹介責任者の業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者でないこと
ウ 職業紹介責任者講習を5年以内受講したこと
エ 成年になってから3年以上の職業経験があること

例えば、大学を卒業してすぐに起業家として有料職業紹介事業を立ち上げようとする場合には、成年になってから3年以上の職業経験がある人材を採用して、かつ、職業紹介責任者講習を受講させなければなりません。職業紹介責任者講習は、全国民営職業紹介事業協会のサイトなどから申し込むことができます。

(5) 個人情報管理体制に関する要件(2号関係)

求職者などの個人情報について適正に管理することや、個人情報適正管理規程を策定することが求められます。同規程については様式例がありますので、そちらを参考に作成することが一般的です。

個人情報の適正な管理については、特に、求職者からの差別につながる個人情報の収集が制限されていることに留意が必要です。この点については、後ほど詳しく説明します。

(6) 他の事業との関係に関する要件(3号関係)

ア 国・地方公共団体でないこと
イ 有料職業紹介事業を会員の獲得、組織の拡大、宣伝など他の目的の手段として利用するものでないこと
ウ 事業主の利益に偏った職業紹介が行われるおそれがないこと
エ 介護作業従事者が労災の特別加入を希望する場合は、所定の申請をすること
オ 労働者派遣事業と兼業する場合は、求職者の情報と派遣スタッフの情報を別個にして、いずれの業務に使用することを目的に収集されたものかを明確にして管理し、求職者の情報を労働者派遣事業に利用したり、派遣スタッフの情報を有料職業紹介事業に利用したりしないこと

(7) 業務の運営に関する規程の要件(3号関係)

「業務の運営に関する規程」を策定しなければなりません。同規程については様式例がありますので、そちらを参考に作成することが一般的です。

(8) 手数料に関する要件

手数料については、手数料表を作成し、適法な手数料以外にいかなる名目でも金品の徴収をしてはならないとされています。手数料については、後ほど詳しく説明します。

(9) 名義貸しに関する要件

他に名義を貸与したり、職業紹介責任者の名義を借用して許可を受けることはできません。

(10) 国外にわたる職業紹介に関する要件

海外人材の職業紹介においては、相手国の法令遵守、違法・不当な取次機関の利用の禁止などが要件として定められています。

3 個人情報の収集に関するルール

有料職業紹介事業の許可基準によれば、求職を受理する際における求職者の個人情報の収集は「求職者の能力に応じた職業を紹介するため必要な範囲で」行わなければならないとされています。そして、「特別な業務上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合」を除き、次の情報について収集することが禁止されています。

(1) 人種・民族・社会的身分・門地・本籍・出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
【具体例】家族の職業、収入、本人の資産等の情報や、容姿、スリーサイズ等の社会的評価につながる情報
(2) 思想及び信条
【具体例】人生観、生活信条、支持政党、購読新聞・雑誌、愛読書
(3) 労働組合の加入状況
【具体例】労働運動、学生運動、消費者運動その他社会運動に関する情報

例えば、求職者の個人情報をもとに、その人と相性のよい求人とのマッチングを行うようなサービスを提供する場合は、このようなルールに反することのないように、十分に注意が必要です

4 求人・求職不受理の制限

職業紹介事業者は、次の場合を除き、求人の申込みをすべて受理しなければならないとされています(職業安定法5条の5)。

(1) 申込みの内容が法令に違反するとき
(2) 申込みの内容である賃金・労働時間その他の労働条件が通常と比べて著しく不適当であるとき
(3) 求人者が労働関係法令違反で処分・公表措置を受けたとき
(4) 求人者が適正な求人情報の明示をしないとき
(5) 求人者が暴力団関係に該当するとき
(6) 求人者が正当な理由なく報告・資料提出の求めに応じないとき

また、職業紹介事業者は、申込みの内容が法令に違反するものでない限り、求職の申込みをすべて受理しなければならないとされています。

そして、求人・求職の申込みを受理しないのであれば、その理由を説明しなければなりません。

ただし、特定の職種のみを取り扱いたい場合は、その職種の範囲を厚生労働大臣に届け出ることで、その範囲外の求人・求職の申込みを受理しないことができるようになります(職業安定法32条の12)。

人材マッチングサービスにおいて利用規約に違反した場合の利用停止措置の規定を設けるような場合は、このようなルールに反することのないように、十分に注意が必要です

なお、求人者に対しては不受理事由がないことを申告させる「自己申告書」(厚生労働省から公表されています)を提出させて、その提出がない場合には「正当な理由なく報告・資料提出の求めに応じない」ことを理由に不受理扱いをすることが一般的です。

5 労働条件等の明示

職業紹介事業者は、求職者に対して求人内容について次の事項を書面、電子メール等の方法で明示しなければなりません(職業安定法5条の3)。インターネットの人材マッチングサービスであれば、電子メールによる通知が一般的かと思います。ただし、書面以外の方法については、本人が希望しない限りは利用することができないため、求職申込みの際などに、書面交付を希望するかどうか本人にチェックさせて、本人が書面交付を希望するのであれば書面を郵送する仕組みを採用しなければなりません

(1) 業務内容
(2) 契約期間・試用期間
(3) 就業場所
(4) 始業終業時刻・残業の有無・休憩時間・休日
(5) 賃金
(6) 社会保険・労働保険への加入状況
(7) 求人者の氏名・名称
(8) 派遣労働であるかどうか
(9) 就業場所における受動喫煙防止措置

サービスの仕様を検討する際には、このような労働条件等の明示義務に対してどのように対応するかについても念頭に置いておかなければなりません。

6 手数料に関するルール

手数料については、「届出制手数料」の名目であれば、有料職業紹介事業者が自由に手数料の金額を決めることができます。

届出制手数料については、手数料の種類や額などを明確に定めた手数料表を作成して、「届出制手数料届出書」とともに厚生労働大臣に届け出なければなりません。その際、手数料について特定の人に差別的取扱いとなるようなこと(国籍や性別によって金額に差を設けるなど)を定めることはできませんので、その点は留意してください。

7 まとめ

有料職業紹介スキームは、事業資産が一定額以上でなければならないことや、職業紹介責任者を置かなければならないこと、必要な体制や規程を整備しなければならないことなど、小規模にスタートしようとするベンチャー企業などにとっては採用しづらい面があります。もっとも、これらの要件をクリアして有料職業紹介の許可を受けることができれば、多様な人材マッチングサービスを展開することができるメリットがあります。

第4章 募集情報等提供スキーム

募集情報等提供事業の場合は、有料職業紹介事業のような許可は不要ですので、小規模にスタートしようとするベンチャー企業にとって参入のハードルが低いメリットがあります。ただし、募集情報等提供事業の場合も、次の点については留意が必要です。

1 情報の的確な表示

令和4年職業安定法改正により、募集情報等提供スキームを採用する人材マッチングサービスにおいて労働者を募集する企業は、次の情報について、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確・最新の内容に保つための措置を講じることが義務づけられることになりました(改正法5条の4)。

(a) 求人情報
(b) 求職者情報
(c) 求人企業に関する情報
(d) 自社に関する情報
(e) 事業の実績に関する情報

募集情報等提供スキームを採用する人材マッチングサービスにおいては、募集情報を定期的にチェックして、問題がある募集情報に対しては事実確認や掲載停止の対応を適宜行える体制を構築しておく必要があります。このような対応を行いやすいように、利用規約の中に盛り込んでおくことが適切です。また、情報を掲載する際に、「いつの時点」の情報であるかを明確に表記することも重要です。

2 個人情報の取扱い

令和4年職業安定法改正により、募集情報等提供スキームを採用する人材マッチングサービスにおいても、職業紹介スキームを採用する場合と同様、個人情報の取扱いについて職業安定法が適用されることになりました(改正法5条の5)。

具体的には、求職者の個人情報を収集する際に、その個人情報を収集・使用・保管する業務の目的をウェブサイト上で明らかにする義務や、思想・信条等の個人情報を収集する場合に本人の同意を得なければならない義務などが課せられることになりました。

募集情報等提供スキームを採用する場合であっても、求職者の個人情報の管理については、職業紹介スキームを採用する場合と同じような留意が求められます。

3 報酬受領の禁止

令和4年職業安定法改正により、募集情報等提供スキームを採用する人材マッチングサービスについては、求人情報を求職者に提供することに関して、報酬を受けてはならないことが定められました(改正法43条の3)。

4 秘密の保持

令和4年職業安定法改正により、募集情報等提供スキームを採用する人材マッチングサービスの運営者やその従業者は、正当な理由なく、業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしてはならないことが義務づけられました(改正法51条)。

5 その他

その他、令和4年職業安定法改正により、募集情報等提供スキームを採用する人材マッチングサービスについて、苦情の申出窓口を明らかにする義務や、サービスに関する情報公開の努力義務が課せられます。

6 特定募集情報等提供事業の届出

令和4年職業安定法改正により、募集情報等提供スキームを採用する人材マッチングサービスのうち、「労働者になろうとする者に関する情報を収集して行う」ものについては、「特定募集情報等提供事業」に該当するものとして、厚生労働大臣への届出が義務づけられます。

「労働者になろうとする者に関する情報」には、サービスの閲覧履歴など、個人情報に必ずしも該当しない情報も含まれる点に、注意が必要です。

なお、特定募集情報等提供事業個人情報の取扱い、報酬受領の禁止、秘密の保持について職業安定法に違反した場合や、その他の違反を理由とする厚生労働大臣の改善命令に従わなかった場合には、事業停止命令を受けるおそれがあります。

7 まとめ

令和4年職業安定法改正により、募集情報等提供スキームについて、規制が強化されています。募集情報等提供スキームを採用する場合には、厚生労働省のサイトなどの最新情報を入手しておく必要があります。

第5章 業務委託仲介スキーム

1 職業紹介スキームや募集情報等提供スキームとの違い

業務委託仲介スキームが職業紹介スキームや募集情報等提供スキームと決定的に違うのが、職業安定法の適用を受けない点です。職業紹介は、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすること(同法4条1項)をいい、募集情報等提供は、労働者の募集情報を労働者となろうとする者に提供することなど(同法4条6項)をいいます。裏を返せば、労働契約の性質がない業務委託契約を仲介するのであれば、職業安定法は適用されません

2 労働契約の性質がない業務委託契約

業務委託仲介スキームにおいては、仲介する契約を労働契約の性質がないものに限定して、労働契約に該当する募集情報が掲載されることを厳格に禁止しなければなりません。そのためには、サービス提供事業者が、労働契約の意義を理解しておく必要があります。

労働契約に該当するかどうかは、受注者が労働基準法・労働契約法上「労働者」に該当するかによって決まります。そして、「労働者」に該当するかどうかは、次のような要素を考慮して判断すべきものとされています。たとえ契約書の表題が「業務委託契約書」などとされていても、実態として受注者に「労働者」性がある以上は、労働契約に該当します

(1) 発注者等からの仕事の依頼や業務従事の指示があった場合に、受けるかどうかを自分で決められるか
(2) 業務の内容や進行方向について、発注者等から具体的な指揮命令を受けているか
(3) 発注者等から勤務場所と勤務時間が指定され、管理されているか
(4) 受注者本人に代わって他の人が労務を提供したり、受注者が自分の判断で補助者を使ったりすることができるか(補強要素)
(5) 報酬の労務対償性が認められるか(補強要素)
(6) 事業者性が認められるか、専属性が高いかなど(補強要素)

労働基準法上の「労働者」の判断枠組み

「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(令和3年3月26日内閣官房ほか)より引用

 

仲介する業務委託が労働契約に該当しないと説明するためには、例えば、発注者に対して、次のような制限を設けておくことが考えられます。

(1) 発注案件を掲載する際に、仕事の依頼内容をできる限り具体的に特定し、受注者がその仕事内容を理解して受注の可否を判断することができるように配慮すること
(2) 具体的な仕事の進め方については、受注者の裁量を認めて、細部に至るまで仕事の進め方を記載した書面を交付することなどによってその進め方を拘束する形にならないように配慮すること(単に設計書や仕様書、一般的な指示書を交付すること自体は差し支えない。)
(3) 発注案件を、受注者の知識や経験をもって自らの裁量で進めることができる作業に限定すること
(4) 休憩時間や始業終業時間を指定して管理しないように配慮すること(同じ場所で働く人との調整のために必要な場合や、近隣への騒音の配慮などのために必要な場合は、その範囲で作業時間を指定することは差し支えない。)
(5) その他、発注案件が「労働契約」に該当するおそれがある場合には、運営者の判断により掲載を認めないこと

業務委託仲介スキームを採用する際には、労務管理の問題に詳しい弁護士などの専門家の助言を得ながら、労働契約に該当する発注案件の掲載を厳格に排除するルールの整備を怠らないことが重要です。

3 関係ガイドライン

業務委託仲介スキームについては、明確な法規制はありませんが、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」「自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン」に準拠することが望ましいです。

特に、「自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン」については、テレワーク形態でフリーランスとして働く人と発注者を仲介する事業者が遵守すべき事項が詳細にまとめられています。同ガイドラインについては、厚生労働省から分かりやすいパンフレットが公開されていますので、そちらをご参照いただくことをおすすめします。

同ガイドラインでは、次のような観点が示されています。

(1) 仕事の募集において、仕事の内容・納期・報酬・経費の扱い・成果物の知的財産権の扱い・問合せ先を明示すること
(2) 募集内容の明示について注文者への助言などを行うこと
(3) 手数料について、発生条件、徴収時期などをあらかじめ明示すること
(4) 契約成立時に手数料を徴収する場合には、手数料の額などを明示すること
(5) 個人情報を取り扱うに当たっては、本人の同意を得ずに利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱ってはならないことなど、適正に個人情報を取り扱うこと
(6) 相談窓口を明確化するなど、苦情を迅速、適切に処理するための体制整備を行うこと
(7) 成果物の知的財産権を発注者に譲渡などさせるのであれば、その旨を明確にすること
(8) 発注者から報酬の支払がないとしても、受注者が仕事を不備なく終えている以上は、受注者に報酬を支払うこと
(9) 発注者の事情により受注者に不利益な契約条件の変更を強要しないように配慮し、また、発注者の事情により、発注者との契約条件が変更される場合には、その契約条件の変更により受注者に不利益が生じないよう、発注者と協議すること

4 まとめ

業務委託仲介スキームは、明確な法規制がない点がメリットですが、マッチングの対象から労働契約に該当する発注案件を厳格に排除するルールの整備が求められる点がデメリットです。職業紹介スキームや募集情報等提供スキームのほうが、職業安定法のルールに則って対応すればよい点で、法的リスクが小さいといえます。

ただし、業務委託仲介スキームは、募集情報等提供スキームよりも積極的に契約関係に関与することができ、かつ、職業紹介スキームよりも柔軟にサービス設計ができる点にメリットがあります。また、発注者にとっては、労働基準法などの制約を受けずに、基本的には自由に契約条件を設定することができる点もメリットです。

第6章 おわりに

今回のコラムでご紹介したように、人材マッチングサービスのスキームは多様で、それぞれにメリット・デメリットがあります。一般論としてどのスキームが一番優れているということは難しく、自社で実現したいサービスや事業規模、将来のビジョンなど様々な事情を踏まえて、どのスキームがもっとも自社に適しているかを判断しなければなりません

Web Lawyersでは、様々な業種のITプラットフォームの立ち上げをサポートしています。人材マッチングサービスをどのようなスキームで立ち上げるかや、利用規約の作成などの法的対応でお困りの際は、ぜひ、お気軽にWeb Lawyersへお問い合わせください。

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