コラム

緊急事態宣言の影響で「事業をたたむかどうか」を考える前に

弁護士 大畑 亮祐

1 はじめに

緊急事態宣言が全国に発出され、様々な経済活動が自粛せざるを得ない状況に陥っています。「コロナ倒産」という言葉もニュースも耳にするようになりました。

中小企業・個人事業主の皆様も、現状をどう乗り越えるべきか、あるいは事業をたたむべきかどうか、お悩みの方も多いと思います。そのような方が、どのように考えて判断すべきか、考え方の道筋の案を示してみたいと思います。いわば「当たり前」の話かもしれませんが、思考の整理になれば幸いです。

2 事業継続の可能性を考える

まずは、事業継続の可能性をとことん考えてみることが第一です。そのとき考えるべき大きな項目は次の3点と考えます。

(1)経営者として、事業を継続する熱量は尽きていないか?

(2)アフター・コロナ、ウィズ・コロナの想定される社会の中で、これまでの事業モデルを維持できるか?あるいは適切な事業モデルに転換できるか?

(3)事業再開時期まで、資金繰りを保つことができるか?

まず、当たり前の話かもしれませんが、(1)経営者の熱量がなければ、そもそもの事業の継続は困難だろうと思います。特に、このような苦境を乗り越えるには、相当なエネルギーが必要です。事業に対する思い入れはもちろん、従業員や家族に対する思い等、色々な要素があると思います。事業継続するかどうかの判断にあたっては、原点に立ち戻ってみることが重要だと考えます。

次に(2)今後の社会の中で、事業モデルを維持できるかどうかの要素です。目下、緊急事態宣言は令和2年5月6日までとされていますが、延長される可能性も否定できません。また、諸外国では、ロックダウンを解除し、徐々に経済活動を再開した国が少しずつ増えてきているようですが、あくまでウィルスを駆逐しきったわけではなく、ウィルスの爆発的な感染拡大は防止しながらの経済活動を再開するとの判断をしているものと評価されています。「ウィズ・コロナ」という表現も見られるようになりましたが、今後は、これまでとは、物流も、働き方も、人の動き方も変わっていくことが予想されます。その中で、今までの事業モデルを維持できるのかどうか、変化していく必要があるのかどうか、ということを考えておく必要があります。

「これまで黒字だった事業」が、緊急事態宣言の解除後、これまでどおり「黒字の事業」とできるのかどうか。「黒字を維持するため」、あるいは、ピンチをチャンスに「赤字を黒字化する」ビジョンを描けるかどうかを考える必要があるでしょう。

3 資金繰りの問題

さて、上記(1)(2)の問題が解消できるのなら、できる限りの資金繰りをして、事業を継続すべきということになります。

資金繰りについては、資金繰り表を作成して確認をすることになります。そのうえで、(A)キャッシュの増加をできるだけ増やし、(B)キャッシュの支出をできるだけ減らし・遅らせることを考えることになります。

まず、(A)キャッシュの増加については、既に各種報道もなされていますが、①持続化給付金、②日本政策金融公庫や商工中金の貸付、③従業員の休業補償の一部を手当てする雇用調整助成金、④その他テレワーク導入等も含めた様々なメニューの助成金等を最大限活用することが望まれます。具体的な支援策の一覧については、おもに経済産業省のホームページを中心に、厚生労働省ホームページ、首相官邸ホームページ等を確認してください。

とはいえ、上記のような公的支援では間に合わない、ということもあるでしょう。本稿作成現在で、持続化給付金は4月最終週をめどに確定・公表するとされており、詳細は明らかになっていません。また、これらの支援では、必要金額に届かないということもあろうかと思います。

この点、現在では、クラウドファンディングによる支援も活発になっており、検討に値すると思います。大手のクラウドファンディング事業者においては、新型コロナウィルス用のプロジェクトを立ち上げ、経営に支障をきたした事業者を対象に、手数料を割り引いたり、早期のプロジェクト進行等のサポートを行っているサービスもあるようです。事業継続のためには「打てる手を打つ」、そのためには公的支援だけでなく、民間の支援も当然視野に入れるべきと考えます。

次に(B)キャッシュの支出の減少ですが、例えば厚生労働省は、厚生年金保険料の納付猶予については、迅速かつ柔軟に対応する旨を表明しました。対象にあたる場合は、手続を検討すると良いでしょう。

ところで、支出削減の手法として、整理解雇を行い、人件費の削減を図る会社があります。先日も、失業手当支給のほうが良いとの判断から、社員を一斉に解雇した会社が報道されました。しかし、整理解雇が法律上有効とされるハードルは高いため、解雇した社員が裁判に持ち込んだ場合、結果的に整理解雇は無効となり、バックペイ(復職までまでの賃金)や裁判費用のため、解雇しなかった場合よりも支出が増えるというリスクも生じます。もちろん一方では事業の存続があるため、究極の選択が迫られることになりますが、慎重に判断されることをお勧めします。

4 事業をたたむ場合

(1)経営者において事業継続の熱意が途絶えた場合、(2)今後の事業モデルのビジョンが描けない場合、(3)資金繰りが尽きてしまう場合は、やむなく事業をたたむことを考えることになろうかと思います。

とはいえ、事業をたたむ場合も、経営者としてはできるだけ「ソフトランディング」をはかりたいと考えると思います。倒産というと、「破産」が思い浮かびますが、会社の状況によっては破産以外の方法を選択することもあります。たとえば資産が十分にあり、債権者への弁済ができる段階では、「通常清算」という正式な廃業の手続きをとることになります。また、全ての債権者への弁済資金まではなくとも、関係者の理解が得られる場合には、事案によって、特定調停を利用した廃業型の私的整理といった方法や、特別清算を用いることで、ソフトランディング的な方法を用いることができる場合もあります。

ただ、いずれにしても、一定の資金が手元に残っていなければ、これらの手続きに必要な費用を捻出できません。破産する場合でも、弁護士費用や裁判所の予納金が必要です。

軟着陸の可能性を残しておくためには、資金繰りが尽きる前よりもできるだけ早く、弁護士に相談するべきといえます。

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