コラム

新型コロナウィルスの影響と賃料減額交渉

弁護士 吉山 晋市

1 はじめに

2020年5月25日,全国的に緊急事態宣言が解除されました。しかし,コロナウィルスが完全に終息したわけではなく,人出が流行以前と同様になるまでにはまだまだ時間がかかるでしょうから,飲食業界など先行きが不透明な業種の方は多いでしょう。

コロナとの共存が余儀なくされるかもしれない今後の社会において,事務所や店舗の賃料減額を要請されたらどのように対応すべきか検討してみたいと思います。

2 賃料減額要請の根拠について

緊急事態宣言の下,政府や地方公共団体による休業要請もあり,対象となった事業者はもちろん,対象外の事業者も営業を自粛せざるをえず,経済的に大きなダメージを受けました。

営業ができないので当然売り上げは入ってきませんが,雇用している従業員の給料,賃借している事務所や店舗の賃料など固定費は支払わなければなりません。

そのため,国土交通省は,不動産関連団体に対して,テナントからの賃料支払の猶予に応じるなど柔軟な措置を実施することを検討するよう要請しました。

では,不動産所有者がテナントから新型コロナウィルスの影響による売り上げ減少を理由に賃料の減額や猶予を求められた場合,これに応じる義務はあるのでしょうか。

テナントが休業要請の対象施設であった場合,借主の立場からは2020年4月1日に施行された改正民法611条1項や借地借家法32条により賃料の減額を請求することが考えられます。借主の責任ではなく外的な要因によって休業せざるをえないため本来の目的に沿った使用ができなくなったためです。緊急事態宣言は解除されましたが,解除後でも緊急事態宣言中の期間の賃料について遡って減額を請求されることはあります。

テナントが休業要請の対象施設ではないものの自主的に休業した場合は,民法611条1項により賃料の減額請求をすることは難しいと思われますが,コロナの影響で「賃料が不相当になった」という理由で借地借家法32条により自主的な休業による売り上げ減少による賃料の減額や猶予の要請がなされることは考えられます。

3 賃料減額要請への対応方法

では,不動産所有者としては,テナントからの賃料減額や猶予の要請には応じる義務はあるのでしょうか。

民法611条1項による減額請求も一方的な権利ではなく,貸主が借主の減額請求に縛られる義務はありません。テナントが休業要請の対象施設でなければなおさら,また国土交通省の賃料の減額や猶予の要請もあくまで「要請」であっって義務まではないと言えるでしょう。

では,不動産所有者としてどのような対応が考えられるでしょうか。

大きく分けると,➀賃貸借契約の解除,②敷金など預かり金から相殺する,③減額・猶予に応じる,という3つの方法が考えられます。

それぞれの方法について検討してみましょう。

(1) 賃料の減額や猶予には応じず,払えないなら解除して退去してもらう

テナントが賃料を滞納する状況が続くのであれば,減額や猶予の要請には応じず,賃貸借契約を解除して退去してもらうことも1つの方法ではあります。

しかし,賃料が払えないテナントを退去させたところでコロナの影響で多くの企業がダメージを受けている最中に従前と同じ賃料で新しいテナントが見つかる可能性は低いかもしれません,

また,敷金で原状回復費用がまかなうことができず,業績が悪化している借主が負担できないとなると所有者が負担せざるをえないことになりかねません,

(2) 敷金など預かり金から相殺する

契約時に敷金などの預かり金がある場合には,貸主と借主の合意により賃料の一部または全部を敷金と相殺するという方法が考えられます。

しかし,将来的にテナントが退去するに際し,敷金が目減りした結果,原状回復費用が不足するおそれもあることから,業績が回復したときに敷金の補填を約束しておくなどのちのちの手当ても必要になると思われます。

(3) 賃料の減額や猶予に応じる

まず,減額と猶予とでは大きく意味が異なります。

減額は合意していた賃料の額を変更することをいいます。これに対して,猶予は賃料の額は変更せずに,賃料の一部または全部の支払を将来に繰り延べることをいいます。

いったん賃料を減額してしまうと従前賃料に戻すことが難しくなる可能性がありますので,減額するとしてもいつまで減額するのかという期間を明確にして,期間を経過したら従前の賃料に戻ることを明確にしておく必要があります。賃料を猶予するとしても,賃料のいくらを,いつまで猶予するのか,猶予した部分の賃料はいつまでに,どのようにして支払ってもらうのか,ということまで見据えておかなければなりません。

このように,賃料の減額や猶予に応じる場合には,口頭でのやり取りではなく,賃貸借契約書を書き換える必要まではありませんが,合意書や覚書を作成して将来的な紛争を予防しておく観点が必要になります。

当事務所では,不動産賃貸業者とテナントである(保育施設,料理教室,エステサロンなど)との間で賃料の猶予について覚書を作成して交渉がまとまった解決事例が複数あります。

4 さいごに

冒頭にも申し上げましたとおり,緊急事態宣言が解除されたとはいえ,第2波への警戒や段階的な規制解除のなかで「コロナ前」と同じような経済活動が回復されるまでまだまだ時間がかかるかもしれません。

不動産所有者のかたもテナントからの賃料減額や猶予の要請があったときには,要請に応じるべきか,どのように対応すべきか迷われることも多いかと思います。

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