コラム

フリーランス新法施行前にITベンダーが見直すべきポイント

目次

1.フリーランス新法がいよいよ施行へ
2.契約内容の明示義務
3.報酬の支払に関するルール
4.著作権の帰属に関する留意点
5.その他留意すべき点
(1) 契約解除・不更新の際の事前予告(フリーランス新法16条)
(2) 妊娠・出産・育児・介護への配慮(フリーランス新法13条)
(3) ハラスメント対策(フリーランス新法14条)
6.顧問契約をおすすめします

1.フリーランス新法がいよいよ施行へ

「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス新法)が、令和6年11月1日に施行予定であることが、公正取引委員会から公表されました。

フリーランス人材を活用するケースの多いITベンダーにおいては、フリーランス新法のルールを社内周知して、違反行為がないように留意することが求められます。このコラムでは、ITベンダーがフリーランス新法に違反しないために、どのようなことを社内周知し、これまでの運用を見直さなければならないのか、ケーススタディを交えて解説します。
※このコラムは、令和6年5月現在の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、公正取引委員会のWebサイトなどを参照してください。

2.契約内容の明示義務

株式会社ミオ(役員3名、従業員50名)は、アプリ開発を受注していますが、デザインやコーディング作業の一部をフリーランスに任せています。フリーランスの方には、1年更新の取引基本契約書を書面で取り交わし、案件が発生する都度、チャットでやりとりして、個別に成果物の作成を依頼しています。その際、個別契約書を改めて取り交わしたり、発注書を出したりはしていません。フリーランス新法の施行に当たって、このような運用を見直す必要はありますか。

(1) 問題点

株式会社ミオは、個別にデザインの作成やコーディング作業を依頼する際に、個別契約書を取り交わしたり、発注書を出したりしておらず、しかも、依頼内容をチャットのやりとりのみで確定させています。このような運用は、フリーランス新法のルールに違反するおそれがあります。

(2) 書面などでの契約内容の明示義務

フリーランス新法3条1項には、フリーランス(特定受託事業者)に情報成果物の作成やサービスの提供を(事業のために)委託する場合、書面やデータで、次の事項を直ちに明示しなければならないことが定められています。

a) 業務委託事業者・特定受託事業者の商号・氏名・名称又は識別ID
b) 業務委託をした日
c) 給付すべき成果物や提供すべきサービスの内容
d) 成果物の給付やサービスの提供を受ける期日(あるいは期間)
e) 特定受託事業者の給付を受領する場所/サービスの提供を受ける場所
f) 給付された成果物/提供されたサービスについて検査する場合は検査完了期日
g) 報酬の額(具体的な金額の明示が困難なやむを得ない事情があれば報酬算定方法)・支払期日
(※タイムチャージ方式の場合、時間単価を示すことで足ります。)
h) 現金以外で報酬を支払う場合における一定事項

株式会社ミオは、取引基本契約書を書面で交付していますが、ここには、個別の依頼内容が明示されていません。そのため、株式会社ミオとしては、個別の依頼をする都度、上記の事項を書面・データで明示しなければなりません。なお、すでに取引基本契約書に示されている事項については、個別の依頼の際、「取引基本契約書に示したところによる」旨を明示すれば足りるとされています。

少なくとも、「b) 業務委託をした日」「c) 給付すべき成果物や提供すべきサービスの内容」「d) 成果物の給付やサービスの提供を受ける期日(あるいは期間)」「g) 報酬の額(具体的な金額の明示が困難なやむを得ない事情があれば、報酬算定方法)・支払期日」については、取引基本契約書で特定されていませんので、これらの事項については、個別の依頼の際、直ちに書面・データで明示しなければなりません。

株式会社ミオとしては、これらの事項を記載することができるひな形をあらかじめ用意し、依頼の都度、郵送かチャットで、ひな形に契約内容を記載した文書をフリーランスの方に交付する運用に変更しなければなりません。

(3) データで契約内容を記載した文書を交付する際の注意点

フリーランス新法3条2項によれば、データで契約内容を記載した文書を交付した場合でも、フリーランスのほうから「書面で交付してほしい」と求められた際には、改めて、同内容の文書を印刷して、郵送・手渡しで交付しなければなりません。

ただし、フリーランスからの求めがあってデータで文書を交付した場合は、その後にフリーランスから書面交付の求めがあっても、応じる必要はありません。株式会社ミオとしては、契約内容を記載した文書を交付する際に、データ交付・書面交付のいずれを希望するか、フリーランスの方に意思確認をしておくことが望ましいです。

3.報酬の支払に関するルール

株式会社ミオは、アプリに使用する動画の制作を、フリーランスに委託しています。このアプリは、株式会社ミオが、A社から開発受注したものです。以下の条件であれば、報酬支払期日をいつに設定しなければなりませんか。
・A社から株式会社ミオに対しては、着手時に、前払金として100万円が支払われます。
・フリーランスから株式会社ミオに対する動画の納期は、5月1日です。
・A社から株式会社ミオに対しては、8月1日に(前払金を除き)報酬400万円が支払われます。

(1) 原則ルール(納期から起算して60日)

フリーランス新法4条1項によれば、フリーランスの方への報酬支払期日は、納期から起算して60日以内、かつ、できる限り短い期間内に設定しなければなりません。

この原則ルールに当てはめた場合、上のケースであれば、「5月1日」が納期ですので、その日から起算して60日、つまり、「6月29日」までに、報酬支払期日を設定しなければならないことになります。

(2) 再委託における例外ルール(元委託者の報酬支払期日から起算して30日)

ただし、フリーランス新法4条3項によれば、フリーランスに対する再委託案件については、次の事項を明示しておくことで、元委託者との間で定めた報酬支払期日から起算して30日以内(かつ、できる限り早い期間)に限り、報酬支払期日を先延ばしにすることができます。

a) 再委託であること
b) 元委託者の事業者名など
c) 元委託者からの報酬支払の期日

この例外ルールに当てはめた場合、上のケースであれば、A社から株式会社ミオに対する報酬支払期日が「8月1日」ですので、「8月30日」まで報酬支払期日を先延ばしにすることができます。

(3) 前払金の支払についての配慮

フリーランス新法4条6項によれば、再委託案件の場合、元委託者から前払金を受けた場合、資材の調達その他の業務着手に必要な費用を前払金としてフリーランスに支払うよう適切な配慮をしなければなりません。

上のケースであれば、例えば、動画の制作のために有料素材を購入することが想定される場合、少なくともその経費相当額を前払金としてフリーランスに支払うように配慮することが求められます。

4.著作権の帰属に関する留意点

株式会社ミオは、アプリに使用する動画の制作をフリーランスに委託する場合、成果物の著作権の帰属についてどのようなことに留意しなければなりませんか。

(1) 著作権の帰属先は明示しなければならない

著作権がどこまでフリーランスのもとに残り、どこから委託者に移転するかについては、「給付の内容」として、契約内容を記載した文書を交付する際に記載すべき事項に含まれます。なお、取引基本契約書に示している場合、契約内容を記載した文書には、取引基本契約書で示している旨を記載すれば足ります。

デザインや動画、音楽などのコンテンツ制作をフリーランスに委託する場合、必ず著作権の帰属が問題になりますので、この点の明示を怠らないように注意が必要です。

(2) 著作権の譲渡対価を報酬として明示しなければならない

著作権の譲渡に対する対価についても、「報酬」として、契約内容を記載した文書を交付する際に記載すべき事項に含まれます。そのため、著作権をフリーランスに譲渡させる場合(多くのケースではそうかと思います。)は、譲渡対価が「報酬」に含まれていることを明示しなければなりません

(3) 不当に安い金額で著作権を譲渡させることは許されない

株式会社ミオは「特定業務委託者」(代表者以外の役員・従業員の所属する法人)に該当しますので、1か月継続して取引をするフリーランスに対し、フリーランス新法第5条に定められた事項を遵守しなければなりません。

成果物の著作権を、フリーランスとの協議なく、一方的に通常支払われる対価よりも低い金額で譲渡させた場合、フリーランス新法5条1項4号が禁止する「買いたたき」に該当するおそれがあります。

例えば、成果物の著作権について、他の案件で汎用的に利用できるデザイン・コンテンツについてもすべて著作権を譲渡させ、転用を認めないケースであれば、フリーランスの方の意見を踏まえつつ、相応の対価を支払わなければ(あるいは報酬を相応の額にしなければ)、「買いたたき」に該当するおそれがあります

5.その他留意すべき点

フリーランス新法について、その他留意しなければならない点を、簡単にご紹介します。

(1) 契約解除・不更新の際の事前予告(フリーランス新法16条)

フリーランスの方と6か月以上取引を継続する場合、契約を解除したり、契約を更新しない場合、30日以上前にそのことを予告しなければなりません。予告は口頭では足りず、書面交付や、電子メール・チャットでの連絡などの方法でなければなりません。ただし、次のいずれかの場合は、このような予告をしないことも、例外的に認められます。

a) 災害などによって予告が困難な場合
b) 元委託者からの契約解除でフリーランスへの再委託が不要になった場合など、直ちに契約解除・不更新とすることが必要な場合
c) 取引基本契約がある場合に、契約期間30日以下の個別案件契約を解除する場合
d) フリーランス側の責めに帰すべき事由により直ちに契約解除をすることが必要な場合
e) 取引基本契約があるが、フリーランス側の事情により、相当期間(おおむね6か月以上)、案件の委託をしていない場合

フリーランス新法の遵守を徹底する観点では、取引基本契約書において、契約を解除したり、契約を不更新とする場合における事前予告義務を明記しておくことが望ましいです。また、フリーランスとの契約を継続しない方針が社内で固まった場合には、フリーランスに対してその旨をできる限り早期に書面・データで伝えておくことが望ましいです。

(2) 妊娠・出産・育児・介護への配慮(フリーランス新法13条)

フリーランスの方と6か月以上取引を継続する場合は、妊娠・出産・育児・介護を理由にフリーランスを辞めなくてもよいように、「必要な配慮」をすることが求められます。

具体的には、フリーランスから配慮の求めがあった場合に話合いの機会を持ったり、配慮の方法について検討してフリーランスに提案したりすること、さらには、フリーランスの希望どおりの配慮が難しければその理由を説明することなどが挙げられます。

また、配慮の具体例として、次のようなことが挙げられます。

・妊婦健診日における業務時間の調整
・つわりによる体調不良の場合における調整
・子どもの急病等の場合における調整
・介護が必要な日におけるオンライン対応の調整

(3) ハラスメント対策(フリーランス新法14条)

フリーランスの方と6か月以上取引を継続する場合は、フリーランスに対するハラスメント(パワーハラスメント・セクシャルハラスメント・マタニティハラスメント)が発生しないように、フリーランスからの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備等を行わなければなりません。フリーランス新法には明文規定はありませんが、このような措置を講じることを怠った結果、フリーランスのハラスメントが発生してしまった場合、フリーランスに対する損害賠償責任を負わなければならないおそれがあります。

具体的には、次のような対応が求められます。

・フリーランスが利用することのできるハラスメント相談窓口の設置
・フリーランスへのハラスメントを防止するための社内周知
・フリーランスに対するハラスメントが発生した場合における取扱いのルール化

ハラスメント対策については、弁護士による社内研修の実施、関係規程の整備など、弁護士のサポートを受けることができます。

6.顧問契約をおすすめします

フリーランス新法を遵守することは、対外的な信頼につながり、ひいては、優秀なフリーランスの方が集まりやすくなります。フリーランス新法については、法務部関係者だけではなく、フリーランスとのやりとりにかかわる様々な担当者が正確に制度を理解していなければ、遵守していくことができません。

フリーランス新法への対応にお困りの際は、継続的に弁護士のアドバイスを受けることができる「顧問契約」をおすすめします。フリーランスと取引をされるITベンダー様のほか、ITフリーランスの方も、「顧問契約」をご利用いただけます。顧問料は、月1万円(税別)から。顧問弁護士をお探しの際は、ぜひWeb Lawyersにお問い合わせください。
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