コラム

アプリデザインにおける意匠権侵害について弁護士が解説

弁護士 石田 優一

目次

第1章 アプリデザインと意匠法
第2章 画像の意匠登録
1 令和元年意匠法改正について
2 意匠法により保護される画像の意匠とは
3 アプリのデザインと画像の意匠
4 意匠登録
第3章 アプリデザインにおける意匠権侵害の問題
1 アプリデザインにおける意匠権侵害を防ぐためには
2 登録意匠の調査方法
3 意匠の類否を判断する方法
第4章 意匠権侵害の主張を受けた場合における対応
1 意匠権侵害の主張に対して争う方法
2 意匠権侵害の主張に対して和解的に解決する方法
3 専門家に相談することの重要性
第5章 おわりに

第1章 アプリデザインと意匠法

令和元年意匠法改正により、画像の意匠登録の制度が新設され、アプリのデザインについて意匠登録をするための要件が緩和されました。その流れを受けて、今後は、アプリのデザインを意匠登録するケースが大きく増加していくことが予想されます。

著作権法の場合は、他人の著作物に依拠した創作行為のみが権利侵害の対象となるため、「たまたまデザインが似てしまった」ことについて権利侵害を認めないのが原則です。一方で、意匠法の場合は、意匠登録をされているデザインと同一又は類似のデザインを用いた場合、たとえ、そのデザインが意匠登録されていることを知らなかったとしても、権利侵害が成立します。つまり、アプリのデザインにおいては、“気づかないうち”に意匠権侵害が成立してしまうおそれがあります。

今後、アプリのデザインにおいては、著作権法だけではなく、意匠法にも意識を向けておくことが重要になります。このコラムでは、令和元年意匠法改正や画像の意匠登録、意匠の類否について紹介しながら、アプリのデザインにおいて留意すべきポイントを解説します。

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第2章 画像の意匠登録

1 令和元年意匠法改正について

画像については、もともと、物品の機能を果たすために必要な表示画像と、物品の操作の用に供される画像についてのみ、“物品の意匠”として意匠登録が認められていました。

ただ、最近では、オンライン上で提供されてデバイス(物品)には保存されない画像がビジネスにおいて重要な価値を持つようになったり、表示を外部に投影するIoTデバイスが現れるようになったりしたことで、画像自体を意匠として保護する必要性が高まりました。

このような背景のもとで、令和元年意匠法改正(令和2年施行)により、“物品の一部に含まれる画像”だけではなく、 “画像自体”も意匠法により保護の対象になりました。

2 意匠法により保護される画像の意匠とは

意匠法
第2条 この法律で「意匠」とは、・・・画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。・・・)であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。
【・・・2項以下省略・・・】

意匠法により保護される画像の意匠は、次のいずれかに該当するものに限られます。

a) 機器の操作の用に供される画像
b) 機器がその機能を発揮した結果として表示される画像

まず、“a) 機器の操作の用に供される画像”の例としては、アプリの特定の機能を実行するためのボタンやアイコンの画像が挙げられます。

次に、“b) 機器がその機能を発揮した結果として表示される画像”の例としては、アプリの特定の機能を実行した際に表示される画像(例えば、通話中の表示やチャット送信済み表示など)が挙げられます。

一方で、意匠審査基準によれば、アプリ上に表示される映画やゲームのコンテンツは、a)b)のいずれにも該当しないものとしています。このようなコンテンツは、スマートフォン(機器)の一般的な機能(通話やメール、チャット、スケジュール管理など)を動作させるために創作されたものではなく、その表現自体に独自の創作性があるため、a)b)の要件を満たさないものと考えられます。

3 アプリのデザインと画像の意匠

アプリのデザインには、基本的に、操作用のボタンやアイコンや、操作内容に対応して遷移する画面表示が含まれるため、画像の意匠が含まれます。

特許庁の「改正意匠法に基づく新たな保護対象(画像・建築物・内装)の意匠登録事例について」のページでは、アプリやオンラインサービスのデザインが意匠登録された事例が紹介されています。

4 意匠登録

意匠の創作者には、意匠登録によって意匠権が発生します。この場合における意匠を、登録意匠といいます。登録意匠や登録意匠に類似する意匠は、意匠権者からライセンスを受けなければ、“業として実施する”ことができません。画像の意匠を用いてアプリを開発し、そのアプリをプラットフォームで公開する行為は、“業として実施する”ことに該当します(意匠法2条2項3号イ)。

意匠登録には新規性や創作非容易性などの要件があります(詳細な説明は割愛します)が、これまでなかった斬新なデザインであれば、一般に意匠登録の要件が満たされるケースが多いものといえます。

第3章 アプリデザインにおける意匠権侵害の問題

1 アプリデザインにおける意匠権侵害を防ぐためには

前述のとおり、登録意匠や登録意匠に類似するデザイン(意匠)を、アプリ内で使用し、意匠権者からライセンスを受けずにプラットフォームで公開すれば、意匠権侵害が成立します。

アプリデザインにおいて意匠権を侵害しないためには、あらかじめ登録意匠を調査して、同一あるいは類似の意匠がないかどうかを確認しておくことが求められます。また、前提知識として、登録意匠と類似の意匠に該当するかどうか(意匠の類否)をどのように評価すればよいかについても理解しておく必要があります。

2 登録意匠の調査方法

登録意匠については、「J-Plat Pat」というサイトで検索することができます。こちらのサイトにアクセスして、「意匠」→「意匠検索」と進むと、登録意匠を検索することができます。

画像の意匠に限定して検索する場合には、1つ目の検索項目で「日本意匠分類/Dターム」を選択し、キーワードとして「N3?」を入力します。これによって、画像の意匠に検索範囲を限定することができます。

次に、2つ目の検索項目で「意匠に係る物品/物品名/原語物品名」を選択し、キーワードとして「電子計算機」「アプリケーション」「携帯電話」などアプリに関連しそうなワードで検索します。その際は、1つのキーワードだけではなく、関連性のある複数のキーワードで検索するようにしてください。

3 意匠の類否を判断する方法

検索した登録意匠(このコラムでは、画像が物品の一部として意匠登録されている場合は除外し、画像自体が意匠登録されている場合に限って取り上げます。)と、アプリで採用したいデザインとが類似しているかどうか(意匠の類否)は、どのように判断すればよいでしょうか。

意匠審査基準を踏まえると、この場合における意匠の類否は、次の要件の両方を満たすかどうかで判断されます。

a) 両意匠の用途と機能が同一又は類似であること
b) 両意匠の形状等が同一又は類似であること

(1) 両意匠の用途と機能が同一又は類似であること

例えば、アイコンの見た目が同じであったとしても、そのアイコンを選択した場合の動作が、一方は“メール送信”、他方は“アプリの終了”であれば、両意匠の用途・機能が同一・類似であるとはいえません。一方で、一方が“メール送信”、他方が“チャット投稿”であれば、いずれもメッセージを他人に送信する点で共通しているため、両意匠の用途・機能が類似であるといえます。

(2) 両意匠の形状等が同一又は類似であること

意匠の類否において争点になりやすいのが、両意匠の形状等が類似しているかどうかです。なぜなら、デザインが「似ている」か「似ていないか」は、捉え方によって様々な評価がありうるため、線引きが大変難しいからです。

まず、両意匠の中で“共通している部分”と“相違している部分”を区別します。そのうえで、それぞれの意匠をアプリ内で一般的なユーザーが見た場合を想定して、“共通している部分”“相違している部分”のそれぞれがどの程度目立つものであるかを検討します。

それぞれの部分が“どの程度目立つものであるか”については、その部分が意匠全体の中で占める大きさなどの見た目だけではなく、ユーザーがアプリを使用する際に、その意匠にどの程度関心を向けるかも考慮する必要があります。

最後に、“共通している部分”“相違している部分”がそれぞれどの程度目立つものであるかを評価した結果を踏まえて、それぞれの意匠全体を評価し、アプリ内で一般的なユーザーが見た場合に“異なる美感”を起こさせないかどうかを判断します。

つまり、デザインが「似ている」か「似ていないか」は、例えば“AI”で画像の一致度をパーセント評価して単純に判断できるようなものではなく、アプリを使用するユーザーの立場を踏まえた“人間的”な評価が必要になります。

4 意匠権侵害のリスクを完全になくすことは難しい

アプリデザインにおいて意匠権を侵害してしまうリスクを避けるための留意点は、以上のとおりです。もっとも、登録意匠をアプリ開発のたびに網羅的に調査することは現実的に難しく、また、意匠の類否について正確に判断することも高いハードルがあります。そのため、アプリデザインにおいては、意匠権侵害のリスクを完全になくすことだけではなく、万が一意匠権侵害の主張をされた場合の対応も考えておく必要があります。

第4章 意匠権侵害の主張を受けた場合における対応

1 意匠権侵害の主張に対して争う方法

意匠権侵害の主張を受けた場合に法的に争う主な方法としては、(1)意匠権侵害がない旨の反論をする方法、(2)意匠を実施する正当な権利(先使用権)があることを主張する方法、(3)意匠権について無効審判を請求する方法などがあります。

第1に、意匠権侵害がない旨の反論をする方法としては、登録意匠と類似した意匠ではないことを主張することが考えられます。もっとも、第3章で説明したとおり、意匠の類否は判断が難しいため、このような主張をやみくもに行うと、紛争の長期化を招いてしまうおそれがあります。

第2に、意匠を実施する正当な権利(先使用権)があることを主張するためには、登録意匠が出願された時点で、すでに国内で意匠を実施していたか、すぐに実施することができるように準備していたことを明らかにしなければなりません。実際には、このような事実が認められるケースは限られます。

第3に、意匠権について無効審判を請求した場合は、登録意匠が新規性や創作非容易性などの要件を満たしていないにもかかわらず誤って登録されたことを明らかにしなければなりません。もっとも、無効審判は一般にハードルが高く、多くのケースでは争い方として得策ではありません。

意匠権侵害の主張を受けた場合に法的に争うことは、明らかに理由のない主張を受けたような場合を除いては、かなりハードルが高いです。仮に争うのであれば、弁護士に相談・依頼しながら進めざるを得ず、大きなコストと期間を要します。

2 意匠権侵害の主張に対して和解的に解決する方法

以上の理由から、意匠権侵害の主張を受けた多くのケースにおいては、争うのではなく、和解的に解決していくことが得策です。

和解的に解決において重要な視点は、“アプリのデザインを変更すること”あるいは“アプリの公開を停止すること”にどの程度の不利益があるかです。

例えば、一定の収益を上げているアプリであるために“アプリの公開を停止すること”は避けたいが、“アプリのデザインを変更すること”自体は差し支えないのであれば、デザイン変更と一定の解決金の支払を条件に和解的に解決することが考えられます。

さらに、アプリの収益があまりなく、“アプリの公開を停止すること”自体もあまり支障がないのであれば、アプリの公開停止を条件に低額な解決金での和解を打診することが考えられます。

一方で、“アプリの公開を停止すること”で大きな損失の発生が見込まれ、かつ、“アプリのデザインを変更すること”も難しい(あるいは高額なコストの発生が見込まれる)場合は、一定のライセンス料を支払うことを条件にした和解を打診することも考えられます。

3 専門家に相談することの重要性

意匠権侵害の主張を受けた場合には、どのような解決策がもっとも望ましいかを検討するために、早期に弁護士に相談することをおすすめします。専門家の助言を踏まえて対応方針を早期に確定させることで、よりよい解決につなげることができます。

第5章 おわりに

当事務所では、アプリ開発にかかわる様々な法的サポートをご提供しています。アプリのデザインに関する問題のほか、利用規約やプライバシーポリシーの作成、ビジネスの適法性についてのアドバイスなど、幅広くご対応しております。


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