コラム

Webマーケティングにおける不当表示(景表法違反)の問題を弁護士が解説

弁護士 石田 優一

※このコラムは、2024年11月に開催した無料セミナーの内容をもとにしたものです。

目次

1.最近の不当表示(景表法違反)事例
(1) 大正製薬の事例(R6.11.13措置命令・ステルスマーケティング)
(2) 医療法人社団祐真会の事例(R6.6.7措置命令・ステルスマーケティング)
(3) バウムクーヘンの事例(R6.3.26課徴金納付命令・優良誤認表示)
(4) エスイーライフの事例(R6.3.5措置命令・優良誤認表示)
(5) ジェイコムウェストの事例(R6.8.7措置命令・有利誤認表示)
(6) 富士通クライアントコンピューティングの事例(R6.8.2課徴金納付命令・有利誤認表示)
2.景表法に違反したらどうなるのか?
(1) 景表法で定められている制裁
(2) 消費者庁の取り締まり
(3) 世の中の意識
3.Webマーケティングで景表法に違反しやすい理由
(1) Webページからの離脱を防ぐために「目立つ広告であること」を過剰に意識してしまう
(2) スマートフォンの普及によって表示画面が制約される
(3) チェックが甘くなってしまう傾向にある
(4) その他の要因
4.[Case]ステルスマーケティングの問題
(1) ステルスマーケティングはなぜ規制されたのか
(2) ステルスマーケティング規制の内容は?
(3) ケースの検討
5.[Case]二重価格表示の問題
(1) ライフサポートの事例(H31.3.6措置命令・有利誤認表示)
(2) 「通常価格」表示のルール
(3) 「通常価格」表示が人間の心理にもたらす効果
6.[Case]会員限定割引の問題
7.[Case]強調表示と打消し表示
(1) 強調表示と打消し表示
(2) スマートフォンの普及によって生じた問題
(3) ケースの検討
(4) [補足]フリーミアムの問題
8.[Case]おとり広告の問題
9.景表法のことでお悩みの方は

コラムのテーマ

Webマーケティングに携わるうえで避けては通れない「不当表示」(景品表示法)の問題。最近の措置命令・課徴金納付命令の事例も見ながら、どのようなことに留意しなければならないのか、弁護士の立場から詳しく解説します。

1.2024年の不当表示(景表法違反)事例

はじめに、2024年に不当表示を理由に措置命令・課徴金納付命令を受けた参考事例を、6つご紹介します。

(1) 大正製薬の事例(R6.11.13措置命令・ステルスマーケティング)

消費者庁「News Release」令和6年11月13日より引用

この事例は、大正製薬のWebサイトで紹介していたInstagramの投稿が、実際にはステルスマーケティングであった、というものです。

大正製薬は、インスタグラマーに依頼して、自社商品の広告をInstagram上に投稿してもらい、その内容を自社サイトに「あたかも一般ユーザーの感想であるかのように」掲載していました。

このような掲載行為が、ステルスマーケティング(不当表示)に該当するとして、措置命令を受けました。

(2) 医療法人社団祐真会の事例(R6.6.7措置命令・ステルスマーケティング)

この事例は、ワクチン接種のためにクリニックに来院した患者に対して、Googleクチコミで星4つ以上を付けることを条件に、割引をしていたものです。

このような割引によって患者にGoogleクチコミをさせることが、ステルスマーケティング(不当表示)に該当するとして、措置命令を受けました。

(3) バウムクーヘンの事例(R6.3.26課徴金納付命令・優良誤認表示)

消費者庁「News Release」令和6年3月26日より引用

この事例は、特定の食品を摂取するだけで犬の白内障が改善するように見せかけた表示をしていたものの、実際にはその効果が不明瞭であったというものです。

根拠の不明瞭な改善効果を表示することが、優良誤認表示(不当表示)に該当するとして、課徴金納付命令を受けました。

(4) エスイーライフの事例(R6.3.5措置命令・優良誤認表示)

消費者庁「News Release」令和6年3月5日より引用

この事例では、家庭用蓄電池のWeb広告で、「満足度第1位」「購入口コミ評判第1位」といった表示をしていたことが問題になりました。

実際には、調査対象者が実際に商品を利用した経験があるかどうかを確認していないにもかかわらず、あたかも、実際に商品の利用経験がある方のみを対象に調査したかのように誤認する表示であると評価されました。

このような理由から、優良誤認表示(不当表示)に該当するとして、措置命令を受けました。

(5) ジェイコムウェストの事例(R6.8.7措置命令・有利誤認表示)

消費者庁「News Release」令和6年8月7日より引用

この事例では、特定の条件において、大阪ガスの一般料金よりも安くなるように表示していたことが問題になりました。

実際には、特定の期間において、原材料調整単価の関係で、大阪ガスの一般料金よりも高くなるケースがあったため、有利誤認表示(不当表示)に該当するとして、措置命令を受けました。 

(6) 富士通クライアントコンピューティングの事例(R6.8.2課徴金納付命令・有利誤認表示)

消費者庁「News Release」令和6年8月2日より引用

この事例では、ECサイトにおいて、「まとめ買いキャンペーン実施中」と表示して、あたかも対象期間内に限って安価に商品を購入できるように見せかけていたことが問題になりました。

実際には、対象期間外であっても、対象期間と同様、安価に商品を購入することが可能でした。このような表示が、有利誤認表示(不当表示)に該当するとして、課徴金納付命令を受けました。 

2.景表法に違反したらどうなるのか?

さて、ここまで、Webマーケティングに関連した景表法違反事例を、6つご紹介しました。もし、景表法に違反する「不当表示」をしてしまったら、どうなるのでしょうか。

(1) 景表法で定められている制裁

景表法には、措置命令・課徴金納付命令という行政処分が規定されているほか、刑事罰も定められています。措置命令・課徴金納付命令を受けると、公表の対象になります。

a) 措置命令

措置命令とは、消費者庁から違反行為の差止めや再発防止策などを命令する制度です。措置命令に従わなければ、2年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられます。

b) 課徴金納付命令

課徴金納付命令とは、優良誤認表示や有利誤認表示に対し、(原則として売上額の3%の)課徴金の納付を命令する制度です。

c) 刑事罰

令和5年景表法改正で、優良誤認表示や有利誤認表示について、措置命令に違反しなくても、100万円以下の罰金に処せられるようになりました。

(2) 消費者庁の取り締まり

近年、消費者庁は、景表法違反について取り締まりを強化しています。最近であれば、新たに規制対象になったステルスマーケティングや、本格的な実態調査を実施した「No.1」表記などで、特に取り締まりが強化されている印象があります。

また、消費者庁は、Webサイトに「景品表示法違反被疑情報提供フォーム」という通報窓口を設置したり、相談窓口を設置したり、(業務委託して)Webの巡回パトロールを実施したりすることで、景表法違反の調査を積極的に行っています。

そのため、Webマーケティングに携わるうえで、不当表示(景表法違反)の対策は、避けては通れないものになっています。

(3) 世の中の意識

景表法違反については、消費者庁のみならず、「世間の目」も厳しくなっています。景表法違反があれば、SNSで非難・拡散されたり、不買運動が起きたりするケースも珍しくありません。

特に、措置命令・課徴金納付命令を受けたケースは、(公表の対象になるため)メディアで広く取り上げられるケースも多く、ひとたび命令を受ければ、社会的評価が大きく下がることになりかねません。

このように、景表法違反は、法的制裁だけではなく、社会的制裁のレベルも大きくなっています。

3.Webマーケティングで景表法に違反しやすい理由

Webマーケティングにおいては、不当表示(景表法違反)をしてしまいがちな理由があります。

(1) Webページからの離脱を防ぐために「目立つ広告であること」を過剰に意識してしまう

Webページは、いわゆるネットサーフィンをしている方に、「目を留めてもらいやすい」ものでなければなりません。そのため、Webマーケティングにおいては、「目立つ広告であること」が一層重視されます。

それゆえ、「効果」「No.1」「お得」「キャンペーン」といった優良誤認表示や有利誤認表示につながりうるキーワードが多用されたり、「ユーザーの声」といったステルスマーケティングにつながりうる広告手法が多用されたりする傾向にあります。

(2) スマートフォンの普及によって表示画面が制約される

最近は、「スマートフォンで表示された画面で消費者が広告からどのような印象を受けるか」も考慮する必要があります。

・最後までスクロールしないと注意書きにたどり着けない
・アコーディオンメニューの展開をしないと注意書きが表示されない
・他の表示に紛れて注意書きが分かりづらい

スマートフォンは、PCと比較して画面が小さく、縦長であることから、このような問題が生じやすいとされています。詳しくは、後ほど改めて取り上げます。

(3) チェックが甘くなってしまう傾向にある

Webページの場合、印刷物と異なって容易に修正が可能であるため、チェックが甘くなってしまう傾向にあります。また、SEO対策の観点からは、何よりも「コンテンツを迅速に掲載・更新すること」が重視されるため、十分なチェックができていない状態で、Webページを公開してしまうケースがあります。

(4) その他の要因

その他にも、様々な要因から、Webマーケティングにおいては、不当表示(景表法違反)に陥りやすい問題があります。

・料金体系が複雑すぎて、広告担当者が正確に全体を理解しきれていない
・Webマーケティングの委託先との間で十分に情報共有ができていない
・ユーザーからのアクセス分析を踏まえて、ユーザーの流入数を過度に重視した広告に走りやすい
・Webデザイナー業界において、景表法への理解が十分に浸透していない

さて、ここからは、具体的なケースを見ながら、Webマーケティングにおける不当表示の問題について、考えていきましょう。

4.[Case]ステルスマーケティングの問題

当社は、理容室を10店舗展開しています。競合との差別化を図るために、次のようなWebマーケティング戦略を検討しています。
(1) お客様へのクチコミのお願い
当社では、理容室情報掲載サイトに登録しています。同サイトでのクチコミ数を増やすために、お客様に、クチコミへの協力を呼びかけたいと思っています。
(2) 自社コーポレートサイトへの「お客様の声」の掲載
お客様が来店した際にアンケートをお渡しして、ご記入いただいた方にクーポン券をお渡しします。アンケートの一部を抜粋して、「お客様の声」として、自社コーポレートサイト上に掲載したいと考えています。
(3) 人気YouTuberへの依頼
20代~40代の男性に広く人気のあるYouTuberと契約して、魅力を話してもらう動画配信を依頼したいと思っています。

このケースでは、ステルスマーケティングに該当する広告かどうかが問題になります。

(1) ステルスマーケティングはなぜ規制されたのか

「ステルスマーケティングに関する検討会」(令和4年12月28日 ステルスマーケティングに関する検討会)

まずは、ステルスマーケティングがなぜ規制されたかについて、ご説明します。上のグラフは、ステルスマーケティング規制の検討会の資料を抜粋したものです。

インフルエンサーに対して、ステルスマーケティングを依頼された経験があるかどうかについて、約4割の方が、経験ありと回答しています。そして、依頼された経験がある方の約45%の方が、その依頼を受け入れたと回答しています。

このように、ステルスマーケティングが広告効果の高い手法として横行していた事情を踏まえて、新たに、不当表示の対象とされました。

(2) ステルスマーケティング規制の内容は?

不当表示に該当するとされるステルスマーケティングは、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(令和5年3月28日内閣府告示第19号)において、次のとおり定義されています。

a) 事業者が自己の供給する商品・サービスの取引について行う表示であること
b) 一般消費者がa)に該当する表示であることを判別することが困難であると認められること

a) 事業者が自己の供給する商品・サービスの取引について行う表示であること


「事業者が自己の供給する商品・サービスの取引について行う表示である」とは、例えば、図のようなケースをいいます。インフルエンサーがSNS上でした商品紹介は、事業者の依頼を受けたものですので、「事業者が表示したもの」に該当するわけです。

「事業者が自己の供給する商品・サービスの取引について行う表示」に該当するかどうかは、「事業者が表示内容の決定に関与した」かどうかで決定されます。例えば、次のようなケースは、「事業者が表示内容の決定に関与した」といえます。

・商品の購入者に依頼をして、レビューを書いてもらった
・よいレビューを書いてもらった購入者に、利益を供与する
・よいレビュー・悪いレビューの両方があるにもかかわらず、その中からよいレビューだけを抜粋して表示し、あたかも悪いレビューがないかのように見せかける

これらのケースは、事業者がレビューの内容の決定に事実上関与していますので、「事業者が自己の供給する商品・サービスの取引について行う表示」をしたものと評価されます。

b) 一般消費者がa)に該当する表示であることを判別することが困難であると認められること


「一般消費者がa)に該当する表示であることを判別することが困難である」かどうかは、一般消費者の立場から見て、事業者の表示ではないと誤認するようなものかどうかで判断されます。

例えば、事業者の表示であることが全く示されていなかったり、事業者の表示であることが不明瞭であったり(「※個人の感想です」と書いていたり、広告であることが分かりづらかったりするケース)、広告であることを示す記載が他の情報に紛れていたり(大量のハッシュタグの中に紛れさせているようなケース)すれば、「一般消費者がa)に該当する表示であることを判別することが困難である」といえます。

(3) ケースの検討

(1) お客様へのクチコミのお願い
当社では、理容室情報掲載サイトに登録しています。同サイトでのクチコミ数を増やすために、お客様に、クチコミへの協力を呼びかけたいと思っています。

このケースでは、単に「クチコミを増やすためにがんばっています」「よければ感想を書いてください」とお願いするだけであれば、問題はありません。

しかし、例えば、「クチコミを書いてもらえたら半額にします」「よいクチコミに選ばれたらクーポンを差し上げます」といった利益の供与まで約束すれば、レビューの内容の決定に事実上関与していることになり、ステルスマーケティングに該当します。

(2) 自社コーポレートサイトへの「お客様の声」の掲載
お客様が来店した際にアンケートをお渡しして、ご記入いただいた方にクーポン券をお渡しします。アンケートの一部を抜粋して、「お客様の声」として、自社コーポレートサイト上に掲載したいと考えています。

自社のコーポレートサイトに「お客様の声」を掲載することは、一般にはステルスマーケティングに該当しません。なぜなら、このような広告であれば、事業者が有利な内容のレビューを選別していることが、一般消費者に分かるからです。

しかし、例えば、ポータルサイトのレビューをそのまま掲載しているように見せかけるなど、その事業者が「お客様の声」を選んで掲載していることが分からないような掲載方法であれば、ステルスマーケティングに該当しえますので、注意が必要です。

(3) 人気YouTuberへの依頼
20代~40代の男性に広く人気のあるYouTuberと契約して、魅力を話してもらう動画配信を依頼したいと思っています。

YouTuberに、「この動画は広告です」と口頭・テロップで明示してもらっていれば、問題はありません。しかし、あたかも「個人の感想」であるかのように話してもらえば、ステルスマーケティングに該当します。

インフルエンサーに広告を依頼する際には、その内容を必ず確認して、ステルスマーケティングに該当する問題がないかどうかチェックするようにしてください。

5.[Case]二重価格表示の問題

当社では、毎年10月1日から12月15日までの期間、自社のECサイトで「おせち料理」の予約を受け付けています。料金設定は、次のとおりです。早期に申し込んだほうが、安く購入できるようになっています。
・10月1日~10月31日 40,000円(税別)
・11月1日~11月31日 45,000円(税別)
・12月1日~12月15日 50,000円(税別)
早期に申し込めば割引があることを示す際に、景表法上、どのようなことに気をつけなければなりませんか。

(1) ライフサポートの事例(H31.3.6措置命令・有利誤認表示)

消費者庁「News Release」平成31年3月6日より引用

まずは、このケースを考えるうえで参考になる事例をご紹介します。

この事例では、おせち料理のオンライン販売において、「歳末特別価格」「通常価格」という表現を用いていました。ただ、「通常価格」として表示したものは、最近相当期間にわたって販売された実績のない価格でした。このようないわゆる二重価格表示が、有利誤認表示に該当するとして、措置命令を受けました。

おせち料理は、販売する期間が限定されるため、「通常価格」というものが一般にありません。それにもかかわらず、普段は通常価格28,800円で販売しているかのように見せかけたことが、有利誤認表示に該当すると判断されました。

(2) 「通常価格」表示のルール

「通常価格」という表記は、原則として、「最近相当期間にわたって販売されていた実績のある価格」でなければなりません(「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」)。そして、「最近相当期間にわたって販売されていた実績のある価格」かどうかは、次のように判断されます。

高居良平著『景品表示法[第7版]』(2024年・商事法務)122頁より引用)

この図に当てはめて、「通常価格」という表記を用いて問題ないかどうかを、慎重に検討する必要があります。

(3) 「通常価格」表示が人間の心理にもたらす効果

「通常価格」表示が厳しく規制されている理由は、人間の心理に関係があります。

人間は、はじめに「ある情報」を示されると、その後に「他の情報」を示されたときに、「他の情報」の評価を、当初に示された情報(「ある情報」)と比較して行ってしまうといわれています。これを、アンカリング効果といいます。

一見すれば、「40,000円」はかなり高額ですが、はじめに「通常なら50,000円ですが・・・」という情報に触れることで、「40,000円」が安いように錯覚してしまうのです。

このように、「通常価格」表示は、消費者に誤った判断をさせるリスクがあるため、厳しく規制されています。

(4) ケースの検討

ケースの場合、「通常価格」という表記を用いれば、有利誤認表示に該当します。そこで、別の広告手法を考えなければなりません。

例えば、「12月よりも10月・11月の申込みがお得!」と比較対象を明確にしたり、各月の価格の違いをグラフで分かりやすく示したりすることで、有利誤認表示に該当せず、効果的な広告をすることができます。

6.[Case]会員限定割引の問題

当社は、オンラインで資格講座を提供しています。このサービスでは、「プレミアム会員」に登録すると、入会料・授業料が1割引になります。「プレミアム会員」には、興味のある資格や競合他社の資格講座の利用歴などを回答すれば、無料で登録することができます。「プレミアム会員料金」「通常会員料金」を並べて表示することに、景表法上の問題はありますか。

会員限定価格についても、先ほどご紹介した「通常価格」と同じ問題があります。会員限定価格については、容易に会員になることができ、非会員価格でサービスを利用する人がほとんどいないと認められる場合に、非会員価格と比較して表示すると、有利誤認表示に該当しうるとされています(「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」)。

このケースも、プレミアム会員になるためのハードルがかなり低いため、「プレミアム会員」と「通常料金価格」を並べて表示すれば、有利誤認表示に該当しえます。

このように、会員限定価格を表示する際には、有利誤認表示に該当しないように注意が必要です。

7.[Case]強調表示と打消し表示

当社では、女性向けの衣服やアクセサリを販売するECサイトを運営しています。利用者の約8割が、スマートフォンでの閲覧者です。このサービスでは、次の(1)~(3)の条件を満たすお客様に、割引クーポン(30%割引)を発行しています。
(1) 過去1年間の購入総額が30万円を超えている
(2) 過去1年間の購入点数のうち2分の1以上が衣服である(アクセサリではない)
(3) キャッシュレス決済の登録をしている
割引クーポンは、1点3万円以上の衣服を購入する場合に限って、使用することができます。
販売促進のため、ECサイト上で、「年間30万円以上の服を購入して、割引クーポン(30%割)を手に入れよう!」という広告を大きく掲載したいと考えています。

(1) 強調表示と打消し表示


「強調表示」は、消費者に対して強調したいプラス情報の表示、「打消し表示」は、その例外(通常はマイナス情報)についての表示です。強調表示ばかりが目立ってしまい、打消し表示が消費者から見逃されてしまえば、消費者が誤った判断をしてしまいます。

強調表示ばかりが目立って、打消し表示が分かりやすくされていない場合は、不当表示(優良誤認表示・有利誤認表示)に該当するとして、景表法違反となることがあります。

(2) スマートフォンの普及によって生じた問題

強調表示・打消し表示については、スマートフォンの普及によって、新たな問題が生まれました。次の資料をご覧ください。

別冊NBL No.169 大元慎二編『強調表示と打消し表示に関する景品表示法上の考え方』10頁より引用

この資料は、スマートフォンの閲覧時の傾向について、アンケート調査をしたものです。回答者の7割近くが、スマートフォンを利用している際に、「目に留まった情報だけを拾い読みする」と回答しています。

実際、スマートフォンの利用者の視線を分析した結果でも、Webページ全体の中で、真ん中に近い目立つ箇所だけが拾い読みされていることが分かります。

別冊NBL No.169 大元慎二編『強調表示と打消し表示に関する景品表示法上の考え方』27頁より引用

スマートフォンの場合、打消し表示を閲覧者が見逃してしまうリスクが高いことから、「打消し表示が閲覧者の目に留まるように配慮されているか」一層慎重に考える必要があります。

(3) ケースの検討

ケースの場合であれば、割引クーポンの発行条件や使用できないケースについて、「打消し表示」として、閲覧者の目に留まる表現を用いることが求められます。その際には、スマートフォンでの閲覧者への配慮も必要です。
例えば、次のような表示方法は、「打消し表示」が適切になされていないとして、有利誤認表示に該当すると評価されるおそれがあります。

a) 打消し表示に近い位置に目立つデザインが用いられており、打消し表示を見逃してしまうおそれがある
b) アコーディオンメニューを用いており、そのメニューを開かなければ打消し表示が見えない仕様になっている
c) 強調表示と打消し表示の位置が離れていて、画面をスクロールしないと同時に表示することができないために、関係性が分かりづらい

(4) [補足]フリーミアムの問題

フリーミアムとは、無料サービスで顧客を集めたうえで、有料オプションに誘導して利益を上げるサービスのことです。このようなサービスにおいては、「無料」を強調して顧客を大量に集めることが重視され、結果的に、有利誤認表示に陥ってしまうケースがよくあります。フリーミアムにおいては、「どこまで無料なのか」「どこからが有料なのか」が明確に示されるよう、十分に配慮しなければなりません。

8.[Case]おとり広告の問題

当社では、宝石を販売するECサイトを運営しています。このサイトでは、トップページに、各ジャンルで前月に最も売上額の多かった商品の画像を、「おすすめ商品<購入はこちら>」として大きく表示しています。そして、その画像をクリックすると、該当商品の購入ページに遷移する仕様になっています。商品が在庫切れの場合、画像をクリックすると、購入ページには遷移せずに、「在庫切れ商品です」という表示とともに、他のおすすめ商品が表示される仕様になっています。

このような広告手法は、「おとり広告」に該当するおそれがあります。「おとり広告」は、不当表示として、景表法で禁止されています。最近では、あきんどスシローの事例(R4.6.9措置命令)が、話題になりました。

「おとり広告」とは、実際には提供することができない(あるいは十分に提供することができない)商品・サービスで消費者を勧誘して、そのような商品・サービスを「おとり」に、別の商品・サービスを広告するような手法です。

ケースでは、人気商品が在庫切れであっても、トップページに「おすすめ商品<購入はこちら>」と大きく表示して消費者の勧誘に利用する手法を採っているため、「おとり広告」と評価されるおそれがあります。Webサービスを設計する際には、このような「おとり広告」と評価されないような仕様が含まれないか、ベンダーと情報共有しながら、慎重に検討することが求められます。

9.景表法のことでお悩みの方は

Webマーケティングに関連した不当表示の問題については、他にも、「No.1」表記や、「リスティング広告における不適切なキーワードの設定」など、様々なものがあります。

景表法のことでお悩みの際は、ぜひ当事務所にお問い合わせください。初めてのご相談は無料(60分)です。また、当事務所では、月1万円(税別)からスタートできる顧問プランをご用意しています。ぜひご活用を検討していただければ幸いです。

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