目次
第1章 プロンプトマーケットプレイスの最新動向
第2章 プロンプトの無断転載をどうやって防ぐか?
1 プロンプトは「著作物」として保護されるか?
2 利用規約でどのように保護するか?
第3章 不適切なプロンプトの販売行為をどうやって取り締まるか?
1 不適切なプロンプトとは?
2 不適切な回答の生成を意図したプロンプト
3 プロンプト・インジェクションなどの悪用行為を意図したプロンプト
4 販売者に対してどのような禁止事項を定めるか?
5 プロンプトがもたらすトラブルについてどのような免責条項を定めるか?
第4章 販売代金決済の仕組みをどうするか?
第5章 その他の重要な条項について
1 定義規定
2 会員登録に関する規定
3 禁止事項に関する規定
第6章 利用規約の作成のことでお困りの際は
第1章 プロンプトマーケットプレイスの最新動向
プロンプトマーケットプレイスの市場は、世界で爆発的な成長を遂げています。生成AIは、私たちの仕事や暮らしにとって日々身近な存在になっており、市場の成長は今後も加速し続けることが予想されます。
日本国内でも、プロンプトマーケットプレイスに特化したサービスが登場しています。もっとも、著名なサービスは限られており、AIベンチャーが新規参入できるチャンスは大いにあります。
このコラムでは、プロンプトマーケットプレイスを新たにリリースしようとする方に向けて、利用規約を作成する際に留意すべきポイントをご紹介します。
第2章 プロンプトの無断転載をどうやって防ぐか?
1 プロンプトは「著作物」として保護されるか?
プロンプトマーケットプレイスにおける課題の1つが、「販売されたプロンプトの無断転載をどうやって防ぐか?」です。ユーザーが、購入したプロンプトを他の場所に無断で転載することが横行すれば、サービスの信頼を大きく低下させる事態になりかねません。
プロンプトが「著作物」に該当すれば、このような無断転載について、著作権侵害に該当することを前提に、法的措置を講じることができます。しかし、プロンプトが「著作物」に該当しなければ、このような措置を講じることはできません。
一般に、著作権法で保護される「著作物」に該当するためには、「思想又は感情を創作的に表現したもの」に該当しなければなりません。
例えば、プロンプトが長文で独自の表現を交えたものであれば、「思想又は感情を創作的に表現したもの」と評価され、「著作物」該当性が肯定される余地があります。
ただ、プロンプトは、もっぱら特定の出力条件を指示することを目的として、端的な表現が用いられることが多いため、「著作物」該当性が肯定されるケースは、限定的であるように思われます。
そこで、利用規約を作成する際には、「著作物」に該当しないプロンプトが無断転載されることをどのように防ぐか、検討する必要があります。
2 利用規約でどのように保護するか?
以上のことを踏まえて、利用規約においては、少なくとも、購入したプロンプトを、第三者に提供したり、一般に公開したりすることを禁止すべきです。また、潜脱的な行為を防ぐためには、購入したプロンプトを改変したものを第三者提供・公開する行為も、あわせて禁止すべきです。
その他、プライベートな範囲を超えてプロンプトを使用する行為なども禁止すべきかどうか、検討する必要があります。
また、禁止ルールを実効化する仕組みも検討しなければなりません。プロンプトを購入したユーザーが、そのプロンプト自体や、類似するプロンプトを公開していることが発覚した場合に、ユーザーに対するサービスの利用停止措置を講じたり、販売者から金銭的補償を求めたりすることができるように、利用規約を整備する必要があります。
【参考例】
第※条(購入したプロンプトの第三者提供等の禁止)
1 ユーザーは、本サービス内で購入したプロンプトについて、次のいずれかに該当する行為をしてはなりません。
(1) 販売者が特に許諾している場合を除き、当該プロンプトを第三者に提供し、又は、公開する行為
(2) 販売者が特に許諾している場合を除き、自己又は第三者の営業活動のために、当該プロンプトを使用する行為
(3) 販売者が本サービス内で表示する利用条件に反して、当該プロンプトを使用する行為
2 ユーザーは、第1項の規定に違反した場合、次に掲げる方法で算定した額のうち最も高い額を、販売者に対して補償しなければなりません。
(1) 当該違反行為によって販売者に生じさせた損害の額
(2) 当該違反行為によって当該ユーザーが得た利益の額(当該ユーザーが第三者に得させた利益の額を含みます。)
(3) 当該違反行為によって当該プロンプトを第三者に提供した件数に、販売価格(当該ユーザーが当該プロンプトを購入した時点において、販売者が本サービス内で設定していた当該プロンプトの販売価格をいいます。)を乗じて得た額
第※条(サービスの利用停止措置)
当社は、ユーザーが本規約に違反した場合は、本サービスの利用を停止する措置を講じることがあります。当社は、これによって当該ユーザーに生じた損害について、一切の責任を負いません。
第3章 不適切なプロンプトの販売行為をどうやって取り締まるか?
1 不適切なプロンプトとは?
プロンプトマーケットプレイスの社会的信頼を維持するためには、不適切なプロンプトが販売されないように取り締まることが重要です。
不適切なプロンプトの例としては、違法コンテンツの生成を意図したプロンプトや、プロンプト・インジェクションなどの悪用行為を意図したプロンプトなどが挙げられます。
2 不適切な回答の生成を意図したプロンプト
(1) 他人の権利利益を侵害する生成物の出力を意図したプロンプト
他人の権利利益を侵害する生成物を出力することを意図したプロンプトは、法的トラブルの防止や、サービスの社会的信頼の観点から、利用規約によって明示的に禁止すべきです。
具体的には、他人の著作物と類似した生成物を出力させるプロンプトが挙げられます。
プロンプトが、他人の著作物と類似した生成物を出力させるおそれの高いものであった場合、著作権者と購入者の間でトラブルになるおそれがあります。文化審議会著作権分科会法制度小委員会令和6年3月15日「AIと著作権に関する考え方について」によれば、生成AIが他人の著作物と類似した生成物を出力した場合であっても、(依拠性が認められれば)AI利用者による著作権侵害が成立しえます。
その他、他人のプライバシーや営業秘密を侵害する生成物を出力させるプロンプトなど、他人の権利利益を侵害する生成物を出力することを意図したプロンプトは、広く販売禁止の対象とすべきです。
(2) 違法行為を助長する生成物の出力を意図したプロンプト
違法行為を助長する生成物をAIに出力させることを意図したプロンプトも、サービスの社会的信頼の観点から、利用規約によって明示的に禁止すべきです。
例えば、マルウェアその他の悪意のあるプログラムを生成する行為や、犯罪行為の遂行方法(違法薬物や爆発物の製法、不正アクセスの手法など)に関するアドバイスを提供する行為などが挙げられます。
(3) 偽情報の出力を意図したプロンプト
フェイクニュースなど、偽情報の出力を意図したプロンプトも、サービスの社会的信頼の観点から、利用規約によって明示的に禁止すべきです。
(4) 性的・暴力的コンテンツなどの生成を意図したプロンプト
性的・暴力的コンテンツなど、違法であったり、公序良俗に反していたり、あるいは、未成年者に有害であったりするようなコンテンツの生成に、AIが利用されるケースがあります。このような意図をもったプロンプトは、サービスの社会的信頼の観点から、利用規約によって明示的に禁止すべきです。
3 プロンプト・インジェクションなどの悪用行為を意図したプロンプト
プロンプト・インジェクションとは、不適切なプロンプトを入力して、AIに開発者が意図しない動作をさせる攻撃手法のことです。販売されたプロンプトが、プロンプト・インジェクションを意図したものであった場合に、購入者とトラブルになるおそれがあります。
プロンプト・インジェクションの例としては、生成AIの脆弱性を突いて入力者が使用するデバイスを不正制御したり、入力者を悪質サイトのURLに誘導したりするものが挙げられます。
4 販売者に対してどのような禁止事項を定めるか?
販売者に対しては、前述したような不適切なプロンプトの販売を禁止する事項を定めておく必要があります。また、このようなルールに違反したプロンプトについて、運営者の判断で販売停止措置を講じられることを明示しておくことも必要です。
【参考例】
第※条(販売することができないプロンプト)
1 販売者は、次のいずれかに該当するプロンプトを、本サービス内で販売することはできません。
(1) 他人の著作権その他の知的財産権を侵害する生成物を出力させるおそれのあるプロンプト
(2) 他人の著作物を複製又は翻案して出力することを明示的又は黙示的に指示するプロンプト
(3) 他人のプライバシー、営業秘密その他の権利利益を侵害する回答を出力させるおそれのあるプロンプト
(4) マルウェアその他の悪意のあるプログラムの生成を指示するプロンプト
(5) 犯罪行為その他の違法行為を助長するおそれのある回答を出力させるおそれのあるプロンプト
(6) 偽情報など、人を欺くことを意図した回答を出力させるおそれのあるプロンプト
(7) 性的・暴力的なコンテンツなど、公序良俗に反し、又は、人に不快感若しくは不安感を与えるような生成物・回答を出力させるおそれのあるプロンプト
(8) プロンプト・インジェクションなど、AIに対して開発者の意図に反する挙動を生じさせることを意図したプロンプト
(9) 販売時に本サービス内で表示した説明とは明らかに異なる趣旨の回答を出力させることを意図したプロンプト
(10) その他、法令若しくは公序良俗に反し、又は、本サービスの趣旨に適合しないプロンプト
2 当社は、第1項の規定に違反する(違反する疑いがあるものと合理的に当社が判断した場合を含みます。)プロンプトについて、販売者の承諾なく販売を停止する措置を講じることがあります。当社は、これによって販売者に生じた損害について、一切の責任を負いません。
5 プロンプトがもたらすトラブルについてどのような免責条項を定めるか?
プロンプトマーケットプレイスの運営者が、プロンプトによるトラブルを事前に阻止することは、ハードルが高いです。運営者としては、このようなトラブルに対して責任を負わない旨、当事者間での解決を原則とする旨を利用規約に明示することが望ましいです。
【参考例】
第※条(免責)
1 当社は、本サービス内で販売されたプロンプトが、第※条(販売することができないプロンプト)第1項の規定に違反しないことを保証するものではありません。
2 当社は、本サービス内で販売されたプロンプトに起因してユーザーに損害が生じた場合であっても、損害賠償責任その他一切の法的責任を負いません。本サービス内の取引において生じたトラブルは、ユーザー間で解決していただく必要があります。
第4章 販売代金決済の仕組みをどうするか?
プロンプトマーケットプレイスにおいては、販売代金決済の仕組みを検討し、正確に利用規約に盛り込むことが必要です。
通常は、購入者がクレジットカードなどで決済した販売代金を運営者がいったん預かって、それを所定のタイミングで販売者に入金する形式(入金時に、運営者は所定の手数料を差し引きます。)を採用することが多いです。販売者とトラブルにならないように、(資金決済法にも留意しながら)販売代金決済の仕組みを正確に反映しなければなりません。
【参考例】
第※条(販売代金の決済)
1 ユーザーは、本サービスに表示する方法により、クレジットカード決済で、プロンプトを購入することができます。プロンプトの販売代金は、販売者に代えて当社が受領します。
2 販売者は、当社及び当社が委託するクレジットカード決済事業者に対し、プロンプトの販売代金を受領する権限を付与します。販売者が購入者に対して販売代金を請求する権利は、当社又は当社が委託するクレジット決済事業者が当該販売代金を受領することで消滅します。
3 当社は、販売者ごとに、各月につき、クレジットカード決済を完了した販売代金の総額を計算したうえで、当社所定の決済手数料及び振込手数料を差し引いて、残額を販売者の指定した金融機関口座にお振り込みします。ただし、その残額が0円又はマイナスになる場合を除きます。
第5章 その他の重要な条項について
その他にも、プロンプトマーケットプレイスの利用規約に盛り込むべき条項は多々あります。その中から、いくつか重要なものを取り上げます。
1 定義規定
利用規約を作成するうえで重要なポイントの1つが、「用語の定義が明確にされているか」です。
プロンプトマーケットプレイスのような新規性の高いサービスの場合、関連する用語の意味がユーザーにとって不明瞭であったり、あいまいであったりすることが多いです。
そのため、サービスの内容も踏まえて、利用規約で使用する用語の意義を厳密に定義する必要があります。
2 会員登録に関する規定
プロンプトマーケットプレイスにおいては、会員登録に関するルールも重要です。特に、販売者については、不適切なプロンプトを販売するユーザーや、未成年者、過去に不正行為をしたユーザー、反社会的勢力などを排除するルールを整備しておく必要があります。
3 禁止事項に関する規定
プロンプトマーケットプレイスに限らず、プラットフォームにおいては、悪質なユーザーを排除するために、様々な禁止事項を定めておく必要があります。他社の利用規約も参考にしながら、「どういう人にはこのサービスを使ってほしくないか」という視点で、禁止ルールを整備する必要があります。
一般的に禁止事項として定める例が多いものを挙げると、次のとおりです。
(1) 運営者や他のユーザーの権利利益を侵害する行為
(2) サービスを利用して営業活動をする行為
(3) サービスへの不正アクセスやDoS攻撃など、サービスの運営を妨害する行為
(4) リバースエンジニアリング等による解析行為
(5) 他のユーザーになりすましたり、複数アカウントを取得したりする行為
第6章 利用規約の作成のことでお困りの際は
プロンプトマーケットプレイスに限らず、AI関連サービスの利用規約作成のことでお困りの際は、ぜひ「Web Lawyers」までお問い合わせください。当事務所では、これまで、多数のITスタートアップ企業から、利用規約の作成案件を承って参りました。
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