コラム

ECサイト運営者のための令和4年消費者契約法改正のポイント

弁護士 石田 優一

目次

1 令和4年消費者契約法改正の概要
2 利用規約において免責の範囲が不明確な条項が無効に(改正8条3項)
3 解約料の算定根拠を説明することが努力義務に(改正9条2項)
4 消費者の年齢や心身の状態を考慮した情報提供が努力義務に(改正3条1項2号)
5 定型約款の表示請求権に関する情報提供が努力義務に(改正3条1項3号)
6 消費者契約によって定められた消費者の解除権について情報提供が努力義務に(改正3条1項4号)
7 おわりに

1 令和4年消費者契約法改正の概要

令和4年5月に改正消費者契約法が成立し、令和5年6月1日に施行する予定です。今回のコラムでは、ECサイト運営者が押さえておくべき改正のポイントを解説します。

[ECサイト運営者にかかわる主な改正のポイント]
(a) 利用規約において免責の範囲が不明確な条項が無効に
(b) 解約料の算定根拠を説明することが努力義務に
(c) 消費者の年齢や心身の状態を考慮した情報提供が努力義務に
(d) 定型約款の表示請求権に関する情報提供が努力義務に
(e) 消費者契約によって定められた消費者の解除権について情報提供が努力義務に

2 利用規約において免責の範囲が不明確な条項が無効に(改正8条3項)

(1) 事業者の損害賠償の責任を免除する条項が無効になる場合(現行規定)

現行の消費者契約法でも、消費者との間における契約においては、次のいずれかに該当する条項は原則として無効になります(法8条1項)。

(a) 事業者の債務不履行で生じた損害の賠償責任の全部を免除する条項
(b) 事業者の故意・重過失による債務不履行で生じた損害の賠償責任の一部を免除する条項
(c) 事業者の不法行為で生じた損害の賠償責任の全部を免除する条項
(d) 事業者の故意・重過失による不法行為で生じた損害の賠償責任の一部を免除する条項

つまり、消費者との間における契約では、事業者の故意・重過失によって消費者に損害を生じさせた場合、その賠償責任の全部を免除するような条項を定めることはできません。

(2) 今回の改正について

現行法では、利用規約で次のような条項を定めていても、事業者の故意・重過失によって消費者に損害を生じさせた場合のほかは、有効な条項とされます。

第〇条 当社は、本システムの不具合によってお客様に損害を生じさせた場合であっても、5万円を超えて、お客様に損害賠償責任を負いません。

しかし、改正消費者契約法では、このような条項を定める際に、事業者の故意・重過失による場合は例外であることを明らかにしておかないと、条項自体が無効になることが定められました。改正後は、次のように修正する必要があります。

第〇条 当社は、本システムの不具合によってお客様に損害を生じさせた場合であっても、5万円を超えて、お客様に損害賠償責任を負いません。ただし、損害を生じさせた原因が当社(当社の役員・従業員を含みます。)の故意又は重過失による場合は、この限りではありません。

ECサイトの運営者は、現在公表している利用規約について問題のある条項が含まれないかチェックをしたうえで、必要に応じて改訂する必要があります。
※改訂手続については、定型約款の変更についてのルールに従う必要があります。詳しくは、“オンラインサービス利用規約にかかわる定型約款のルールについて弁護士が解説「定型約款の変更」”をご確認ください。

3 解約料の算定根拠を説明することが努力義務に(改正9条2項)

(1) 消費者が支払う解約料を定める条項が無効になる場合(現行規定)

現行の消費者契約法でも、消費者との間における契約においては、解約によって事業者に生ずべき平均的な損害額を超える解約料(損害賠償の予定及び違約金)を定める条項は、原則として無効になります(法9条1号)。

(2) 今回の改正について

改正消費者契約法では、消費者との間における契約において、解約料を請求する場合に消費者から算定根拠の説明を求められた場合に、その概要を説明する努力義務が課せられます。

算定根拠の説明において、消費者から「平均的な損害額を超えているのではないか?」との疑問を呈された場合は、なぜ平均的な損害額を超えないかについても説明する努力義務が課せられるものと考えられます。

このような説明をすることは、あくまでも努力義務とされ、説明を怠ったことが直ちに違法行為とされるものではありません。ただ、このような努力義務を尽くさなかった事情が、解約料の違法性を争われた際に裁判所から不利に評価される可能性はあります。「努力義務だから別に守らなくても問題はない」と安易に考えるのは適当ではありません。

4 消費者の年齢や心身の状態を考慮した情報提供が努力義務に(改正3条1項2号)

現行の消費者契約法では、消費者の知識や経験を考慮して消費者契約法の内容について情報提供をすることが努力義務とされています。消費者契約法の改正により、さらに、消費者の年齢や心身の状態を考慮した情報提供をすることが努力義務として課せられるようになります。

ECサイトであれば、例えば、(1)子ども/高齢者向けのサービスであれば通常よりも分かりやすい言葉で契約内容の概要をまとめる、(2)契約内容の説明について障がい者のアクセシビリティに配慮したページを設けるなどの工夫が考えられます。

このような情報提供については、あくまでも努力義務とされ、説明を怠ったことが直ちに違法行為とされるものではありません。

ただ、今回の法改正が、定型約款のみなし合意のルールとの関係(詳しくは、“オンラインサービス利用規約にかかわる定型約款のルールについて弁護士が解説「定型約款のみなし合意」”をお読みください。)で、解釈上影響する可能性はあります。例えば、利用規約が消費者にとって認識しうる形式で表示されていたかどうかが法的争点になったような場合、(1)想定されるユーザーの年齢に応じた分かりやすい説明ができていたか、(2)障がい者のアクセシビリティに配慮していたかといった事情が、現行よりも判断に影響しやすくなる可能性があります。

5 定型約款の表示請求権に関する情報提供が努力義務に(改正3条1項2号)

消費者契約法の改正により、定型約款の表示請求をどのような手続で行えばよいか、必要な情報提供をすることが努力義務として課せられるようになります。

利用規約は、一般に定型約款に該当するものと考えられますので、ユーザーが容易に内容を確認できるようにしていない場合、ユーザーからの請求があった場合にその内容を表示しなければなりません。詳しくは、“オンラインサービス利用規約にかかわる定型約款のルールについて弁護士が解説「定型約款の内容の表示」”をお読みください。

このような努力義務を尽くすためには、ECサイトの運営者は、ユーザーに対して、利用規約の開示を受けるためにどのような手続で請求すればよいのかを情報提供しなければなりません。

もっとも、ECサイトの場合、利用規約の掲載されたページへのリンクをサイト上に掲載することが一般的です。このような対応をしている場合は、そもそもユーザーからの表示請求権に応じる必要がありませんので、このような努力義務も問題にはなりません。

ECサイトの運営者としては、ユーザーが利用規約の掲載されたページに容易にたどり着けるように、分かりやすい箇所にリンクを配置するようにしておけば足ります。

6 消費者契約によって定められた消費者の解除権について情報提供が努力義務に(改正3条1項4号)

消費者契約法の改正により、契約上消費者に認められた解除権について、情報提供をすることが努力義務として課せられるようになります。もっとも、ECサイトの場合、「特定商取引法に基づく表記」などによって、契約の解除に関する事項を表示すべき義務がありますので、改正による影響は小さいものと思われます。

7 おわりに

今回の消費者契約法改正は、“努力義務”にとどめられたルールが多いことから、ECサイトの運営者に生じる影響は限定的です。

ただ、近い将来、今回は“努力義務”にとどめられたものが“義務”に改められる可能性は十分にあります。また、前述のように、「努力義務だから守らなくても構わない」という発想は、法的リスクを招きます。

今回の改正では“努力義務”にとどめられたものについても、できる限り遵守していくことが望ましいものと思います。

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