コラム

オンラインサービス利用規約にかかわる定型約款のルールについて弁護士が解説

弁護士 石田 優一

目次

第1章 利用規約と定型約款
第2章 定型約款に関する民法上のルール
1 「定型約款」とは
2 定型約款のみなし合意
3 定型約款の内容の表示
4 定型約款の変更
第3章 定型約款のルールを踏まえた利用規約の留意点
1 利用規約作成上の留意点
2 利用規約掲載上の留意点
第4章 おわりに

第1章 利用規約と定型約款

2020年4月に施行した改正民法で、「定型約款」のルールが新設されました。オンラインサービスの利用規約の多くは、「定型約款」に該当するものと考えられます。そのため、オンラインサービスを運営するうえでは、定型約款のルールについて理解しておくことが必要です。

例えば、利用規約に定めたルールをユーザーに主張するためには、民法の“定型約款のみなし合意” (民法548条の2)が成立していることを明らかにしなければなりません。また、利用規約を変更する際には、民法の“定型約款の変更” (民法548条の4)についての規律に従わなければなりません。

今回のコラムでは、定型約款のルールについて詳しく説明したうえで、オンラインサービスの利用規約を作成・掲載するうえで意識しておくべき視点を取り上げます。

第2章 定型約款に関する民法上のルール

1 「定型約款」とは

民法
第548条の2 定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)・・・定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。・・・)・・・。
2 ・・・(省略)・・・

定型約款に関する民法上のルールを確認する前に、そもそも「定型約款」とは何か、そして、オンラインサービスの利用規約の多くが「定型約款」に該当するといえるのはなぜかを説明します。

定型約款とは、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」のことです。

まず、利用規約は、オンラインサービスのユーザーと運営者、あるいは、ユーザーと他のユーザーとの間における契約関係を定めること(契約の内容とすること)を目的としたもので、運営者(特定の者)が準備した条項の集まり(総体)です。つまり、利用規約が「定型取引において」準備されたものであれば、利用規約は「定型約款」に該当することになります。

「定型取引」とは、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」のことです。

つまり、オンラインサービスの提供は、(1)不特定多数の者を相手方として行う取引であり、かつ、(2)その内容の全部又は一部が画一的であることが運営者・ユーザーの双方にとって合理的であれば、「定型取引」に該当します。

(1) 不特定多数の者を相手方として行う取引であること

「不特定多数の者を相手方として行う取引」とは、当事者の一方が、相手方の個性を重視せずに多数を対象に行う取引のことです。

定型約款のルールは、当事者の一方が、相手方に対して取引条件をそのまま受け入れるか、あるいは、取引自体をしないかの2択を迫られるような類型の取引について一定の規律を定めるものです。そのような観点から、定型約款のルールを適用する範囲を、相手方の個性を重視せずに多数を対象に行う取引に限定しています。

例えば、提携関係にある企業間でのみ利用されるオンラインプラットフォームなどは、取引条件について一般に交渉の余地があるため、「不特定多数の者を相手方として行う取引」の要件を満たさないものと考えられます。一方で、そのような例外的なケースを除けば、多くのオンラインサービスは、運営者が決めた条件に対してユーザー側が修正交渉をすることが一般に想定されないため、「不特定多数の者を相手方として行う取引」に該当するものと考えられます。

(2) 画一的であることが運営者・ユーザーの双方にとって合理的であること

「画一的であることが運営者・ユーザーの双方にとって合理的である」とは、類型的に、(運営者のみならず)ユーザーにとっても、運営者が定めた契約条件の変更を求めないことが取引上の社会通念に照らして合理的であることをいいます。

一見すれば、運営者が定めた契約条件の変更を求める機会をユーザーに与えることは、ユーザーにとってメリットがないように思えます。ただ、より広い視野で考えると、運営者が画一的に契約条件を定められるほうが、ユーザーにとってメリットになることがあります。

例えば、運営者がユーザーごとに契約条件の交渉をしなければならないとすれば、運営者は窓口対応のために多大な人的リソースを割かなければならず、サービス利用料の低価格化を実現することが困難になります。また、多数のユーザーがかかわるデジタルプラットフォームの場合、ユーザーごとに適用されるルールが異なる(例えば、ユーザーAが禁止されていることが、ユーザーBでは禁止されていないなど)と、安心してサービスを利用することができなくなります。

以上の理由から、一般的なオンラインサービス(特に、多数のユーザーがかかわるデジタルプラットフォーム)は、「画一的であることが運営者・ユーザーの双方にとって合理的である」ものであるといえます。

以上の理由から、オンラインサービスの利用規約は、一般的に、「定型約款」に該当するものといえます。

2 定型約款のみなし合意

民法
第548条の2 定型取引・・・を行うことの合意をした者は、次に掲げる場合には、定型約款・・・の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二 定型約款を準備した者・・・があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則[信義則]に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

(1) 定型約款の個別の条項に合意したとみなされる場合(みなし合意)

民法の規定によれば、定型取引を行うことの合意(定型取引合意)をした場合は、(1)定型約款を契約の内容とすることを合意するか、あるいは、(2)定型約款の準備者が定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示するか、いずれかの要件を満たすことで、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなされます(民法548条の2第1項)。

オンラインサービスの利用規約でいえば、運営者とユーザーとが、サービスの提供/利用について合意する際(ユーザー登録などが想定されます。)に、(1)利用規約に書かれていることを利用条件(契約内容)とすることに“合意”するか、あるいは、(2)運営者が利用規約に書かれていることを利用条件(契約内容)とすることをユーザーに“表示”することで、利用規約どおりの契約(合意)が成立したものとみなされます。

ここで、“合意”や“表示”について、どのようなプロセスを経ることが求められるかが問題になります。

定型約款のみなし合意は、当事者の一方が契約内容の細部まで認識していなくても当事者がその契約に拘束されることを認めるものです。このような例外的な取扱いをする以上は、当事者の一方が不測の不利益を負うことがないように、“合意”や“表示”について一定のプロセスを経ることが求められるものと考えられます。

例えば、オンラインサービスの画面の目立たない場所に利用規約を表示しておくだけでは、定型約款のみなし合意を認めるために十分なプロセスを経たとはいえません。ユーザー登録の際に利用規約を画一にユーザーがチェックするように表示方法を工夫して、ユーザーが利用規約を確実に目にする機会を確保しておくなど、ユーザーが不測の不利益を負わないように配慮することが求められます。

特に、利用規約の中にユーザーにとって大きく不利益になるような条項が含まれている場合には、ユーザーの不利益を踏まえたより一層の配慮が求められます。

(2) 定型約款の個別の条項に合意したとみなされない場合(みなし合意の例外)

例外的に、定型約款の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなされます(民法548条の2第2項)。

例えば、オンラインサービスの利用規約の中に、ユーザーの権利を制限したり、ユーザーに義務を課したりする条項が含まれていたとします。このような条項が、(1)定型取引の態様やその実情、(2)取引上の社会通念に照らして、信義則に反してユーザーの利益を一方的に害するものである場合は、その条項はみなし合意の対象から除外されて、ユーザーを拘束しないことになります。

「信義則に反して・・・利益を一方的に害する」には、次の2つの意味が含まれているとされます。

a) 不当条項
その条項がない場合と比べて、ユーザーの権利を制限したり、ユーザーの義務を課したりするもので、ユーザーに過大な不利益を与えるような条項
b) 不意打ち条項
ユーザーが契約内容に含まれていることを合理的に予測することができないような条項

民法改正のもともとの議論(中間試案)では、不当条項と不意打ち条項について、別々に規定を設ける案が示されていました。ただ、その後の議論の変遷で、不当条項と不意打ち条項の制限を一本化した規定が採用されることになりました。このような経緯から、明文規定はありませんが、みなし合意の例外は、不当条項と不意打ち条項の双方が対象になるものと考えられています。

また、(1)定型取引の態様やその実情、(2)取引上の社会通念については、問題となる条項が設けられた理由や背景、他の条項との関係(その条項はユーザーに不利であるが、他の条項がユーザーに有利であるため、全体的にはバランスが図れているなど)、オンラインサービスの特質、さらには、業界内の常識などが広く対象になると考えられます。

これらの観点を広く考慮したうえで、問題となる条項が不当条項又は不意打ち条項に該当する場合は、その条項はみなし合意の対象から除外されて、ユーザーを拘束しないことになります。

3 定型約款の内容の表示

民法
第548条の3 定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。
2 定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒んだときは、前条の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。

利用規約は、オンラインサービスの提供/利用の合意をする前、あるいは、その合意の後相当の期間内にユーザーから請求があった場合、遅滞なく、相当な方法で内容を示さなければなりません。“相当の期間”について具体的な年数は定められていませんが、立法担当者によれば、一般的な消滅時効期間を踏まえて最低でも5年程度は対応する必要があるとしています。

運営者としては、利用規約のページへのリンクをオンラインサービス上の分かりやすい場所に表示しておくことが適切な対応です。

4 定型約款の変更

民法
第548条の4 定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
2 定型約款準備者は、前項の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
3 第1項第2号の規定による定型約款の変更は、前項の効力発生時期が到来するまでに同項の規定による周知をしなければ、その効力を生じない。
4 第548条の2第2項の規定は、第1項の規定による定型約款の変更については、適用しない。

(1) 定型約款の変更についてのルール

定型約款を変更しても、次のいずれかの場合でなければ、相手方との契約内容を変更する効果は生じないものとされています(民法548条の4第1項)。

a) 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき
b) 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき

また、定型約款を変更する場合には、その変更前に、(1)定型約款を変更すること、(2)変更後の定型約款の内容、(3)定型約款の効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければなりません(民法548条の4第2項、第3項)。

(2) 利用規約の不利益変更

定型約款の変更についてのルールのとおり、利用規約の不利益変更は、無制限に行うことはできません(制限の範囲を超えた不利益変更は、変更前のユーザーを拘束しません)。

(1)変更の必要性や変更後の内容の相当性、(2)利用規約の変更をすることがあることの定めの有無やその内容、(3)その他の変更に係る事情に照らして、不利益変更が合理的なものであるといえる場合に限り、利用規約の不利益変更が認められます。

ア 変更の必要性や変更後の内容の相当性

(1)法令の改正や経済情勢の変動などの環境変化によって利用規約を変更する必要性がどの程度あるか、(2)コストなどを踏まえてユーザーから個別に同意を得ることがどの程度難しいか、(3)変更によってユーザーに生じる不利益の程度はどれくらいか、(4)変更後の利用規約の内容は不合理なものではないかといった事情が対象になります。

イ 利用規約の変更をすることがあることの定めの有無やその内容

利用規約を変更する可能性がその条項の中できちんと示されているか、さらには、利用規約を変更する場合のプロセスが具体的に示されているかといった事情が対象になります。

ウ その他の変更に係る事情

変更後の内容に拘束されることを望まないユーザーに解約の機会を与えているか、変更の効力が発生するまでの猶予期間が与えられているかといった事情が対象になります。

第3章 定型約款のルールを踏まえた利用規約の留意点

第2章で取り上げた定型約款のルールを踏まえて、利用規約の作成や掲載において運営者が留意すべきポイントを解説します。

1 利用規約作成上の留意点

(1) 不当条項や不意打ち条項を含めない

前述のとおり、利用規約の中に不当条項や不意打ち条項に該当する条項を含めると、ユーザーに対してその効力を主張することができないおそれがあります。利用規約の作成においては、それぞれの条項が不当条項や不意打ち条項に該当するおそれがないかを検証するプロセスが必要です。

不当条項や不意打ち条項に該当するおそれがあるかどうかを検証するうえで有効なのが、自社と類似したサービスの利用規約と比較することです。業界において一般的に採用される例が少ない不利益条項は、サービスの特質や業界内の常識に照らして、ユーザーに過大な不利益を与えるもの、あるいは、ユーザーが合理的に予測することができないものと評価されるおそれが高いものといえます。

また、仮に、ユーザーにとって大きく不利益な条項を入れざるを得ない場合には、その条項が適用されたユーザーを救済する仕組みも同時に採り入れるなどして、バランスを図ることも重要です。例えば、ユーザーとの間で成立した取引関係を運営者の一方的な判断で解消することができる条項を設けるのであれば、それに対する補償の仕組みを同時に採り入れることが考えられます。

(2) 利用規約の変更可能性について明文化しておく

利用規約の不利益変更が合理的なものであるかどうかの判断においては、利用規約の変更をすることがあることの定めの有無やその内容が考慮されます。それを踏まえて、利用規約では、利用規約の変更に関する明文規定を設けて、具体的なプロセスを明示しておくことが適切です。

以下に、参考例を示します。

第*条(本規約の変更)
当社は、法令の改正、社会情勢の変化、本サービスの拡充その他の事情により、本規約を変更する必要がある場合には、民法548条の4(定型約款の変更)の規定に基づいて、本規約の内容を変更することがあります。本規約を変更する場合は、あらかじめ、変更する旨、変更後の内容及び変更日を本サービスの「おしらせ」欄で告知します。変更後の本規約は、変更前に本サービスの利用を開始したユーザーにも適用されます。

2 利用規約掲載上の留意点

(1) 定型約款のみなし合意のルールを意識する

利用規約がユーザーを拘束するためには、定型約款のみなし合意が成立する必要があります。そのためには、(1)利用規約に書かれていることを利用条件(契約内容)とすることに“合意”するか、あるいは、(2)運営者が利用規約に書かれていることを利用条件(契約内容)とすることをユーザーに“表示”する必要があります。そして、“合意”や“表示”のプロセスについては、当事者の一方が不測の不利益を負うことがないように留意する必要があります。

例えば、ユーザー登録の際にユーザーに利用規約の確認を求めるのであれば、少なくとも、ユーザーが認識しやすい形で利用規約を表示することが必要です。それに加えて、ユーザーにとって不利益な条項については「重要事項説明」を設けるなどして目立つように工夫し、その内容にユーザーが目を通さなければユーザー登録を完了することができない仕様(最後までスクロールした後に完了ボタンを表示するなど)にしておくことが、望ましい対応といえます。

(2) 利用規約の全文を掲載したページへのリンクを分かりやすい位置に表示する

利用規約は、ユーザーからの請求に応じて内容を示さなければなりません。ユーザーからの個別の請求に対応することを余儀なくされるコストの発生を防ぐためには、利用規約の全文を掲載したページへのリンクを分かりやすい位置に表示しておくことが必要です。

第4章 おわりに

当事務所では、オンラインサービスの利用規約作成やレビューを承っております。また、オンラインサービスのデザイン面について法的アドバイスをご提供するサービスもございます。オンラインサービスの法務対応についてお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。

ケーススタディでわかるオンラインサービスのスタート法務

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