コラム

資格ビジネスに必要な法律知識を弁護士が解説

このコラムのテーマ

最近、「リスキリング」の流行により、資格ビジネスが注目されています。資格ビジネスを展開するうえでは、業法規制・知財保護・特商法・景表法といった様々な法的ルールへの理解が重要です。資格ビジネスを成功させるための法律知識を、弁護士の立場でご紹介します。

目次

1. リスキリング時代に注目される資格ビジネス
– (1) 資格ビジネスが注目される時代へ
– (2) 資格ビジネスに関わる法律
2. 業務独占・名称独占の業法規制
– (1) 業務独占資格
– (2) 名称独占資格
3. 資格名称の登録商標化
– (1) 資格名称の商標登録
– (2) 資格保有者に対する資格名称の使用許諾
– (3) 資格名称の不正使用者に対する法的制裁
4. 教育コンテンツの知的財産としての保護
– (1) 教育コンテンツの著作権
– (2) 教育コンテンツに含まれるアイデアの保護
5. 資格ビジネスと通信販売規制(特定商取引法)
– (1) 特定商取引法に基づく表記
– (2) 申込み前の確認画面に表示すべき事項
6. 資格ビジネスの広告標榜と不当表示規制(景品表示法)
– (1) 有資格者でなければ行えない業務であるように誤解する表示
– (2) 資格取得によって確実に利益が得られるように誤解する表示
– (3) 類似資格が存在しないように誤解する表示
7. 資格ビジネスのことは弁護士にご相談ください

コラム

1 リスキリング時代に注目される資格ビジネス

(1) 資格ビジネスが注目される時代へ

最近、企業が従業員に対してスキル獲得のための「リスキリング」(学び直し)を奨励する取組みが広がっています。従業員1人1人が個性を活かし、新たな能力を開花させることで、企業全体のビジネスを向上させる戦略です。

そのような中で、成長分野として期待されるのが、「資格ビジネス」です。資格ビジネスは、民間団体が独自の資格(いわゆる「民間資格」)を創出し、その資格に沿った専門的なノウハウを提供するビジネスです。

信頼性の高い民間資格は、企業における採用・昇進の指標として用いられるようになります。例えば、資格保有者をそのスキルに合った部署に配置したり、対外的に「肩書」として標榜することを推奨したりすることで、ビジネスの活性化につながります。

当初は民間資格であったとしても、信頼性・有用性が高まれば、国家資格として認められることもあります。国家資格化が実現すれば、さらに社会的認知度が高まり、多くの受験者を確保することができます。

(2) 資格ビジネスに関わる法律

だれからも信頼される資格ビジネスを展開するうえでは、様々な法律知識が不可欠です。

まず、資格ビジネス自体が業法規制に抵触して違法となることがあります。資格ビジネスを始める際には、その資格が業務独占・名称独占の業法規制に抵触するものでないかを吟味する必要があります。

また、資格の価値を高めるためには、その資格の名称を商標登録したり、教育コンテンツを知的財産として適切に保護したりすることも重要です。このような対策が不十分であれば、多大な時間と労力を要して確立した資格ビジネスの価値を失ってしまうおそれがあります。

さらに、資格取得のための教育をオンラインで提供する際は、特定商取引法の通信販売規制が適用されます。具体的には、特定商取引法に基づく表記が適切にされているかなどに留意が必要です。

その他、資格に関する広告標榜の際は、景品表示法に抵触しないことへの留意も必要です。景品表示法に抵触するような過剰な広告をすれば、「悪質な資格商法」のレッテルを貼られ、致命的な打撃を受けてしまいます。

このコラムでは、資格ビジネスのスタートアップを検討する方に向けて、必要な法的知識をまとめています。

2 業務独占・名称独占の業法規制

新しい資格を創設する際には、その資格の内容が業務独占・名称独占の業法規制に抵触しないかを検討しなければなりません。

(1) 業務独占資格

業務独占資格とは、その業務をすること自体を、法律によって有資格者に限定している国家資格をいいます。あたかも業務独占資格に係る業務の専門家であるかのような資格を創設することは違法行為ですので、十分に注意が必要です。

例えば、弁護士・税理士・公認会計士・弁理士・社会保険労務士・行政書士などの士業や、医師・看護師、薬剤師、旅行業務取扱管理者などが、業務独占資格に該当します。

アドバイザー系・コンサルタント系の資格は、業務独占資格と類似していることを理由に、各業法違反に問われることがありますので、十分な事前調査が必要です。

(2) 名称独占資格

名称独占資格とは、その業務を有資格者以外が特定の資格名称で行うことが禁止される国家資格をいいます。

先ほど例示した業務独占資格のほか、保健師、栄養士、公認心理士、介護福祉士、社会福祉士、情報処理安全確保支援士、マンション管理士などが、名称独占資格に該当します。

資格名称を考える際には、名称独占資格とまぎらわしいものになっていないか、吟味が必要です。

3 資格名称の登録商標化

(1) 資格名称の商標登録

資格名称については、商標登録をしておくことで、競合事業者から類似の資格名称を使用される事態を防ぎ、資格の価値を担保することができます。資格名称の使用許諾に際して遵守すべき内容を定めた規約を遵守することを条件に、資格保有者に限定して通常使用権を許諾することで、事実上の「名称独占資格」にすることができます。

商標登録の際には、どの商品・役務(サービス)の範囲を指定しておくか、指定商品・指定役務を決めなければなりません。商標法に基づいて保護される範囲は、指定商品・指定役務やその類似商品・類似役務に限定されるからです。

指定商品・指定役務を決める際は、他の資格ビジネスでどのような指定商品・指定役務が選択されているかが参考になります。もっとも、他の資格ビジネスにおける指定商品・指定役務を安易に模倣することは避け、「この資格名称がどのような場面で活かされることが想定されるか」を想像しながら指定商品・指定役務を選択することが重要です。

また、資格名称の商標登録に先立って、類似商標の有無を確認しておくことも重要です。類似商標の有無は、「J-PlatPat」サイトで調査することができます。

商標登録については、あらかじめ弁理士や商標登録を取り扱う弁護士に相談することをおすすめします。

(2) 資格保有者に対する資格名称の使用許諾

商標登録をした資格名称は、資格保有者に限定して使用を許諾するようにします。ただし、たとえ資格保有者であったとしても、無限定に資格名称の使用を許諾すると、運営者にとって望ましくない形で資格名称が使用され、資格の価値が毀損されるおそれがあります。

そのような問題を防ぐためには、資格名称の使用許諾に際して遵守すべき内容を定めた規約を作成し、資格保有者からその規約を遵守する旨の同意を得たうえで、資格名称の使用を許諾する必要があります。

資格名称の使用許諾に際して遵守すべき内容を定めた規約への同意は、資格の取得に必要な講座の申込み時点で得ておくことが適切です。仮に、講座をスタートした後に、はじめて「資格名称を使用するための条件」を示した場合、受講者から「そのような条件があるならば資格を取ろうと思わなかった」「講座を申し込む時点でなぜ教えてくれなかったのか」とクレームを受けるおそれがあります。

つまり、資格ビジネスをスタートする時点で、資格名称の使用許諾に際して遵守すべき内容を定めた規約を作成し、講座申込みの際にその規約を明示できるようにしておく必要があります。

資格名称の使用許諾に際して遵守すべき内容を定めた規約を作成する際に意識すべきポイントを、以下にまとめました。

ア 資格名称の使用を許諾する期間

「3年に1回は講習を受けなければ資格の更新ができない」など資格更新制度を設ける場合には、その更新期間に整合するように、資格名称の使用を許諾する期間を設定しなければなりません。

イ 資格名称を表示する際における遵守事項

例えば、資格名称を表示する際には、「※【資格名称】は、【運営者名】が認定する有資格者だけが使用することのできる資格名です」といった注記を求めることが考えられます。資格保有者に対してこのような注記を義務づけることで、競合事業者による類似名称の資格の登場を回避し、資格の価値が毀損されることを防ぐことができます。

その他、資格の公式ロゴを商標登録して、公式ロゴを同時に表示することを義務づける対策や、資格保有者ごとに割り当てた登録番号の表示を義務付けて、運営者の公式サイトで真正の資格保有者かどうかを検索することができる仕組みを導入する対策が考えられます。

このような創意工夫によって、資格の価値を担保することが重要です。

ウ 資格保有者としての遵守事項

資格保有者として遵守すべき規範(ルール)を定めて、その規範(ルール)を遵守することを、資格名称の使用を許諾する条件とします。仮に、資格保有者が規範(ルール)を遵守しない場合には、資格名称の使用許諾を撤回することができるようにしておけば、資格保有者の不正行為を防ぐことができます。

資格保有者として遵守すべき規範(ルール)を実効的なものにしておくことは、資格の価値を担保するうえで重要です。

資格保有者として遵守すべき規範(ルール)の例は、次のとおりです。

(a) 資格名称を悪用した詐欺行為など、資格名称を使用した不正行為を禁止する
(b) 法律上業務独占・名称独占とされる事業の専門家と誤解される表示を禁止する
(c) 資格に対する誹謗中傷行為など、資格の価値を毀損する行為を禁止する
(d) 定期的な研修受講など、資格保有者としての専門性を維持することを義務づける
(e) その他、資格名称を使用したビジネスの実施状況の報告義務など、資格の価値を担保するための協力行為を義務づける

エ 資格名称の使用許諾の撤回

規約に違反した場合や、資格の価値を毀損するような不正行為があった場合、資格取得の要件を満たしていないこと(受験時のカンニング・なりすましなど)が発覚した場合などに、資格名称の使用許諾を撤回することができる規定を入れておきます。

これにより、資格保有者による不正を防止し、資格の価値を担保することができます。

オ その他

資格名称の使用状況について報告を求められる趣旨の規定や、無資格者による資格名称の不正使用を知ったときに運営者への通知を求める趣旨の規定を設けることが考えられます。

(3) 資格名称の不正使用者に対する法的制裁

資格保有者でない人が資格名称を不正使用している場合(資格名称の使用許諾を撤回した資格保有者も含まれます)には、商標法に基づいて、差止めや損害賠償の請求をすることができます。差止めや損害賠償の請求については、弁護士への相談をおすすめします。

4 教育コンテンツの知的財産としての保護

資格ビジネスにおいては、資格取得の要件として教育講座や認定試験を受けることを義務づけることが通常です。教育講座や認定試験において提供する教育コンテンツについては、無断転載されたり、競合事業者に不正使用されたりすることを防ぐ必要があります。

(1) 教育コンテンツの著作権

教育講座や認定試験において提供する教育コンテンツの著作権は、すべて運営者に帰属することを明確にしたうえで、第三者への提供やビジネスへの転用を原則として禁止しておくことが必要です。

もっとも、資格保有者の立場からは、教育講座のテキストの内容を顧客に紹介したいことがあります。例えば、「花のコーディネートに関する資格」であれば、テキストで紹介された花の情報をそのまま顧客に伝えたいことがあります。

このようなニーズに応えるために、適切な範囲で教育講座のテキストの内容を自己のビジネスに使用することを許諾しておく必要があります。

(2) 教育コンテンツに含まれるアイデアの保護

教育コンテンツの著作権を運営者に帰属させることで、「表現」の模倣行為を防ぐことができます。もっとも、著作権制度のもとで保護されるのは「表現」に限られ、その背景にあるアイデア(考え方)は保護されません。

この点について、「花のコーディネートに関する資格」のテキストを例に説明します。例えば、「入学式において飾られる花は、※※※と△△△が全国的に多いですが、東日本と西日本では傾向に大きな違いがあります。」という説明文について、ほとんど表現を変えずに転載すれば、(適法な引用の要件を満たさない限り)著作権侵害の問題が生じます。一方で、入学式において飾られる花は※※※と△△△が全国的に多いことや、東日本と西日本では傾向に大きな違いがあることを、表現を大きく変えて説明したとしても、(あくまでもアイデアを流用したに過ぎないため)著作権侵害の問題は生じません。

教育コンテンツで紹介するアイデア自体を保護するためには、そのアイデアを「営業秘密」として位置づけたうえで、資格講座の受講者から秘密保持の誓約を受ける必要があります。

もっとも、教育コンテンツで紹介するアイデアのすべてを「営業秘密」として保護することはできません。仮に、教育コンテンツで紹介するアイデアのすべてが「営業秘密」として保護されるならば、資格保有者は、資格講座の中で学んだことを第三者に伝えられなくなってしまいます。

教育コンテンツに含まれるアイデアを保護するうえでは、「営業秘密」に該当するアイデアの範囲を、特に秘匿性の高いものに限定する工夫が必要です。

5 資格ビジネスと通信販売規制(特定商取引法)

資格講座をオンラインで提供する場合は、特定商取引法の通信販売規制が適用されます。

(1) 特定商取引法に基づく表記

資格講座を提供するWebサイトには、「特定商取引法に基づく表記」を掲載するなどの方法で、特定の事項を表示する必要があります。「特定商取引法に基づく表記」に記載すべき内容は、おおむね次のとおりです。

ア 運営者の名称・住所・電話番号
イ 代表者(又は責任者)の氏名
ウ メールアドレス(電子メール広告をする場合)
エ 資格講座の受講のために要する料金その他の費用
オ 資格講座の受講のために要する料金の支払時期・支払方法
カ 資格講座の提供を開始する時期
キ 契約不適合責任に関する特約
ク 申込みのキャンセルや契約の解除に関する事項
ケ 申込みの期限がある場合にはその期限
コ コンテンツを表示するために必要なデバイスの要件

特に、申込みのキャンセルや契約の解除については、(できればキャンセルポリシーを別途定めるなどして)適切に制限しておくことが望ましいです。特に、教育コンテンツを提供した後のキャンセルについては、厳格に制限しておく必要があります。

(2) 申込み前の確認画面に表示すべき事項

資格講座を申し込む直前の確認画面には、次の事項を表示する必要があります。

ア 資格講座として提供するサービスの分量
イ 資格講座の受講のために要する料金
ウ 資格講座の受講のために要する料金の支払時期・支払方法
エ 資格講座の提供を開始する時期
オ 申込みの期限がある場合にはその期限
カ 申込みのキャンセルや契約の解除に関する事項

6 資格ビジネスの広告標榜と不当表示規制(景品表示法)

資格ビジネスにおいては、知名度を高めるために、積極的な広告が利用される傾向にあります。それ自体は望ましいことですが、広告の内容が過剰になり、景品表示法の不当表示規制に抵触することがあります。

不当表示規制に抵触すれば、消費者庁から措置命令の対象になって公表されたり、一般消費者からSNSなどで非難されたりして、資格に対する社会的評価が大きく下がってしまうおそれがあります。

不当表示の例を、いくつかご紹介します。

(1) 有資格者でなければ行えない業務であるように誤解する表示

例えば、「※※※の業務に従事する方に必須の資格」といった表示は、有資格者でなければ行えない業務であるように誤解を招くため、不当表示に該当しえます。

(2) 資格取得によって確実に利益が得られるように誤解する表示

例えば、「この資格があれば年収がアップします」といった表示は、資格取得によって確実に収入が増加するように誤解を招くため、不当表示に該当しえます。

(3) 類似資格が存在しないように誤解する表示

例えば、類似資格が存在しているにもかかわらず、「業界唯一の資格」といった表示をすれば、不当表示に該当しえます。

その他、不当表示規制に抵触する例は様々あります。不当表示規制については、以下のコラムでも詳しくご紹介しています。

・コラム「Webマーケティングにおける不当表示(景表法違反)の問題を弁護士が解説
・コラム「ステマ(ステルスマーケティング)の景表法上の問題を弁護士が解説
・コラム「ECサイト運営者のための景品表示法のポイント1-不当表示編

7 資格ビジネスのことは弁護士にご相談ください

資格ビジネスを始めるうえでは、業法規制の検討や、規約やプライバシーポリシー、特定商取引法に基づく表記の作成など、様々な法律知識が不可欠です。資格ビジネスを始める際は、これらの分野に詳しい弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

初めてのご相談は無料(60分まで)です。資格ビジネスのスタートアップをご検討の際は、ぜひ当事務所にお問い合わせください。

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