コラム

ステマ(ステルスマーケティング)の景表法上の問題を弁護士が解説

弁護士 石田 優一

目次

第1章 ステマ(ステルスマーケティング)の問題
第2章 「ステマが不当表示として指定された」とはどういうことか
第3章 新たなステマ規制で何が変わるか
1 これまでの規制について
2 今回の規制でどう変わるか
第4章 ステマ規制についてさらに詳しく
1 ステマが規制される理由
2 ステマ規制の対象となる場合
3 表示をした主体が商品・サービスを提供する事業者自身であること
4 表示をした主体が事業者自身であると判別することが困難であること
第5章 レビュー機能のあるオンラインサービスの運営上の留意点
第6章 おわりに

第1章 ステマ(ステルスマーケティング)の問題

ステマ(ステルスマーケティング)とは、広告であることが消費者に分からない形で商品やサービスの評価を発信する広告手法のことです。最近は、クチコミやSNS上での評判を参考に商品やサービスを選択する消費者が増えており、このような広告手法が消費者に大きな影響を与えるようになっています。

ステマについては以前から社会問題となっており、クチコミサイトやSNSの運営者が自主的に規制するようになっていますが、これまでの法律では、ステマ自体をピンポイントで禁止するルールがありませんでした。そのため、ステマを広告戦略の1つとして活用する企業が多く現れ、消費者がステマに騙される被害を受ける事例が後を絶ちませんでした。

このような問題を受けて、令和5年10月から、ステマが景表法の不当表示の1つとして新たに指定されることになりました。

第2章 「ステマが不当表示として指定された」とはどういうことか

本題に入る前に、そもそも、「ステマが不当表示として指定された」とはどういう意味か、簡単に説明をします。

景品表示法は、事業者が商品やサービスを販売する際の表示について、消費者が「自分の一番ほしいものを合理的に選んで購入する行為」を阻害するように不当に誘導するようなものを規制しています。このような表示を、「不当表示」といいます。

規制対象となる「不当表示」には、(1)優良誤認表示、(2)有利誤認表示、(3)その他内閣総理大臣が指定する表示の3種類があります。

今回のステマ規制は、景品表示法自体を改正するものではなく、ステマに該当する行為を、内閣総理大臣が新たに「(3)その他内閣総理大臣が指定する表示」として指定するものです。

「不当表示」を行った事業者は、消費者庁や都道府県知事による措置命令(不当表示の事実を周知すべきことや、再発防止策を講ずべきこと、以後は不当表示をしないことなどの命令)の対象になり、公表の対象にもなります。さらに、措置命令に従わない場合、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金(あるいはその両方)に課せられます(法36条・景表法改正により条番号変更予定)。

措置命令を受けると、企業の評判を大きく下げ、大きな影響を受けるおそれがあります。何が不当表示に該当するかは、商品やサービスの広告を行うすべての企業が正確に把握しておくことが重要です。

なお、不当表示について、さらに詳しい内容は、「ECサイト運営者のための景品表示法のポイント1-不当表示編」のコラムで解説しています。

第3章 新たなステマ規制で何が変わるか

では、ステマが「不当表示」として指定されることで、何が変わるのでしょうか。次のケースをもとに説明します。

【ケース1】
X社は、ECサイトにおいてオンライン商材を販売しています。X社は、有名なインスタグラマーやYouTuberに依頼をして、インスタやYouTube上でオンライン商材の魅力を発信することを委託し、オンライン商材の売上げに応じて報酬を支払っています。インスタやYouTube上でどのような内容を発信するかについては、X社の担当者が事前に伝え、その内容をそのまま個人の感想として話すように依頼しています。

1 これまでの規制について

これまでも、優良誤認表示に該当するステマは、規制対象となっていました。

優良誤認表示とは、商品やサービスの内容について実際よりも著しく優良であることや、事実に反して同種・類似の商品やサービスを提供する他事業者のものよりも著しく優良であることを示した表示のことです。例えば、実際にはそのような効果が全くないにもかかわらず、「この空気清浄機を1台置いておけばウイルスをすべて撃退します」といった表示をすれば、優良誤認表示に該当します。

【ケース1】の場合、「講師の〇〇さんはとても話が分かりやすいので、友だちにもこの講座をおすすめしています」といった内容を、あたかも実際に講座を受講したうえでの個人の感想のように(ECサイト運営者の依頼のもとで)インスタやYouTubeの中で話し、配信した場合、優良誤認表示に該当することがあります。

ただ、このようなケースについて優良誤認表示として規制することは、現実にはハードルがあります。なぜなら、ステマの発信者が“本当は講座を受講していないこと”や“本当の感想とは別のことを話していること”は、外部からは容易に把握することができないからです。

これまでも理論上はステマを規制する方法はあったものの、現実的に規制することは難しいという課題がありました。

2 今回の規制でどう変わるか

次章で詳しく取り上げますが、今回、内閣総理大臣が、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」を不当表示の1つとして新たに指定しました。

これにより、優良誤認表示かどうかにかかわりなく、事業者が商品やサービスを販売するための表示を、あたかも一般消費者の目からそのように見えないように偽った形で行えば、不当表示に該当するようになります。要するに、ステマ(ステルスマーケティング)の手法そのものが、不当表示の対象とされたのです。

【ケース1】の場合、実際にはX社がインスタやYouTube上での情報発信を委託しているにもかかわらず、「個人の感想として」話させる手法自体が、規制対象になります。

第4章 ステマ規制についてさらに詳しく

ここからは、ステマ規制の内容について、さらに詳しく見ていきます。

一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示(令和5年3月28日内閣府告示第19号)
事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの

1 ステマが規制される理由

私たちは、商品やサービスの広告を目にしたとき、「少し大げさに書いているかも」と若干の警戒心を持ってとらえることが一般的です。しかし、ステマの場合は、それが広告であることに気づかずに見てしまうため、そのような警戒心を持つことなく、そのままその内容が真実であるように誤解してしまいます。

このような問題から、ステマについては、その内容いかんによらず、規制対象にすることになったのです。

2 ステマ規制の対象となる場合

ステマ規制の対象については、次のすべての要件を満たす場合であると整理することができます。

(1) 商品・サービスの取引について行う表示であること
(2) 一般消費者の立場から、(1)の表示をした主体が事業者自身であると判別することが困難であること
(3) (1)の表示をした主体が商品・サービスを提供する事業者自身であること

特に、(2)(3)の要件を満たすのがどのような場合かが、問題になります。説明の便宜上、(3)、(2)の順序で説明します。

3 表示をした主体が商品・サービスを提供する事業者自身であること

第三者のクチコミやSNSの投稿などが商品・サービスを提供する事業者自身のものといえるかどうかは、「事業者が表示内容の決定に関与したといえるかどうか」によって判断されます。

【ケース1】の場合、インスタグラマーやYouTuberに対して特定の内容の情報発信を依頼し、報酬を支払っていることから、事業者が表示内容の決定に関与したことは明白です。

では、次のようなケースはどうでしょうか。

【ケース2】
飲食店Xは、「SNSキャンペーン」と称して、FacebookやTwitterなどで「(新メニューについて)近隣の店舗の類似メニューよりおいしかった」情報を掲載したお客様に、新メニューを1割引で提供するサービスをスタートした。会計時に店員が投稿内容を確認したうえで、割引を適用した。

【ケース2】では、飲食店が顧客に情報掲載を依頼しているわけではなく、実際に情報を掲載するかどうかは顧客の判断に委ねられています。もっとも、1割引という対価を提示された多くの顧客は、「SNSキャンペーン」に強い関心を寄せて、投稿に協力するといえます。この場合、もはや、顧客が自主的な意思で投稿をしたとはいえません。

また、【ケース2】では、飲食店が「近隣の店舗の類似メニューよりおいしかった」情報を掲載することを割引の条件としています。投稿内容にかかわらず一律に割引を適用するのであれば「表示内容の決定に関与した」とはいえませんが、特定の内容を投稿することを割引適用の条件にする場合は、顧客が表示内容を自主的な意思で決めたとはいえません。

以上の理由から、【ケース2】においても、飲食店が顧客の行う表示内容の決定に関与しており、表示をした主体は商品・サービスを提供する事業者自身であるといえます。

その他、事業者が取引先に特定の内容のクチコミを要請して、拒否すれば今後の取引で不利になるようなことを示唆するケースなども、「表示内容の決定に関与した」といえます。

ポイントは、第三者が自主的な意思でその表示をしたといえるかどうかです。事業者と第三者の関係性を踏まえて、(自分の意思ではなく)事業者の意向どおりの表示をするような状況にあったといえるかどうかが、判断のメルクマールになります。

4 表示をした主体が事業者自身であると判別することが困難であること

この要件については、一般消費者の立場から、事業者以外の第三者が表示したものと誤認されないかどうかという視点で判断されます。

例えば、【ケース1】については、インスタグラマーやYouTuberが個人の感想としてオンライン商材を紹介することで、そのインスタグラマー・YouTuber自身の感想が表示されたものと一般消費者が誤解する懸念があります。

また、【ケース2】についても、顧客が自分のSNSアカウントで商品の感想を投稿することで、他のユーザーから、その顧客自身の感想が表示されたものと一般消費者が誤解してしまいます。

【ケース1】・【ケース2】はいずれも、「表示をした主体が事業者自身であると判別することが困難である」ケースといえます。

では、次のようなケースはどうでしょうか。

【ケース3】
飲食店Xは、なじみの顧客に依頼して、「この新メニューのパスタが最高です!」と、自分のSNSアカウントに投稿してもらった。ハッシュタグには、「#パスタ #おすすめの店 #イタリアン #ランチ #PR #おいしいお店 #●●市【お店の所在地】」と表示をしてもらった。

【ケース3】は、ハッシュタグの中に「#PR」という文字を含めることで、事業者の広告であることを示してはいます。しかし、この投稿には、その他に様々なハッシュタグが含まれており、一般消費者にとって「#PR」という文字が目立ちにくい状態になっています。これでは、一般消費者が投稿者自身の表示であると誤認する懸念が十分にあるため、「表示をした主体が事業者自身であると判別することが困難である」と評価されるおそれがあります。

「表示をした主体が事業者自身であると判別することが困難である」要件を満たさないようにするためには、それが広告表示であることがだれもが認識できるような工夫をすることが求められます。

第5章 レビュー機能のあるオンラインサービスの運営上の留意点

今回のステマ規制については、レビュー機能のあるオンラインサービスを運営する際にも留意が必要です。

レビュー機能において、ステマ規制の対象になる行為が行われた場合には、運営者の判断で容易に削除することができるように、利用規約上で禁止行為として明記しておくことが重要です。

第6章 おわりに

当事務所では、事業者向けに、景品表示法の問題についてご相談を承っております。はじめての方のご相談(60分以内)は無料で、オンラインでのご対応をしておりますので、お悩みのことがございましたら、まずはお気軽にお問い合わせください。
ケーススタディでわかるオンラインサービスのスタート法務

PAGE TOP