コラム

フリーランス法で押さえておくべきポイントを弁護士が解説(IT企業向け)

弁護士・社会保険労務士 石田 優一

※このコラムは、2024年9月に開催したIT企業向け無料セミナーの内容をもとにしたものです。

目次

1.フリーランス法はなぜできたのか?
2.フリーランス法に登場する用語
3.特定受託事業者に係る取引の適正化
4.特定受託業務従事者の就業環境の整備
5.フリーランス法に違反すると?
6.フリーランス法に関するご相談を承ります

コラムのテーマ

フリーランス人材を活用するために知っておかなければならないフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)。IT企業の皆さまに向けて、フリーランス法がなぜできたか、何がどう変わるのか、知っておくべきポイントを、ケースをまじえながらご紹介します。

1.フリーランス法はなぜできたのか?

フリーランスの働き方

日本でフリーランスを本業としている方は、約200万人といわれています(「令和4年就業構造基本調査」)。そして、そのうちおよそ半数は、IT業界に属しています(フリーランス協会「フリーランス白書2024」)。

内閣官房日本経済再生総合事務局「フリーランス実態調査結果」(令和2年5月)によれば、フリーランスの約4割が1社専属で働いており、3社以上の取引先のあるフリーランスは、約4割にとどまっています。

フリーランスを保護するための新しい法律の必要性

フリーランスは、「労働者」性が認められる例外的なケースを除いて、労働法で保護されません。ただ、実態を見れば、労働者に近い働き方をするフリーランスは少なくありません。フリーランスについても、労働者と同様に、就業環境に関して様々なリスクを抱えていることから、法的保護の必要性が議論されるようになりました。

また、フリーランスは、取引先に対して「弱い」立場にあるケースが多く、取引先からの搾取行為に対して、対等な交渉が難しいことが多いです。取引の場で一方が他方を搾取する行為に対しては、独禁法の優越的地位濫用規制や、下請法の規制が存在します。しかし、独禁法の優越的地位濫用規制については、要件該当性の判断が難しく、適用しづらい問題があります。また、下請法については、取引先の資本金が1000万円以下では適用することができない問題があります。

フリーランス法の誕生

これらの問題を踏まえて、(1)労働法の適用範囲をフリーランスに拡大すべきではないか?、そして、(2)下請法の適用範囲をフリーランスに拡大すべきではないか?という議論が生まれました。

ただ、フリーランスは、労働者と自営業者との中間的な立場にあり、労働法・下請法の趣旨がいずれも妥当するため、最終的には、2つの側面を持った新しい法律を制定することで決着しました。

このような経緯で誕生した法律が、フリーランス法(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)です。

フリーランス法の概要

フリーランス法は、下請法が参考にされたルール(第2章「取引の適正化」)と、労働法が参考にされたルール(第3章「就業環境の整備」)とで構成されます。省庁の所管についても、第2章「取引の適正化」については下請法と同じ公正取引委員会・中小企業庁、第3章「就業環境の整備」については労働法と同じ厚生労働省とされています。

具体的なルールは、次のとおりです。

第2章 取引の適正化 ← 下請法を参考に
・契約内容を書面などで明示するルール
・報酬の支払期日を先延ばしにすることを禁止するルール
・フリーランスに対する搾取行為を禁止するルール
第3章 就業環境の整備 ← 労働法を参考に
・募集情報を的確に表示するルール
・妊娠/出産/育児/介護に配慮するルール
・フリーランスに対するハラスメント防止のルール
・契約解除を予告するルール

2.フリーランス法に登場する用語

フリーランス法を正確に理解するうえでは、次の用語を正確に理解する必要があります。

・業務委託
・特定受託事業者
・特定受託業務従事者
・業務委託事業者
・特定業務委託事業者

大まかなイメージは、次のとおりです。
・特定受託事業者/特定受託業務従事者≒フリーランスの受託者
・業務委託事業者≒委託者(発注者)
・特定業務委託事業者≒フリーランスではない委託者(発注者)

業務委託

業務委託とは
・事業者が、その事業のために、物品の製造や情報成果物の作成を委託すること
・事業者が、その事業のために、役務(サービス)の提供を委託すること

適用範囲が限定される下請法とは異なり、フリーランス法は、「業務委託」といわれるものはほぼ該当します。フリーランス法は、「事業のために」フリーランスに委託する行為が広く対象となります。例えば、自社の商品販売促進のためにコンサルティングを依頼するような行為も、「業務委託」に該当します。

特定受託事業者

特定受託事業者とは
業務委託の相手方である事業者であって
a)従業員を使用しない個人
b)代表者1人以外には役員がおらず・従業員を使用しない法人

「特定受託事業者」は、おおむね案件を受託するフリーランスを指します。ただし、「特定受託事業者」には、個人事業主だけではなく、1人で法人を設立した人も含まれます。フリーランスが1人で会社を立ち上げるケースも多いため、このようなケースでもフリーランス法が適用されるように配慮されています。

なお、「従業員を使用する」とは、週所定労働時間が20時間以上で、かつ、継続31日以上雇用が見込まれる労働者を雇用することを指しますが、同居親族のみを使用する場合は除外されます。例えば、自分の家族に仕事を手伝ってもらったり、あるいは、週1、2回程度パートで働く方がいらっしゃるような場合も、「特定受託事業者」の要件は満たされます。

特定受託業務従事者

特定受託業務従事者とは
a)特定受託事業者が個人の場合・・・特定受託事業者
b)特定受託事業者が法人の場合・・・特定受託事業者の代表者

「特定受託業務従事者」とは、取引の当事者ではなく、「実際に働く人」に着目してフリーランスを定義した用語です。「第3章 就業環境の整備」の中で登場します。

業務委託事業者

業務委託事業者とは
特定受託事業者に「業務委託」をする事業者

特定受託事業者(≒フリーランス)に業務委託をする事業者、つまり、委託者(発注者)は、「業務委託事業者」に該当します。

業務委託事業者

特定業務委託事業者とは
業務委託事業者のうち
a)従業員を使用する個人
b)代表者1人以外に役員がある、あるいは、従業員を使用する法人

つまり、特定業務委託事業者とは、フリーランス(法人化した場合を含みます)ではない委託者(発注者)を意味します。

3.特定受託事業者に係る取引の適正化(第2章)

契約内容を書面などで明示するルール

フリーランス法では、フリーランスとの取引において契約内容を書面などで明示することが義務づけられています。これまで、フリーランスとの取引において、契約書や発注書が作成されず、契約内容をめぐってトラブルになるケースが多かったことから、書面などの作成が義務づけられました。

適用対象は?

業務委託事業者
特定受託事業者に対し
・業務委託をした場合

契約内容を書面などで明示する義務は、たとえ委託者がフリーランスであっても適用されます。「特定業務委託事業者」ではなく、「業務委託事業者」と定められているからです。口頭のみで取引を進めるリスクは、フリーランス間でも生じることから、フリーランス間の取引も広く対象にしています。

明示すべき事項は?
  1. 業務委託事業者・特定受託事業者の商号/氏名/名称/ID
  2. 業務委託をした日
  3. 成果物や提供する役務(サービス)の内容
  4. 成果物を受領する期日/役務の提供を受ける期日(期間)
  5. 成果物を受領する場所/役務の提供を受ける場所
  6. 成果物を検査する場合は、検査完了期日(検収期日)
  7. 報酬の額と支払期日
  8. (手形・ファクタリング・資金決済サービスで報酬を支払うとき)一定の事項

明示すべき事項は、以上のとおりです。これらの事項を記載した書面を、一般に「3条通知」といいます。

ケーススタディ1-基本編

ここからは、ケースを交えながら、検討してみたいと思います。

弁護士法人A(従業員30名)は、法律問題を題材にした動画を制作して、YouTubeに定期的にアップロードしています。弁護士法人Aは、動画制作の作業を、B社(夫が代表者・妻が取締役・従業員なし)に、1年更新契約で委託しています。B社は、動画に挿入するナレーション音声の納品を、C社(代表者のほか、役員・従業員なし)に委託しました。

さて、B社からC社に対し、次のような発注書が交付されました。こちらについて、フリーランス法に照らして不備がないか、考えてみましょう。

成果物の内容が明示されていない

まず問題になるのは、成果物の内容についてです。発注書には、「(委託内容)データの納品」と示されているのみで、具体的にどのようなデータを納品するかが示されていません。この問題を解消するために、「(委託内容)別紙仕様書のとおり」と変更したうえで、詳細な仕様内容を示した仕様書を別添することが適切です。成果物や提供する役務(サービス)の内容には、「知的財産権を譲渡するか否か」も含まれますので、その点も仕様書で明確にしています。

成果物を受領する場所が明示されていない

次の問題になるのは、成果物を受領する場所についてです。データで成果物を納品する場合は、「いつのタイミングで納品が完了したか」があいまいにならないように、成果物を受領する場所に代えて、送付先のメールアドレスなどを明示にしなければならないとされています。

ケーススタディ2-契約当初に委託内容を特定できない場合

弁護士法人A(従業員30名)は、E社(代表者のみ・他の役員や従業員なし)に特設サイトの制作を委託しました。特設サイトにおいてどのようなコンテンツを盛り込むかは、委託段階でほとんど何も決まっておらず、E社の提案を踏まえて固めていく予定です。

こちらのケースの場合、成果物の仕様について契約当初は不確定です。また、報酬額についても、作業工数が不明瞭なため、契約当初には確定しづらい状況です。

この場合は、発注段階では不確定な事項について別途協議と記載し、協議が成立した段階で改めて補充書面を作成することが認められます。補充書面には、もともとの発注書(3条通知)との対応関係が分かるように、「※月※日付発注書の内容を補充する」のように明示しておく必要があります。

電磁的方法(データ)で明示する方法

以上のような書面は、電磁的方法(データ)で交付することもできます。例えば、電子メールやチャットで送信する方法が考えられます。ただし、電磁的方法(データ)で交付した後に、書面交付の希望を受けた場合には、原則として書面交付をし直さなければなりませんので、留意が必要です。

チャットで簡易に発注したいときの基本契約書条項例

チャットで簡易に発注したいときには、あらかじめ、基本契約書を取り交わし、次のような条項を入れておくことをおすすめします。

第※条(個別契約)
1 個別契約は、発注者が受注者に対し、あらかじめ発注者と受注者との間で決定したチャットツールを用いて次の事項を通知し、それに対して受注者が承諾の回答をすることによって、成立する。
(1)発注日
(2)発注する成果物の内容
(3)納期及び検収期日
(4)報酬の額及び支払期日
(5)当該通知の中に示していない取引条件については、本契約書に記載するとおりである旨
2 受注者は、前項のチャットツールを利用することができなくなったために、同項の通知を確認することができなくなった場合は、発注者に対し、当該通知の内容を書面で交付するように求めることができる。この場合において、受注者は、書面の郵送を希望するときは、あらかじめ、発注者に送料を支払わなければならない。

[第1項]
3条通知において明示すべき事項をどのようにチャットで示すかを、明確にしました。「当該通知の中に示していない取引条件については、本契約書に記載するとおりである旨」を示すべきことを明確にして、基本契約書で示した共通事項を個々の発注で再度示すことを省略できるようにしています。
[第2項]
フリーランス側から書面交付を求められた際に、郵送料を請求しうることを示しています。このような送料負担を求めてよいかはガイドライン上不明瞭ですが、特段ガイドラインで禁止されていないことから、このような条項を盛り込みました。

報酬の支払期日を先延ばしにすることを禁止するルール

フリーランス法は、下請法を参考に、委託者が報酬の支払期日を先延ばしにすることを禁止するルールを定めています。契約書や発注書を作成する際には、報酬の支払期日がルールに違反していないか、必ずチェックしてください。

適用対象は?

特定業務委託事業者
特定受託事業者に対し
・業務委託をした場合

報酬の支払期日を先延ばしにすることを禁止するルールは、委託者がフリーランスであれば適用対象外です。フリーランスでない委託者が、フリーランスに対して業務委託をする場合には、このルールが適用されます。

どのようなルールか

[原則]:成果物の受領(役務の提供)から起算して60日ルール
成果物を受領した日(あるいは役務の提供を受けた日)から起算して60日以内、かつ、できる限り短い期間に、支払期日を定めなければなりません。

こちらのルールは、下請法と同じです。「成果物を受領した月の翌月末日払」と報酬支払期日を定める例が多いことに留意して、「60日」としているように思われます。

なお、「成果物を受領した月の翌月末日払」と定めた場合、例えば7月1日に成果物を受領すると、支払期日(8月末日)が60日を超過してしまいます。ただ、このようなケースは、例外的にルール違反としない扱いになっています。

[例外]:元委託の報酬支払期日から起算して30日ルール
元委託者からの案件をフリーランスに再委託する場合、元委託者との報酬支払期日から起算して30日以内、かつ、できる限り短い期間に、支払期日を定めればよい例外ルールがあります。ただし、この例外ルールが適用されるためには、フリーランスに対し、次の事項を明示しなければなりません。
・再委託であること
・元委託者の商号/氏名/名称/ID
・元委託者の報酬支払期日

フリーランスとの契約が再委託の場合、元委託者から報酬支払を受けるまでは、フリーランスに支払う報酬の原資を確保することが難しい場合があります。それを踏まえて、例外的に、元委託者から報酬支払を受ける期日から起算して30日以内であれば、報酬支払期日を先延ばしにできるルールが定められています。

ケーススタディで確認

弁護士法人A(従業員30名)は、法律問題を題材にした動画を制作して、YouTubeに定期的にアップロードしています。弁護士法人Aは、動画制作の作業を、B社(夫が代表者・妻が取締役・従業員なし)に、1年更新契約で委託しています。B社は、動画に挿入するナレーション音声の納品を、C社(代表者のほか、役員・従業員なし)に委託しました。弁護士法人Aは、9月10日に動画の納品を受けて、10月末日に報酬を支払います。

このケースの発注書は、次のとおりです。原則である60日ルールを適用すれば、報酬支払期日までの期間が長すぎることになります。

ただし、次のとおり明示すれば、例外ルールが適用されますので、報酬支払期日までの期間に問題はありません。

前払金の支払を検討すべき場合

元委託者から受注した案件をフリーランスに再委託する場合、元委託者から前払金の支払を受けたときは、「資材の調達その他の業務委託に係る業務の着手に必要な費用」を前払金として支払うように適切に配慮する義務があります。

具体的に、フリーランスに対する前払金の支払を検討すべきケースは、例えば、次のとおりです。

・フリーランスに動画制作を再委託する場合において、動画のBGMや効果音として使用する音楽データを、製作途中で購入する必要がある場合
・フリーランスに動画制作を再委託する場合において、動画撮影のために、機材や会場、出演者の衣装のレンタルなどが必要になる場合
・フリーランスにライティングを再委託する場合において、執筆前に遠方への取材が必要になる場合

フリーランスに対する搾取行為を禁止するルール

フリーランス法は、下請法を参考に、フリーランスに対する搾取行為を禁止するルールを定めています。内閣官房日本経済再生総合事務局「フリーランス実態調査結果」(令和2年5月)によれば、フリーランスの3割以上が、取引相手とのトラブルに対して交渉しなかったと回答しています。このような実態を踏まえて、フリーランスとの取引において、搾取行為を禁止するルールが定められています。

適用対象は?

特定業務委託事業者
特定受託事業者に対し
1月以上の期間継続して業務委託をした場合

このルールも、委託者がフリーランスであれば適用対象外です。また、スポット(単発)での契約のように、取引期間が1月に満たない場合も、対象外です。

搾取行為に該当するもの

フリーランスが禁止する搾取行為は、具体的には、次のとおりです。

a) 特定受託事業者(フリーランス)の帰責事由によらない成果物の受領拒否
b) 特定受託事業者(フリーランス)の帰責事由によらない報酬の減額
c) 特定受託事業者(フリーランス)の帰責事由によらない成果物の返品
d) 通常支払われる対価に比し著しく低い報酬額の不当な設定
e) 正当な理由によらない強制購入・役務(サービス)の強制利用
f) 経済上の利益を提供させて特定受託事業者(フリーランス)の利益を不当に害すること
g) 特定受託事業者(フリーランス)の帰責事由によらない給付内容の変更・給付のやり直しによって特定受託事業者の利益を不当に害すること

a) 成果物の受領拒否

[ケース]
A社は、フリーランスに対し、アプリの開発を委託しました。アプリが完成し、納品したところ、求めていた機能が実装されていないとの理由で、検収を不合格とされました。しかし、その機能は、もともとA社から満たすべき仕様として示されてはいないものでした。

A社は、契約後に満たすべき仕様を追加して、それを満たさないことを理由に受領を拒否しています。このような行為は、「特定受託事業者(フリーランス)の帰責事由によらない成果物の受領拒否」に該当します。

b) 報酬の減額

[ケース]
A社は、B社からアプリ開発を受注し、そのコーディング作業の一部をフリーランスCに委託しました。その後、A社から、経営不振を理由に、開発費用の値下げを求められました。それを受けて、B社は、Cに対し、報酬額を8割減額することに応じるように求めました。

元委託者から減額を求められたからといって、その不利益をフリーランスに転嫁することは、「特定受託事業者(フリーランス)の帰責事由によらない報酬の減額」に該当します。

[ケース]
A社は、動画制作をフリーランスBに委託しました。報酬を振り込む際に、振込手数料を差し引いて入金しました。振込手数料の負担者については、契約で決められていませんでした。

民法485条によれば、弁済のために発生する振込手数料は、「弁済の費用」として支払者が負担することが原則です。それにもかかわらず、契約に別段の定めがないのに、振込手数料を差し引いて報酬を支払うことは、「特定受託事業者(フリーランス)の帰責事由によらない報酬の減額」に該当します。

c) 成果物の返品

[ケース]パンフレットの印刷を発注したが、その後、商品開発プロジェクトが中止になったことを理由に、印刷物をすべて引き取らせました。

IT業界ではあまり問題になりませんが、例えば、不要になった印刷物の引き取りを求めるような行為が、「特定受託事業者(フリーランス)の帰責事由によらない成果物の返品」に該当します。

d) 通常支払われる対価に比し著しく低い報酬額の不当な設定

[ケース]
A社(従業員30名)は、フリーランスBにWebページのデザインを委託しました。その際、他の案件にも流用可能な汎用性のあるデザインも含め、通常のWeb制作の相場額で、すべて著作権を譲渡させました。

知的財産権について、特定受託事業者と十分な協議なく、一方的に安価に譲渡をさせることは、「通常支払われる対価に比し著しく低い報酬額を不当に定める」ことに該当します。本ケースのように、他の案件にも流用可能な汎用性のある成果物の著作権を譲渡させる場合は、それに見合う額の報酬設定が求められます。

[ケース]
Web制作を手がけるA社(従業員30名)は、複数のフリーランスに対して、Webページのデザインを委託しました。その際、A社は、自社以外の案件を受注するフリーランスに対して、自社の案件のみを受注するフリーランスよりも明らかに報酬額を低く設定しました。

合理的な理由がない差別的対価の設定は、「通常支払われる対価に比し著しく低い報酬額を不当に定める」ことに該当します。本ケースのように、自社に専属するかどうかで明らかに報酬額を差別すれば、「通常支払われる対価に比し著しく低い報酬額を不当に定める」ことに該当しうると考えられます。

[ケース]
A社は、B社からアプリ開発を継続的に受注しており、アプリ内で使用する画像のデザインをフリーランスCに委託していました。ある日、A社から一方的に値下げを要求されたため、その補てんのために、Cに対して、「今後の発注の際、従来よりも報酬額を8割に減額します」と通知しました。

元委託者の値下げによって生じた不利益を、一方的にフリーランスに転嫁することは、「通常支払われる対価に比し著しく低い報酬額を不当に定める」ことに該当しえます。

e) 正当な理由によらない強制購入・役務の強制利用

[ケース]
フリーランスに対して、案件を受注するための条件として、次のことを求めました。
(1) やりとりの効率化のために安価なチャットツールを導入すること
(2) 情報セキュリティに関する有料講習を受講すること

効率化を目的とした安価なチャットツールを導入するように求めることは、正当な理由が認められて、フリーランス法違反にならない場合が多いと考えられます。
一方、情報セキュリティ講習の受講義務については、注意が必要です。業務において取り扱う情報の秘密性に照らして講習費用が高額すぎる場合、正当な理由を欠くものとして、フリーランス法違反に問われるおそれがあります。

f) 経済上の利益を提供させて特定受託事業者の利益を不当に害すること

[ケース]
フリーランスのデザイナーに対し、自社と取引するための条件として、自社で採用するデザイン品質等について説明会を受講することを義務づけて、指導料を負担させています。

商品・役務の品質を担保するための指導のための経費は、本来であれば、(発注者に利益をもたらす以上)発注者において負担すべきです。それにもかかわらず、指導料をフリーランスに負担させることは、経済上の利益を提供させてフリーランスの利益を不当に害することに該当しえます。

[ケース]
フリーランスが発注者の指示どおりにデザインをする業務において、万が一、著作権侵害を第三者から主張された場合に、フリーランスが全責任を負うことを義務づけています。

発注者が指示をして制作したデザインによって知財紛争が生じた場合は、本来であれば発注者が責任を負うべきです。その負担をフリーランスに課することは、経済上の利益を提供させてフリーランスの利益を不当に害することに該当しえます。

g) 特定受託事業者の帰責事由によらない給付内容の変更・給付のやり直しによって特定受託事業者の利益を不当に害すること

[ケース]
A社(従業員30名)は、フリーランスBに、Webページの制作を委託した。A社が、途中で何度もコンテンツの追加を求めたため、Bの作業工数が当初の想定より大幅に増加しました。
そこで、A社に対して、報酬の増額を求めたが、「はじめに決めた金額で進めてほしい」と強く言われて、応じてもらえませんでした。

一定の仕様変更が生じることはやむを得ないものの、その程度が大きく、かつ、フリーランスに生じる負担を補てんする配慮も欠いていれば、フリーランス法違反に該当しえます。

[ケース]
A社(従業員30名)は、フリーランスBに、Webページの制作を委託しました。Bが完成したWebページを納品した後、A社は、「イメージに合わない」という理由で、繰り返し無償で修正対応させました。

合理的な理由なくやり直しを求める行為は、当事者間で十分に協議したうえで適切な追加費用を支払うような場合を除いて、フリーランス法違反に該当しえます。

4.特定受託業務従事者の就業環境の整備(第3章)

募集情報を的確に表示するルール

フリーランスを募集する際、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示が禁止され、かつ、正確かつ最新の内容に保つことが義務づけられています。このルールは、職業安定法がもとになっています。対象となる募集情報は、次のとおりです。

1.業務の内容
2.業務に従事する場所、期間又は時間に関する事項
3.報酬に関する事項
4.契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含みます。)に関する事項
5.特定受託事業者の募集を行う者に関する事項

妊娠/出産/育児/介護に配慮するルール

フリーランスが妊娠/出産/育児/介護を理由に通常どおり業務に従事できない場合でも、家庭と両立しながら業務を継続できるように、フリーランスの状況に応じた必要な配慮をすることが、義務づけられています。

適用対象は?

特定業務委託事業者
特定受託事業者に対し
月以上の期間継続して業務委託をした場合

委託者がフリーランスであれば適用対象外です。

また、取引の継続期間が6月に満たない場合も、対象外です。ただし、継続期間が短いことを理由に義務の対象外とされている場合も、同様の配慮をすべき「努力義務」を負います。

配慮の例

フリーランス法には、具体的にどのような配慮をすべきか明示されておらず、状況に応じた配慮を求めています。一般には、次のような取組みが、配慮に該当します。

・妊婦健診/つわり/子や介護親族の急病を理由に急に業務遂行ができなくなった場合に、時間調整の相談を受ける
・出産のために一時的に自宅を離れる必要がある(里帰り)場合に、オンラインでの業務遂行の相談を受ける
・出産や育児のために従前どおり業務を遂行することが難しくなった場合に、いわゆる時短で業務を継続できるように、取引条件の見直しの相談を受ける

このような配慮義務に違反した場合は、主に、損害賠償責任が問題になり得ると考えられます。

基本契約書の工夫

配慮義務について委託者として意識を向けていることを契約上明らかにしつつ、フリーランスとの時短などの調整を円滑に進めやすくするための工夫として、基本契約書に次のような条項を盛り込むことが考えられます。

第※条(育児介護等への配慮)
発注者は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律第13条第1項に定める「育児介護等」を理由に、本契約
に定める条件で受注者が業務の遂行を継続することが困難になった場合においては、受注者と協議のうえで、業務遂行時間
の短縮その他の条件変更を行うものとする。

フリーランスに対するハラスメント防止のルール

フリーランス法では、フリーランスに対するハラスメント問題に対応するための措置を講じることが義務づけられています。

適用対象は?

特定業務委託事業者
特定受託事業者に対し
・業務委託をした場合

委託者がフリーランスであれば適用対象外です。ハラスメント防止のルールについては、継続性のないスポット(単発)での取引にも適用されます。

対象となるハラスメント

パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、マタニティハラスメントのいずれも対象になります。

フリーランスに対するハラスメントは、様々な人が加害者となり得ます。例えば、業務指示をする担当者、検収担当者、フリーランスが応対する顧客、他のフリーランスなどが想定されます。

具体的に講ずべき措置

具体的に講ずべきハラスメント対策として、例えば、次のようなことが挙げられます。

・社内研修・パンフレットによる社内教育・啓蒙活動
・就業規則によるフリーランスへのハラスメント行為の禁止
・フリーランスのハラスメント行為に関する相談窓口の設置
・他のフリーランスによるハラスメント行為を防止するための措置
・フリーランスと密なコミュニケーションを取る機会の確保

就業規則の改定

フリーランス法の施行に伴って、従業員がフリーランスに対してハラスメント行為に至った場合に、厳正に対処しうるように、就業規則を整備することが望ましいです。就業規則の改定例は、次のとおりです。

第※条(ハラスメントの禁止)
従業員は、次のいずれかに該当する行為をしてはならない。
・・・(中略)・・・
(5) 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に定義される「特定受託事業者」に該当する者に対し、同法第14条第1項各号のいずれかに該当する言動をする行為

基本契約書の見直し

フリーランス法の施行に伴って、フリーランス同士でのハラスメント行為があった場合に、加害者との関係を解消しやすくする工夫が必要です。その点を踏まえた基本契約書の見直し例は、次のとおりです。

第※条(ハラスメントの禁止)
受注者は、自己とともに本業務を遂行する者に対し、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律第14条第1項各号のいずれかに該当する言動をしてはならない。
2 発注者は、受注者が前項の規定に違反し、是正を求めて相当の期間を経過しても改善しない場合は、本契約を催告なく即時に解除することができる。
3 発注者は、受注者が前項の規定に違反し、その程度が重大である場合は、本契約を催告なく即時に解除することができる。

契約解除を予告するルール

フリーランスが契約解除をする際に事前予告する義務が定められています。これは、労働基準法の解雇予告が参考になったルールです。

適用対象は?

特定業務委託事業者
特定受託事業者に対し
月以上の期間継続して業務委託をした場合

委託者がフリーランスであれば適用対象外です。また、取引の継続期間が6月に満たない場合も、対象外です。

概要

契約を解除したり、不更新としたりする場合には、「少なくとも30日前」に予告すべき義務があります。また、契約の解除・不更新について理由の開示を請求された場合、遅滞なく開示すべき義務があります。

例外的に即時解除できる場合/即時解除についての契約条項例

例外的に予告なしで即時に契約を解除することができる場合が、厚生労働省令で詳細に定められています。それを踏まえて作成した即時解除条項が、次のとおりです。

厚生労働省令で即時解除ができることが定められていても、契約上問題なく即時解除するためには、さらに、契約上の根拠も求められます。以下の例を参考にしていただきながら、即時解除についての契約条項を見直してください。

第※条(契約の即時解除)
発注者は、受託者が次のいずれかに該当する場合においては、本契約を催告なく即時に解除することができる。
(1) 業務委託に関連して刑法犯等に該当する行為や、これに類する行為があった場合
(2) 業務委託に関連しない刑法犯等に該当する行為や、これに類する行為があった場合であって、その行為が軽微でなく、又は継続的・断続的にされた場合
(3) 著しく委託者の名誉又は信用を失墜する行為、取引関係に悪影響を与える行為その他の委託者と受託者との信頼関係を喪失させる行為があった場合
(4) 受託者とともに業務を遂行する者に悪影響を及ぼす行為があった場合
(5) 経歴又は業務遂行能力について詐称したうえで委託者と契約した場合
(6) 契約に定められた給付又は役務を合理的な理由なく提供せず、その程度が重大である場合
(7) その他、契約に照らして不相当な行為をし、委託者が求めても改善が見られない場合
(8) その他、契約関係を即時に解消せざるを得ない程度に、重大な非行があった場合

5.フリーランス法に違反すると?

フリーランス法に基づく勧告・命令


フリーランス法違反については、行政機関による指導・助言・勧告の対象となります。勧告に従わない事業者については、命令・公表の対象となり、命令違反があれば、50万円以下の罰金が科せられます。

なお、妊娠・出産・育児・介護に対する配慮義務違反は勧告・命令の対象外、ハラスメント防止義務違反については命令の対象外(勧告・公表は対象)です。妊娠・出産・育児・介護に対する配慮義務違反やハラスメント防止義務違反については、フリーランス法の実効性が弱いため、損害賠償責任との関係が重要です。

損害賠償責任

取引先によるフリーランス法違反によって被害を受けた場合に、損害賠償責任を追及しうるかどうかが問題になります。

フリーランス法はあくまでも行政法ですので、取引先がフリーランス法に違反しても、損害賠償責任に直結するわけではありません。もっとも、例えば、次のような場合には、不法行為に基づく損害賠償責任等が問題になり得ます。

・取引先からの搾取行為によって被害を受けた場合
・取引先が妊娠・出産・育児・介護に対する配慮を欠いたために被害を受けた場合
・取引先がハラスメント対策を講じなかったためにハラスメントの被害を受けた場合

フリーランス法の施行によって、このようなケースにおいて、取引先に対する損害賠償責任を追及しやすくなると考えられます。

6.フリーランス法に関するご相談を承ります

フリーランスと取引をする企業様に向けて

フリーランス法の施行に伴い、フリーランス人材を活用する企業様は、業務委託契約書や発注プロセスの見直しを検討しなければなりません。また、フリーランス人材の積極的な活用を促進するためには、フリーランス法の理解を深める社内研修の実施など、全社的な取組みが求められます。当事務所では、フリーランス法に関して、業務委託契約書や発注プロセスの見直し支援・アドバイス、研修講師の派遣など、様々なサービスを承っています。また、継続的なサポートを希望される際は、月1万円(税別)からご利用いただける顧問サービスのご利用をおすすめします。

初めてのフリーランスの方は、弁護士との無料相談(60分)をご利用いただけます。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。

フリーランスの方に向けて

フリーランスの方には、月1万円(税別)からご利用いただける顧問サービスのご利用をおすすめします。「取引先から提示された条件が、フリーランス法に違反しているかどうかを知りたい」「取引先から受けているハラスメントについて相談したい」など、身近なトラブルを気軽に担当弁護士に相談できることが、顧問サービスをご利用いただくメリットです。

初めてのフリーランスの方は、弁護士との無料相談(60分)をご利用いただけます。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。

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