コラム

障害者差別解消法改正でWeb制作事業者が留意すべきことを弁護士が解説

【事例】
Web制作を手がけるデザインプロ社は、小学生をターゲットにした教材動画のWeb配信を手がけるマナビ社から、動画配信Webサービスの制作を1000万円で受注しました。企画段階において、デザインプロ社は、マナビ社から、想定されるサービス利用者について詳細な情報提供を受けており、同サービスにおいて、視覚障害や聴覚障害のある小学生も一定数利用が見込まれることが共通認識になっていました。しかし、デザインプロ社が最終的に納品したシステムは、仕様上、Webアクセシビリティへの対応が十分にされていませんでした。マナビ社は、デザインプロ社に対し、Webアクセシビリティ対応のための改修を無償で行うように求めましたが、デザインプロ社としては、無償対応に納得がいきません。
※この案件は、障害者差別解消法の施行後(令和6年4月以降)に受注した案件であると仮定します。

1.Web制作において求められるアクセシビリティ

Webアクセシビリティとは、利用者に障害があったとしても、Web上で提供されるコンテンツやサービスを利用することができる状態をいいます。「障害の有無にかかわらずだれもが支障なく社会生活を営むことができる」ことが重視される昨今、Webアクセシビリティへの対応の重要度が増しています。SEO対策の観点でも、Webアクセシビリティへの対応は重要視されています。

Webアクセシビリティについては、デジタル庁から、「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」という資料が公表されています。このガイドブックには、Webアクセシビリティの基礎的な考え方が示されており、「最低限、Web制作事業者が留意すべきWebアクセシビリティの程度」を考えるうえで参考になります。

このガイドブックに示されるWebアクセシビリティについて、一部ご紹介します。

(1)視覚障害のある方に配慮したWebアクセシビリティ
・自動再生をさせないようにする
・画像データについては、(alt属性を指定して)代替テキストを付けるようにする
・(マウスを使用せずに)キーボード操作によるアクセスを可能にする
・スクリーンリーダーで読み上げたときに内容を理解できるように、順序を考えて配置する
・拡大・縮小によって文字崩れが起きないようにする
(2)聴覚障害のある方に配慮したWebアクセシビリティ
・動画コンテンツに字幕を表示できるようにする

2.障害者差別解消法の改正とは

何が改正されるのか?

改正障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)が、令和6年4月に施行されます。障害者差別解消法は、障害者の権利に関する条約の締結を機に、障害者差別の防止や、障害者との共生社会の実現を目的に制定された法律です。

今回の改正で、これまでは努力義務とされてきた障害者への合理的配慮(同法第8条第2項)が、義務化されることになりました(第8条第2項改正)。

障害者差別解消法 第8条第2項
事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない(←するように努めなければならない)。

障害者への合理的配慮とは、障害者からの求めに応じ、社会的障壁の除去(バリアフリー)の実施について必要かつ合理的な配慮をすることをいいます。例えば、視覚障害者から「このサービスは目の見えない人にとって使いづらい機能があるので、このように改善してください」という求めがあった場合に、その求めに応じた改善を行うことは、障害者への合理的配慮に当たります。

事業者は、実施に伴う負担が過剰にならない範囲で、(障害者の求めに応じて)障害者への合理的配慮を行うことが義務化されます。

自発的なWebアクセシビリティが努力義務から義務へ?

今回の改正では、障害者からの求めがあった場合にバリアフリーを実施することが、努力義務から義務へと昇格したものです。障害者からの求めがなくても自発的にバリアフリーを実施することが義務化されたわけではありません。障害者から求めがないにもかかわらず、自発的なWebアクセシビリティを実施することは、義務化の対象とはなっていません。

ただし、障害者差別解消法第5条には、従前から次のような規定があります(こちらは改正なし)。

障害者差別解消法 第5条
・・・事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない。

社会的障壁の除去(バリアフリー)の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うために、事前に環境整備を行うことは、努力義務とされています。この条文自体に改正はありませんが、障害者から求めがあった場合における「社会的障壁の除去(バリアフリー)の実施についての必要かつ合理的な配慮」が義務化されたことで、(障害者が求めがあった場合に的確に実施できるように)事前に環境整備を行うことが、以前より事業者に対して強く要請されることになったと考えられます。

今回の改正は、自発的なWebアクセシビリティを実施することを義務化するものではありません。ただ、(事前の環境整備として)自発的なWebアクセシビリティを事業者が実施することを、従前よりも社会的に強く要請するものであるように思われます。

3.本事例の検討

Webアクセシビリティ対応のための改修を無償で行う法的責任は?

本事例において、Web制作事業者であるデザインプロ社が、Webアクセシビリティ対応のための改修を無償で行う法的責任を負うかどうかは、成果物がWebアクセシビリティに対応していないことが、「契約不適合」(契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡した)に当たるかどうか契約不適合責任が認められるかどうか)で決まります。

Web制作事業者とユーザーとの間で、どのような水準の成果物を納品することが合意されていたか(どのような水準を満たすことが契約上求められていたか?)を解釈して、実際の成果物がその水準を満たしていなかったものと評価されれば、無償改修の義務がWeb制作事業者に生じます。

Webアクセシビリティ対応まで契約上求められていた?

では、本事例においては、契約上、Webアクセシビリティに対応した成果物を納品することが求められていたのでしょうか。

まず、(障害者差別解消法の改正で)自発的なWebアクセシビリティを事業者が実施することを、従前よりも社会的に強く要請されるようになったことで、ユーザーが、Web制作のプロであるデザインプロ社(Web制作事業者)に対し、「Webアクセシビリティに対応すべきことは考えてくれているだろう」と、特に明示的な合意がなくても期待する状況が生じやすくなると考えられます。

本サービスは、「視覚障害や聴覚障害のある小学生も一定数利用が見込まれることが共通認識になっていた」わけですので、「視覚障害や聴覚障害のある小学生でもサービスを利用しやすいようにWebアクセシビリティに対応すること」が、ユーザー・Web制作事業者間において黙示に合意されていた(暗黙の了解になっていた)とユーザー側から主張しうるように思われます。

そして、ユーザー側からのこのような主張が認められれば、Web制作事業者(デザインプロ社)は、Webアクセシビリティ対応に無償で応じるべき法的責任(契約不適合責任)を負うことになります。

4.今回の法改正がWeb制作事業者に与えうる影響

今回の法改正は、自発的なWebアクセシビリティ対応を事業者に義務づけるものではありません。ただ、今回の法改正で、Web制作事業者がWebアクセシビリティへの対応を怠った際に、ユーザー側から法的責任を問われやすい状況になるように思われます。

Web制作事業者としては、従前よりも一層、Webアクセシビリティへの意識を高め、ユーザー側とトラブルにならないように留意することが求められます

当事務所では、Web制作事業者からのご相談に幅広く対応しております。月1万円(税別)でスタートできる顧問プランもご用意しておりますので、法的課題にお困りの際は、お気軽に当事務所までお問い合わせください。

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