コラム

デジタルプラットフォームの利用規約作成術を弁護士が解説

弁護士 石田 優一

目次

第1章 デジタルプラットフォームの利用規約はいつから作り始めるか
第2章 自分の企画と似ているオンラインサービスの利用規約を探す
第3章 そのデジタルプラットフォームはそもそも適法か
1 適法性をどうやって調べるか
2 デジタルプラットフォームで問題になりやすい法的課題
3 適法性や法的課題の判断ができない場合には
第4章 利用規約を作り始める
1 参加者の立場や権利関係を明確にするために書くべきこと
2 法的課題をクリアするために書くべきこと
3 違法・不正な行為を取り締まるために書くべきこと
第5章 利用規約を執筆する
第6章 利用規約の作成でつまずいてしまったら

第1章 デジタルプラットフォームの利用規約はいつから作り始めるか

コロナ対策としてのビジネスのオンライン化や近年のDXの流れに伴って、新しいデジタルプラットフォームを立ち上げるベンチャー企業が急増しています。デジタルプラットフォームに欠かせないのが、利用規約です。利用規約がなければ、デジタルプラットフォームで発生したトラブルにきちんと対応することができなくなり、最悪の場合、デジタルプラットフォームの存亡にかかわるようなアクシデントが起きてしまうおそれがあります。

オンラインで何らかのサービスを初めて利用する際に、利用規約とプライバシーポリシーを読んでチェックボックスで同意してクリックという流れはだれもが経験しますので、デジタルプラットフォームに利用規約が必要であることは、理解されていることと思います。とはいえ、デジタルプラットフォームの企画をスタートすると、どうしてもデザインや機能性のことに重点を置いてしまい、利用規約のことを忘れてしまいがちです。デジタルプラットフォームの構築が完了して、基本的なテストを終え、あとは運用開始という段階になって、利用規約を作っていないことに気づいて焦るというのは、決して珍しい話ではありません。

さて、本来、利用規約は、いつから作り始めればよいのでしょうか。その答えは、「デジタルプラットフォームを今から企画しよう」という段階です。もちろん、まだコーディングすらスタートしていない段階で、はじめから終わりまで一字一句作りこんだ利用規約を完成しておく必要は全くありません。

ただ、デジタルプラットフォームの企画を始めた段階で、「今の構想を仮に利用規約にまとめるならばどうすればよいだろう」と考えておくと、要件定義・設計・コーディングへと進める段階で何に気をつけなければならないのか、そもそも、デジタルプラットフォームの企画をこのまま進めてよいのかという重要な視点が見えてきます。

さて、ここからは、デジタルプラットフォームの企画を始めた段階から、利用規約をどうやって作りこんでいけばよいのかについて、説明していきたいと思います。

第2章 自分の企画と似ているオンラインサービスの利用規約を探す

まずは、これから構築していきたいデジタルプラットフォームのイメージができた段階で、そのイメージと似ているオンラインサービスを探してみてください。例えば、動画コンテンツの配信をサービス内容に含める予定であれば、動画配信サービスが該当します。ユーザー間でコミュニケーションができる仕組みを含める予定であれば、SNS事業者のサービスが該当します。決済を伴うサービスを含める予定であれば、オンラインショッピングモールやクラウドファンディングのサービスなどが該当します。構想しているデジタルプラットフォーム自体は唯一無二のものであったとしても、その機能を個別に分けて考えれば、多くの場合、世の中に何らかの類似サービスは存在しているものと思います。

次に、該当するオンラインサービスを見つけた後は、利用規約や法律に何らか関係がありそうな表示を探して、ざっと目を通してみてください。この段階で、内容を深く読み込む必要はありません。この作業を、できる限り多くのオンラインサービスで繰り返してください。

そうすると、多くのオンラインサービスでどのような事項が共通して書かれているかが、だんだんと浮かび上がってきます。特に着目すべきなのは、「どのサイトにも共通して、どうしてわざわざこんなことを書いているんだろう」と感じる記述です。大手のオンラインサービス事業者は、多くのケースにおいて、法務に精通した社内関係者や弁護士などの専門家の関与のもとで、利用規約を作りこんでいます。このような法律のプロが作った利用規約に、法的に意味のないことをダラダラと書くことは想定しがたいです。そうすると、「どのサイトにも共通して、どうしてわざわざこんなことを書いているんだろう」と感じる記述には、何か法的に意味があることが分かります。

次に、「どのサイトにも共通して、どうしてわざわざこんなことを書いているんだろう」と感じた記述に含まれるキーワードを、Google検索などでバリエーションを色々と変えながら検索してみてください。検索の際に、「法律」「適法」「違法」など法律に関係のあるワードを含めると、効果的かと思います。そうすると、これから構築していきたいデジタルプラットフォームに、どのような法律が適用される可能性があって、適法なものを構築するためにどのようなことを検討しなければならないかが、少しずつ見えてきます。

第3章 そのデジタルプラットフォームはそもそも適法か

1 適法性をどうやって調べるか

さて、次にしなければならないことは、構築しようとしているデジタルプラットフォームが、そもそも法律に違反していないかを検討しておくことです。とはいえ、「デジタルプラットフォーム 法律」といったキーワードをGoogle検索に入れても、頭の中で構想しているデジタルプラットフォームのビジネスモデルを踏まえた検索結果は出てきません。ここで、前章で説明した方法が活きています。ある程度、どのような法律問題が絡みそうか目星をつけてからスタートすると、精度の高い検討が可能になります。

できれば、このほかに、頭の中で構想しているデジタルプラットフォームに関連しているキーワードと、「法律」「適法」「違法」など法律に関係のあるワードを様々なバリエーションでGoogle検索して、何かビジネスモデルの適法性にかかわりそうな記事がないか、あわせて探してみることをおすすめします。

はじめは、記事の質の良し悪しにこだわらず、ビジネスモデルの適法性にかかわる情報が「何かないか」を調べることをおすすめします。ただ、ある程度情報が集まってきてからは、国の関係機関が公開している資料や、大学の研究者が執筆した論文、弁護士などの専門家が書いている記事に、情報集約の対象を絞っていくことが適切です。専門家が書いている記事であったとしても、様々な見解がある中の特定の見解のみが書かれているケースもしばしばありますので、様々な専門家の意見を複合的に調べることをおすすめします。詳しく調査が必要な場合には、逐条解説やコンメンタールなどの専門書を開いてみることも有益です。

2 デジタルプラットフォームで問題になりやすい法的課題

参考として、デジタルプラットフォームで問題になりやすい法的課題をいくつか挙げておきたいと思います。

(1) 独禁法の問題

デジタルプラットフォームにおいては、独禁法が問題になるケースがあります。これについて詳しくは、「デジタルプラットフォームの独禁法規制を弁護士が事例解説」で取り上げています。

(2) 知的財産法の問題

デジタルプラットフォームにおいては、アップロードされたコンテンツの著作権がだれに帰属するかや、他の利用者に対する利用許諾の範囲など、知的財産権をどのように取り扱うかが問題になります。具体的にどのような問題がからんでくるかについては、ケースバイケースですが、前章で説明した方法によってある程度問題になりそうなことに目星を付けることができます。

(3) 消費者法の問題

B to C型のデジタルプラットフォームにおいては、特定商取引法(通信販売の規制)や景品表示法(景品の上限規制など)、消費者契約法(損害賠償額の制限に対する規制など)といった消費者法がしばしば問題になります。

(4) 電気通信事業法の問題

デジタルプラットフォームにおいてSNSなどの非公開の通信サービスを導入する場合、電気通信事業法に基づく届出が必要になり、通信内容の秘密を遵守しなければならない義務が発生します。

(5) 資金決済法の問題

デジタルプラットフォームにおいて決済手段を導入する場合、資金決済法が適用される可能性があります。プリペイドポイントについては、「前払式支払手段の資金決済法対応」で、クラウドファンディングについては「令和2年資金決済法改正がクラウドファンディング事業にもたらす影響を弁護士が解説」で詳しく取り上げています。

(6) その他

その他、デジタルプラットフォームの分野により、様々な法律が適用される可能性があります。例えば、仕事依頼のマッチングサービスであれば職業安定法、自動車送迎マッチングサービスであれば道路運送法が問題になる可能性があります。

3 適法性や法的課題の判断ができない場合には

以上が、デジタルプラットフォームの適法性や法的課題を検討する1つの方策です。ただ、複雑なデジタルプラットフォームや、類似サービスの少ないデジタルプラットフォームの場合、そもそもどのような法律が適用される可能性があるのか自体を検討することにハードルがあります。また、たとえ、適用される可能性のある法律が明らかになったとしても、具体的にどのような法的課題をクリアしなければならないかを検討するには、専門的な法律知識と調査の労力が必要になります。適法性の検討につまずいた場合や、ご自身での調査に限界を感じられた場合には、お早めに弁護士に相談されることをおすすめいたします。

第4章 利用規約を作り始める

さて、デジタルプラットフォームの適法性や法的課題を検討し終えた後は、利用規約の作成に着手していきます。まずは、利用規約を書き始めるのではなく、どのようなことを書くのかを項目立てするところからスタートします。利用規約に盛り込む項目を検討するうえで意識すべき視点は、次のとおりです。

1 参加者の立場や権利関係を明確にするために書くべきこと

デジタルプラットフォームは、参加者の利害関係が複雑なものになるケースがしばしばあります。このようなタイプのデジタルプラットフォームは、いわば「小さな社会」が形成されているといっても過言ではありません。

国には法律があるように、「小さな社会」であるデジタルプラットフォームにも、それぞれの立場や権利関係を明確にしたルールがなければなりません。そういったものがなければ、各参加者は、「このプラットフォームで何ができて何ができないのか」「もしトラブルが起きたらどのように解決していくのか」といったことが分かりません。いわば、「無法地帯」のようになってしまいます。

まずは、利用規約の中で、どのような立場の参加者が想定されていて、それぞれの参加者がどのような権利を持っていて、デジタルプラットフォームの中で何ができるのかということを、明確に記載しなければなりません。

2 法的課題をクリアするために書くべきこと

ビジネスモデルの中には、ある方法を採用すると違法だが、別のある方法を採用すると適法というケースがしばしばあります。

例えば、決済代行の仕組みを導入する際には、ある仕組みを採用すると資金決済法上の登録が必要、別の仕組みを採用すると資金決済法上の登録が不要という線引きがあります。詳しくは、「令和2年資金決済法改正がクラウドファンディング事業にもたらす影響を弁護士が解説」をお読みください。

また、自動車送迎マッチングサービスであれば、実費を超えた報酬の支払を利用規約で禁止しておかなければ、道路運送法で禁止される「自家型自動車による有償運送」を仲介してしまうことになりかねません。

このように、デジタルプラットフォームに法的課題がある場合には、その課題を利用規約の工夫によってクリアすることができるかを検討しなければなりません。

もし、利用規約の工夫によって課題を克服することができないのであれば、そもそもデジタルプラットフォームの企画や仕様から見直していかなければなりません。「デジタルプラットフォームを今から企画しよう」という段階から利用規約を作り始めてくださいというのは、ここに理由があります。

3 違法・不正な行為を取り締まるために書くべきこと

先ほど、デジタルプラットフォームは、いわば「小さな社会」であるという説明をしました。デジタルプラットフォームが「小さな社会」であるならば、その運営事業者は「小さな国家」の立場にあります。「小さな国家」は、「小さな社会」で問題のある行動が起きないように監視しつつ、問題のある行動がある場合には、それをいち早く取り締まって秩序を維持しなければなりません。

デジタルプラットフォームでは、利用規約が「刑罰法令」のような役目を果たします。国家が刑罰法令に書かれていない理由で人を処罰することができない(罪刑法定主義)ように、デジタルプラットフォームも、利用規約に書かれていない理由で制裁を課することはできません。そのような行為は、参加者に予測することのできない一方的な不利益を課するものとして、独禁法上問題がある行為と評価されたり、参加者としての地位を不当にはく奪したとして損害賠償請求の対象になったりするおそれがあるためです。

とはいえ、デジタルプラットフォームにおいて違法・不正な行為が行われているにもかかわらずそれを放置していては、デジタルプラットフォームの信頼を維持することはできません。さらにいえば、違法な行為を認識しながら適切な対応をせずに放置していると、運営事業者自身が被害者から損害賠償請求を受けるおそれすらあります。

このような問題が起きないようにするためには、あらかじめ利用規約の中で想定される違法・不正な行為を網羅的に禁止する規定を設けて、違反者に対して退会命令や利用停止など適切な措置を講じることができる規定を整備しておく必要があります。

では、違法・不正な行為を網羅するために、何を参照すればよいでしょうか。ここで参考にしていただくとよいのが、第2章で説明したステップで調査した類似サービスの利用規約です。類似サービスの利用規約で禁止事項として明記されていることは、その業界で過去にトラブルになった事例である可能性が高いことから、大いに参考になります。もっとも、ただ他社の利用規約をコピペするのでは不十分であり、あくまでも他社の利用規約は参考にとどめて、自社のサービスに合った禁止事項を独自に考える必要があります。

第5章 利用規約を執筆する

利用規約で何を書くべきか項目立てが終わった後は、執筆作業が始まります。ここでは、あえて「執筆」という言葉を使いました。利用規約は、それを読んだ人が「そういう意味か」と納得できるものでなければなりません。「どういう意味だろう」「言葉が入ってこない」と思われてしまう利用規約は、「よくできた利用規約」とはいえません。そのような意味で、「よくできた利用規約」を文章化する作業は、まさに「執筆」であると思います。

とはいえ、いきなり利用規約を執筆していこうとしても、具体的に何をどのように書いていけばよいのかが分かりません。そこで、参考にしていただくとよいのが、第2章で説明したステップで調査した類似サービスの利用規約です。様々な利用規約を参考に、どのような表現をすることが読み手に正確に伝わるのかを事前に学んでおくと、「執筆」がよりスムーズになると思います。

ただし、たとえ大手事業者の利用規約であったとしても、その事業者の主な拠点が海外にある場合は、要注意です。なぜなら、そういった事業者の利用規約は、外国語版の利用規約を逐語訳したようなものが多く、「大変読みづらい」ものになっているケースが多々あるからです。類似サービスがこういったものしかない場合には、類似サービス以外のデジタルプラットフォーム事業者で国内に拠点があるものの利用規約も合わせて参考にすることをおすすめします。

また、利用規約を「執筆」するうえで大切なことは、言葉の定義をはっきりさせることです。例えば、「一般ユーザーは掲示板への投稿と他のユーザーとのマッチングをすることができます」と書いた場合、「一般ユーザー」とはだれのことなのか、「掲示板」とは何か、「マッチング」とはどのような機能なのかといったことが定義されていないと、だれが何の機能を利用することができるのかが不明瞭になります。「コンテンツ」という言葉の1つをとっても、「コンテンツ」とは一体何なのか、人によって解釈はまちまちです。自社のデジタルプラットフォームのことを一度も使ったことがない第三者に、利用規約を自分と同じように理解してもらえるのか、慎重に検討しなければなりません。

第6章 利用規約の作成でつまずいてしまったら

利用規約の作成術は以上のとおりですが、実際に作業を進めていくと、「検討が進まない」「検討内容に不足がないかが心配」という様々な問題が発生してくると思います。このような問題にぶつかった際には、早期に弁護士に相談することをおすすめします。利用規約の作成のことで悩みすぎてデジタルプラットフォームの企画自体が進められないのでは、まさに本末転倒です。利用規約についての悩みを弁護士への相談を通じて早期に解決し、本来取り組むべき課題にいち早く立ち返ることが、もっとも望ましい姿であると思います。

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