コラム

テレワークの勤怠管理と就業規則見直しについて弁護士が解説

弁護士 石田 優一

※このコラムは、令和2年6月18日に開催したWebセミナーの内容を、コラム向けにアレンジしたものです。

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第1章 はじめに

この度の新型コロナウイルス感染拡大や緊急事態宣言の影響により、「テレワーク」という言葉が大きく注目されるようになりました。

令和2年5月終わりから同年6月初めにかけて実施された東京商工会議所の調査によれば、東京23区の中小企業でのテレワークの実施率は、約67%を上回り、令和2年3月時点の約2倍にまで増加しているということです。ただ、従業員の数が少ない企業ほどテレワークの実施率が低い傾向にあり、その理由として多かったのが、「在宅での労務管理など社内の体制が整っていない」ことであったそうです。

新型コロナウイルスは決して終息したわけではなく、今でも、新たな感染者が発生している状況です。新規感染者の完全ゼロ、そして、終息へとつなげていくためには、企業1社1社のテレワーク活用が重要な意味を持ちます。

また、テレワークの活用には、新型コロナウイルスの感染拡大予防以外にも、様々な効果があります。もともと、テレワークが奨励されてきた大きな理由は、育児や介護といったワークライフバランスの実現がありました。

今回のコラムでは、テレワークを進めるうえで障壁となる労務管理をテーマに、お話ししたいと思います。なお、テレワークにはサテライトオフィスや出張先での勤務なども広義では含まれますが、コラムでは、主に在宅勤務について取り上げます。

第2章 テレワークでありがちな従業員の「5つの不満」

この度の新型コロナウイルス感染拡大や緊急事態宣言を踏まえて、テレワークを導入してみたものの、うまくいかないと感じている企業は多いのではないかと思います。

ここで、テレワークを導入した際に、従業員から漏れ聞こえがちな、「5つの不満」をご紹介します。まずは、テレワークにありがちな不満を知り、その対策を検討する姿勢が大切です。

1 テレワークの必要性がわからない

これまでテレワークを経験したことのなかった方が、「テレワークがなぜ必要なのか」という意識をお持ちになるケースは多いのではないかと思います。このような意識が根強いままでは、「ただちにテレワーク導入を進める必要はないのでは」という方向に会社の意見が流れ、テレワークがなかなか浸透しません。

2 毎日の事前申請や終了報告が面倒

テレワークに対して消極的な従業員から多い意見は、「テレワークを始める前の事前申請や終了報告がめんどくさい」ということです。

日本テレワーク協会は、テレワークの推進に取り組んだ企業に対し、毎年「テレワーク推進賞」を授与しています。これまで受賞企業の取組みの中で多く見られたものの1つが、事前申請や終了報告の簡素化でした。

3 テレワークでは仕事があまり進まない

テレワークは仕事を進められないから、オフィスワークにせざるを得ないという声も、テレワーク導入に対する消極的な意見の中で多いものです。

「資料が必要なときに手元にその資料がない」「他のメンバーに気軽に声をかけられない」といった、様々な要因が考えられます。

4 テレワークをとりすぎると出世できなくならないかが心配

実施にテレワークの利用が出世に影響するかどうかは分からないにもかかわらず、このような不安を抱く方は意外に多くいらっしゃいます。経営者側には、テレワークを積極的に推奨し、そのような不安感を払しょくすることが求められます。

5 ずっと家で仕事をしているとだんだんと体調が悪くなってくる

テレワークは、オフィスワークとは異なり、健康管理が「自己管理」に委ねられがちです。そのため、テレワークが長期化すると、体調不良を起こしてしまうことがあります。

その要因や対処法については、後ほど詳しく説明します。

第3章 テレワーク導入に伴う「5つの不満」解消法

1 「テレワークの必要性がわからない」を解消

「テレワークの必要性がわからない」を解消するためには、経営者の方が、「そもそもテレワークを何のために導入するか」について明確な理念を掲げることが重要です。

ここで、テレワーク導入のメリットを、大きく3つの観点からご紹介します。

(1) BCP(事業継続計画)の観点から

テレワークは、感染症のまん延や大地震といった緊急事態の発生時にビジネスを継続するために、重要な役割を果たします。いつ何時に発生するかが分からない緊急事態にビジネスがストップしないための計画、つまり、BCP(事業継続計画)の観点から、テレワークの導入には重要な意味があります。また、テレワークは、このような緊急事態に限らず、例えば、台風で交通機関がマヒした際などにも効果を発揮します。

(2) ワークライフバランスの観点から

テレワークは、自宅で子どもの育児や介護をしながら仕事を継続するうえでも、効果的です。また、病気になってしまって自宅療養が必要な方にとって、テレワークで仕事を続けられることは、大きな励みになります。働き方改革時代のいま、ワークライフバランスは、仕事のあり方を考えるうえで無視できないものになっています。

(3) 経営コスト削減の観点から

テレワークには、オフィスの縮小化や交通費の削減を実現し、経営コストを削減することができるメリットもあります。ただし、経営コストをあまり強調しすぎると、従業員の不満につながってしまいます。経営者側からは、経営面でのメリットを掲げながらも、「通勤時間の削減による余暇活動の奨励」といった従業員側のメリットも強調し、理解を求める必要があります。

このように、テレワークの導入は、会社全体にとって大きなメリットになるものです。また、従業員の側にとっても、働き方の多様化につながり、有用性の高いものです。

そのほか、テレワークは、従業員1人1人に「仕事に対する自主性」を意識させる効果もあります。テレワークでは、始業から就業までの多くの局面で、自己管理が求められます。従業員1人1人が「テレワークの働き方」になれることで、上司から働き方を指導しなくても自主的・意欲的に働くことができる会社を実現することができます。従業員が自主的に働く時間を決められるフレックスタイム制と、自己管理が求められるテレワークとは、親和性が高いといえます。

2 「毎日の事前申請や終了報告が面倒」を解消

テレワークを実施する場合に、定期的な事前申請や終了報告を義務づけている企業も多くあるかと思います。ただ、このような事前申請や終了報告の義務は、従業員側には大きな負担となり、テレワークを躊躇する理由につながってしまいます。

(1) 事前申請を簡素化するために

そもそも、事前申請の目的は、次のようなところにあると考えられます。

ア テレワークにふさわしい業務かどうかを個別に判断するため

イ テレワークが必要かどうかを個別に判断するため

ウ セキュリティ上の問題がないかどうかを個別に判断するため

これらの目的を達成するために、本当に定期的な事前申請が必要であるかどうか、考えてみたいと思います。

ア テレワークにふさわしい業務かどうかを個別に判断するため

テレワークにふさわしい業務かどうかは、必ずしも従業員1人1人に対して個別に可否を判断しなくても、例えば、「A部門のこのような業務を担当している人」というように包括的にテレワークの承認をすることも一般に可能であると考えられます。また、一部の業務においてテレワークに支障がある場合には、「このような業務を担当する場合はテレワークによることができないものとします。」といった例外を設定することも考えられます。

テレワークにふさわしい業務かどうかは、必ずしも事前申請の方法によらなくても、包括的な承認によって管理しうるものといえます。

もっとも、このような管理をする前提としては、どのような承認プロセスによるかを決めて、就業規則にもそのような承認プロセスによることを前提とした規定を置いておくべきです。

イ テレワークが必要かどうかを個別に判断するため

従業員の仕事を上司が管理するという観点では、毎日の事前申請によって「さぼらないように」監視することが必要になります。ただ、そもそも、そのような発想が本当に正しいかどうかは、検討してみるべきです。

企業の実情にもよりますが、「上司が管理しなければサボってしまう」という発想は、必ずしも正しくないかもしれません。実際、テレワークでは、「仕事をさぼること」よりも、むしろ、「働きすぎてしまう」ことのほうが問題になることが多いと言われています。

また、仮に、上司に監視されないだけで従業員がサボってしまうような状況であれば、毎日の事前申請を徹底したところで、根本的な解決にはつながらない(サボる人は結局サボってしまう)場合が多いように思われます。

発想を転換して、フレックスタイム制を併用したうえで従業員1人1人の自己管理を尊重し、企業全体の意識改革を目指していくほうが、長期的に見た場合にうまくいくケースは多々あるように思います。

ウ セキュリティ上の問題がないかどうかを個別に判断するため

確かに、どの従業員が、どのような資料を扱っていて、その資料を自宅で取り扱うことにどの程度のセキュリティ上のリスクがあるかが全く把握されていない状況であれば、事前申請によってテレワークの可否を判断する必要があるでしょう。

もっとも、このようなことは、必ずしも事前申請によらなくても、あらかじめ取り扱う資料の重要性にランク付けをしておいたり、セキュリティ上のルールを明確化しておいたり、一定期間ごとにセキュリティ水準を満たしているかどうかを確認するルールを設けたりすることで、十分に達成することができます。

エ 事前申請の簡素化は可能

以上のとおり、事前申請は、創意工夫によって簡素化することが可能な場合が多いものと考えられます。改めて、事前申請の目的を考えながら、従業員が負担を感じにくい制度変更を模索すべきです。

(2) 終了報告を簡素化するために

次に、終了報告の目的は、次のようなところにあると考えられます。

ア 毎日の始業終業時刻を報告させて正確に把握するため

イ 毎日どのような仕事をこなしたかを上司が確認するため

ウ 従業員がテレワークを口実にサボることを防止するため

もっとも、イ・ウについては、前述のとおり、「従業員の自主性に委ねるほうがむしろうまくいくのではないか」という視点を踏まえた検討が必要です。

一方、アについては、たしかに、毎日の始業終業時刻を把握させることは、労務管理の観点で大変重要なことです。このような把握ができていなければ、労働安全衛生法違反にもなりえます。

ただ、毎日の始業終業時刻の把握は、必ずしも終了報告書の提出などによらなくても、勤怠管理ツールを活用することで十分に実現することができます。

例えば、「F-Chair+」というツールであれば、始業終業時刻のチェックが簡単にできたり、1人1人の総労働時間を集計したりする機能があります。総労働時間の集計が自動化されると、フレックスタイム制のもとでの管理も容易になります。

また、「従業員の自主性を尊重すべき」というのは前述のとおりですが、「全く仕事ぶりを監視しないのは心もとない」ということであれば、作業画面を定期的に自動キャプチャする機能も備わっています。

勤怠管理ツールには様々なものがありますので、会社の実情や方針に合わせて、適切なツールを選択することが必要です。

3 「テレワークでは仕事が進まない」を解消

テレワークになってから仕事が遅延してしまうというのは、ありがちな問題です。

そのような問題が発生する要因として多いのが、「オフィスの自席でしか効率的に仕事をすることができない状態」になってしまっていることです。

そのような状況を改善する方法を、「3つ」ご紹介します。

(1) フリーアドレス制の導入

フリーアドレス制とは、固定した自席を設定せずに、毎日自由に席を選んで仕事をすることができる仕組みです。このような制度を導入することで、自席に置いている資料がなければ作業が進まないという状況を解消することができます。

フリーアドレス制の導入は、次に説明するペーパーレス化の促進にもつながります。

(2) ペーパーレス化の促進

テレワークにおいて重要になるのが、紙の資料を減らす取り組みです。フリーアドレス制なども活用しながら、共有資料の電子データ化を目指すことが求められます。

(3) メールからチャットツールへ

テレワークでありがちなのが、従業員同士がメールでやりとりをした結果、メールの山に大切な情報が埋もれてしまうという問題です。このような問題を避けるためには、Chatworkなどのチャットツールによって、人ごと、プロジェクトごとに連絡管理ができるツールを導入することが有用です。

4 「テレワークでは出世できない?」の不安を解消

「テレワークを利用しすぎると出世に響くのでは」という不安を従業員から持たれてしまえば、テレワークの普及にはつながりません。

このような不安を解消するための工夫として、次のようなことが考えられます。

(1) 公平で信頼される人事評価制度

ア 評価方法の明確化を図る

仕事の成果や提案の積極性など、評価方法を明確に開示することで、人事評価が不公平にされるのではないかという不安を解消することが考えられます。

イ 評価方法を管理職で共有する

管理職において研修を実施するなどして、評価方法が公平にされるように工夫することが考えられます。

ウ 意見を踏まえて評価方法を見直しする

従業員から信頼される評価制度にするためには、従業員が納得できる評価制度を目指すことが重要です。従業員から評価制度について意見を聴くなどして、1人1人が納得することができる評価制度を目指すことが有効です。

(2) テレワークのイメージアップ策の実施

テレワークのイメージアップには、管理職層が積極的にテレワークを利用したり、「テレワーク奨励期間」や「全社員テレワークデー」設定したりする創意工夫が有効です。

5 「テレワークのせいで体調を崩した」を防ぐ

テレワークにおいて忘れてはいけないことは、企業側がオフィスワークと同様に健康に配慮すべき義務を負っており、仕事が原因で体調を崩せば「労災」になってしまうことです。

まず、テレワークにおいては、適切なオフィス環境と同様の作業環境を整える方法を、従業員1人1人に周知する取組みが重要です。

また、テレワークでしばしば問題になるのが、Web会議やチャットツールなどでのパワハラやセクハラといった「テレワークハラスメント」です。テレワークハラスメントを防ぐためには、テレワークハラスメント防止研修を実施するとともに、テレワークハラスメントに対して厳正に対処することができる就業規則の規定を整備しておくことが重要です。

第4章 就業規則見直しのポイント

ここまでのお話しを踏まえて取り組むべき就業規則の見直しには、次の5つのポイントがあります。

1 従業員の負担にならない申請制度

2 勤怠管理ツールを踏まえた勤怠管理

3 全社員テレワークデーなどの制度

4 フレックスタイム制などの導入

5 テレワークハラスメントの防止

会社の実情や方針に合わせて、どのような制度設計が望ましいかを十分に検討したうえで、適切な見直しを実施すべきです。

なお、就業規則の見直しを専門家に依頼した場合には、10万円を上限に、「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」を活用することができる場合があります。

第5章 おわりに

Web Lawyersでは、皆さまのテレワーク活用をサポートする様々なプランをご用意しています。詳しくは、以下のサービス案内をご覧ください。

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