コラム

いじめと学校の法的責任

弁護士 倉田 壮介

第1章 はじめに

学校設置者は、学校内で発生した生徒間のいじめについて、一定の民事上の責任(損害賠償請求責任)を問われうる立場にあります。
この点に関し、学校側はいじめ等がないか注意深く見極め、その存在が伺われる場合にはその実態を調査し適切な防止措置を講じる義務を負うものと考えられています。
学校側がこのような義務に反し、いじめ被害者となった生徒に損害が生じた場合には、民法709条あるいは私法上の在学契約に基づく安全配慮義務違反による債務不履行責任(民法415条)に基づき、損害賠償責任を負うと考えられます(なお、加害生徒に責任能力が認められない場合714条第2項に基づく責任が発生します)。

このような学校側の責任を問われないため、学校側の注意義務の内容を具体的に明らかにするにあたっては、いじめ防止対策推進法の規定が参考になります。同法により課せられている義務を履行していない場合、学校側の注意義務違反は認められやすくなるでしょう。

なお、以下にいう学校には専修学校は含まれていません。しかしながら、当然専修学校においてもこのような問題は発生しうるので、参議院文教科学委員会において「専修学校など本法の対象とはならない学校種においても、それぞれの実情に応じて、いじめに対して適切な対策が講ぜられるよう努めること」という付帯決議がなされています。専修学校においても、実情に応じた適切な措置がとられなかった場合、損害賠償責任を問われることになるでしょう。

いじめ防止対策推進法のもと、学校側は、次のようないじめの防止等のための施策を行う必要があるとされています。

第2章 いじめ防止基本方針の策定

学校は、国のいじめ防止基本方針(いじめの防止等のための基本的な方針平成25年10月11日文部科学大臣決定)または地方いじめ防止基本方針を参酌し、その学校の実情に応じ当該学校におけるいじめの防止等のための対策に関する基本的な方針を定めるとされています(いじめ防止対策推進法第13条)。

策定した学校いじめ防止基本方針については、各学校のホームページへの掲載その他の方法により、保護者や地域住民がその内容を容易に確認できるような措置を講じ、その内容を必ず入学時・各年度の開始時に児童生徒、保護者、関係機関等に説明するものとされています。

この基本方針には、いじめの防止のための取り組み、早期発見、事案対処のあり方、教育相談体制、生徒指導体制、校内研修などを定めることが想定されており、いじめの防止、早期発見、事案対処などいじめの防止等全体に係る内容であることが必要です。

アンケート、いじめの通報、情報共有、適切な対処等のあり方についてのマニュアルを定め(「早期発見・事案対処のマニュアル」の策定等)、それを徹底するため、「チェックリストを作成・共有して全教職員で実施する」などといったような具体的な取組を盛り込む必要があるとされています。

各学校は、学校いじめ防止基本方針において、アンケート調査、個人面談の実施や、それらの結果の検証及び組織的な対処方法について定めておく必要があるとされます。

学校いじめ防止基本方針が、当該学校の実情に即して適切に機能しているかを学校いじめ対策組織を中心に点検し、必要に応じて見直す、というPDCAサイクルを、学校いじめ防止基本方針に盛り込んでおく必要があります。

また、各教職員は、学校の定めた方針等に沿って、いじめに係る情報を 適切に記録しておく必要があります。

第3章 学校いじめ対策組織の設置

学校は、当該学校におけるいじめの防止等に関する措置を実効的に行うため、当該学校の複数の教職員、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者その他の関係者により構成されるいじめの防止等の対策のための組織(学校いじめ対策組織)を置く必要があるとされています(いじめ防止対策推進法第22条)。
常設の学校いじめ対策組織の設置は、法的義務となっています。

学校いじめ対策組織は、いじめの未然防止のための環境づくりを行う役割を負い、いじめの早期発見のためのいじめの相談・通報を受け付ける窓口としての役割、いじめの疑いに関する情報や問題行動などにかかる情報の収集と記録、共有を行う役割、アンケート調査や聞き取り調査等により事実関係の把握といじめであるかの判断を行う役割、被害生徒への支援、加害生徒への指導体制・方針の決定と保護者との連携といった対応を組織的に実施する役割等を負っています。

そして、いじめが起きにくい環境づくりを実効的に行うために、学校いじめ対策組織は生徒や保護者に対して自らの存在及び活動が容易に認識される取り組み(全校集会で取り組みを説明する等)を実施する必要があるとされています。

学校いじめ対策組織が、情報の収集と記録、共有を行う役割を担うため、教職員は、いじめの兆候や懸念、生徒保護者からの申告を抱え込んだり、対応不要であると個人で判断せずすべて学校いじめ対策組織に報告・相談する体制とする必要があります。

この組織の構成は、当該学校の複数の教職員で構成の上、可能な限り、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者としてスクールカウンセラー、弁護士、医師等の外部専門家を当該組織に参画させる必要があります。

第4章 いじめの防止、早期発見、対処等の措置

学校の設置者や学校及び教員は、いじめ防止対策推進法及びいじめの防止等のための基本的な方針において、下記等の義務を負うものとされています。

児童等の豊かな情操と道徳心を培い、心の通う対人交流の能力の素地を養うことがいじめの防止に資することを踏まえ、全ての教育活動を通じた道徳教育及び体験活動等の充実が必要とされます(いじめ防止対策推進法第15条第1項)。
特に児童生徒に対するアンケート・聴き取り調査によって初めていじめの事実が把握される例も多く、いじめの被害者を助けるためには児童生徒の協力が必要となる場合があるため、学校は児童生徒に対して、傍観者とならず、学校いじめ対策組織への報告をはじめとするいじめを止めさせるための行動をとる重要性を理解させるよう努める必要があります。

学校の設置者及びその設置する学校は、保護者、地域住民その他の関係者との連携を図りつつ、いじめの防止に資する活動であって当該学校に在籍する児童等が自主的に行うものに対する支援、当該学校に在籍する児童等、保護者、教職員に対するいじめを防止することの重要性に関する理解を深めるための啓発その他必要な措置を講ずるものとされています(いじめ防止対策推進法第15条第2項)。

いじめを早期に発見するため、当該学校に在籍する児童等に対する定期的な調査その他の必要な措置を講ずる必要があります(いじめ防止対策推進法第16条第1項)。
日頃から児童生徒の見守りや信頼関係の構築等に努め、児童生徒が示す変化や危険信号を見逃さないようアンテナを高く保ち、あわせて、学校は定期的なアンケート調査や教育相談の実施等により、児童生徒がいじめを訴えやすい体制を整え、いじめの実態把握に取り組む必要があります。

当該学校に在籍する児童等及びその保護者並びに当該学校の教職員がいじめに係る相談を行うことができる体制(相談体制)を整備する必要があります(いじめ防止対策推進法第16条第3項)。
相談体制を整備するに当たっては、家庭、地域社会等との連携の下、いじめを受けた児童等の教育を受ける権利その他の権利利益が擁護されるよう配慮しなければなりません(いじめ防止対策推進法第16条第4項)。

当該学校の教職員に対し、いじめの防止等のための対策に関する研修の実施その他のいじめの防止等のための対策に関する資質の向上に必要な措置を計画的に行う必要があります(いじめ防止対策推進法第18条第2項)。
教職員の言動が、児童生徒を傷つけたり、他の児童生徒によるいじめを助長したりすることのないよう、指導の在り方に細心の注意を払う必要があります。

当該学校に在籍する児童等及びその保護者が、発信された情報の高度の流通性、発信者の匿名性その他のインターネットを通じて送信される情報の特性を踏まえて、インターネットを通じて行われるいじめを防止し、及び効果的に対処することができるよう、これらの者に対し、必要な啓発活動を行う必要があります(いじめ防止対策推進法第19条第1項)。

学校の教職員、地方公共団体の職員その他の児童等からの相談に応じる者及び児童等の保護者は、児童等からいじめに係る相談を受けた場合において、いじめの事実があると思われるときは、いじめを受けたと思われる児童等が在籍する学校への通報その他の適切な措置をとるものとされています(いじめ防止対策推進法第23条第1項)。
すなわち、学校の教職員がいじめを発見し、又は相談を受けた場合には、速やかに、学校いじめ対策組織に対し当該いじめに係る情報を報告し、学校の組織的な対応につなげなければならない。すなわち、学校の特定の教職員が、いじめに係る情報を抱え込み、学校いじめ対策組織に報告を行わないことは、同項の規定の違反となりえます。

学校は通報を受けたときその他当該学校に在籍する児童等がいじめを受けていると思われるときは、速やかに、当該児童等に係るいじめの事実の有無の確認を行うための措置を講ずるとともに、その結果を当該学校の設置者に報告する必要があります(いじめ防止対策推進法第23条第2項)。
学校の設置者は、かかる報告を受けたときは、必要に応じ、その設置する学校に対し必要な支援を行い、若しくは必要な措置を講ずることを指示し、又は当該報告に係る事案について自ら必要な調査を行うものとされます(いじめ防止対策推進法第24条)。

学校は、いじめがあったことが確認された場合には、いじめをやめさせ、及びその再発を防止するため、当該学校の複数の教職員によって、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者の協力を得つつ、いじめを受けた児童等又はその保護者に対する支援及びいじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言を継続的に行うこととされます(いじめ防止対策推進法第23条第3項)。
学校は、当該学校の教職員がこの支援又は指導若しくは助言を行うにあたっては、いじめを受けた児童等の保護者といじめを行った児童等の保護者との間で争いが起きることのないよう、いじめの事案に係る情報をこれらの保護者と共有するための措置その他の必要な措置を講ずるものとされています(いじめ防止対策推進法第23条第5項)。

学校は、必要があると認めるときは、いじめを行った児童等についていじめを受けた児童等が使用する教室以外の場所において学習を行わせる等いじめを受けた児童等その他の児童等が安心して教育を受けられるようにするために必要な措置をとることとされます(いじめ防止対策推進法第23条第4項)。

学校は、いじめが犯罪行為として取り扱われるべきものであると認めるときは所轄警察署と連携してこれに対処するものとし、当該学校に在籍する児童等の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるおそれがあるときは直ちに所轄警察署に通報し、適切に、援助を求めなければならないとされます(いじめ防止対策推進法第23条第6項)。

校長及び教員は、当該学校に在籍する児童等がいじめを行っている場合で あって教育上必要があると認めるときは、学校教育法第11条の規定に基づき、適切に、当該児童等に対して懲戒を加えるものとされます(いじめ防止対策推進法第25条)。

なお、上記の他に学校の設置者または学校は、重大事態への対処義務が定められています(いじめ防止対策推進法第28条以下)。

なお、賠償責任を負う主体について、公立学校では市町村等のみが賠償責任を負い、教員個人は被害者に対する直接の賠償責任を負いませんが、私立学校であれば学校設置者である学校法人のみならず教員個人も責任を負います。

以上いじめ事件における学校側の責任の概要ですが、実際にいじめが発覚した場合は、学校側において積極的かつ迅速な対応が求められます。現実にこのような対応を行う上でも、学校側の事前の適切な体制の整備は不可欠と言えます。

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