コラム

新型コロナ対策のためのテレワーク導入における法律問題を弁護士が解説

弁護士 石田 優一

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コラムの概要

従業員からコロナウイルス感染者を出さないために、企業で注目されているのが、テレワーク(リモートワーク)です。しかし、テレワークを導入するうえで、どのような法律問題に留意しなければならないのかは、まだまだ意識が浸透していません。このコラムでは、テレワークを導入するうえで留意すべき法律問題を、弁護士が独自の視点で徹底解説いたします。

目次

第1章 新型コロナウイルスの現状
第2章 在宅勤務(テレワーク)の活用と法律問題
1 在宅勤務(テレワーク)の活用
2 テレワークの労働時間管理
3 テレワークの情報セキュリティ対策
4 ここまでのまとめ
第3章 おわりに

第1章 新型コロナウイルスの現状

新型コロナウイルスが猛威を振るい、私たちの日常生活を脅かそうとしています。令和2年4月2日時点の発表によれば、国内での感染者数は2384人、死亡者数は57人に上っており、これまで感染が急速に拡大してきた経過を踏まえると、今後、さらに感染者数が増加していくことが予想されます。世界での感染者数は、すでに82万人を超えています。新型コロナウイルス感染症対策専門家会議も、「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(令和2年3月19日)において、今後、新型コロナウイルスの感染者が爆発的に増加する「オーバーシュート」が発生するリスクがあるとして、国民1人1人の対策の必要性に言及しています。

令和2年3月14日に、新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正法が施行され、新型コロナウイルスが、新たに同法の適用対象になりました。この法律によれば、新型コロナウイルスの全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして一定の要件を満たした場合に、政府対策本部長が期間・区域を指定して緊急事態宣言をすることができます。緊急事態宣言が出た場合には、都道府県知事は、市民への外出自粛要請のほか、学校、劇場、集会場、展示場、百貨店、スーパーマーケット、学習塾等の施設に対する使用制限の要請・指示もすることができるため(法45条、施行令11条)、私たちの日常生活や社会経済に大きな影響が生じることになります。さらに、都道府県知事は、医薬品、食品、衛生用品等の商品の売渡しを要請・収用することもできるため(法55条、施行令14条)、関係事業者にとっては大きな影響が生じるおそれがあります。

新型コロナウイルスは、現時点においては、対症療法(症状を緩和する目的の治療法)のほか、有効な治療方法が確立していません。一方、新型コロナウイルスは、肺炎を発症させることもあり、時には重篤な症状につながることもあります。現在のところ、新型コロナウイルスの感染方法は、飛沫感染(感染者のくしゃみ、咳、つば等を吸い込むことによる感染)と接触感染(感染者の手等についたウイルスと直接・間接に接触することによる感染)の2つが考えられるとされており(厚生労働省発表)、「人から人への感染」をできる限り避ける措置を講じて、感染拡大を抑えることが、急務とされています。

各企業においても、新型コロナウイルスの感染者ゼロを目指すために、テレワーク(リモートワーク)の積極的な活用を検討することが求められます。では、テレワーク(リモートワーク)を導入するうえに、企業としては、どのような法的対策をしなければならないのでしょうか。

第2章 在宅勤務(テレワーク)の活用と法律問題

1 在宅勤務(テレワーク)の活用

(1) はじめに

新型コロナウイルスの感染者拡大により、在宅勤務(テレワーク)を活用する企業が増加しています。在宅勤務(テレワーク)は、働き方改革との関係で話題になりましたが、新型コロナウイルス対策との関係で、新たに注目されるようになりました。

先ほど述べたように、厚生労働省も、「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」において、「自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、『使用者の責に帰すべき事由による休業』に該当する場合があり、休業手当の支払が必要となることがあります。」という見解を示しており、企業に対し、新型コロナウイルス対策として在宅勤務(テレワーク)を積極的に検討すべきことを求めています。

在宅勤務(テレワーク)は、新型コロナウイルス対策のみならず、育児・介護と仕事との両立が必要な従業員へのサポート、通勤費用の削減、従業員の通勤時間の削減による生産性向上といった、様々な活用方法があります。

さらに、新型コロナウイルスの感染拡大は、災害の1つであって、今後も、その他の病気の蔓延や大規模災害によって在宅勤務(テレワーク)によらなければ業務を継続することができなくなる事態が発生することは、多々想定されます。企業としては、このような状況が、「今回限りのこと」とは決して考えずに、「今後いつ発生しうるか分からない事態である」という意識をもって、対策に取り組むことが求められます。

(2) 助成金の活用によるテレワークの導入

テレワークの導入でもっとも懸念されることは、導入コストの問題です。現在、テレワークに活用することのできるツールは多種販売されていますが、どうしても、一定の導入コストが発生してしまうことは避けられません。

そのような導入コストを削減する方法として、助成金の活用があります。労働者災害補償保険の適用中小企業事業主であれば、新型コロナウイルス対策としてテレワークを新たに導入する場合に、費用(一部例外あり)の「2分の1(上限100万円)」の補助を受けることができる、働き方改革推進支援助成金(新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース)」が、新たにスタートしました。

「テレワーク用通信機器(PC・タブレット等は対象外)の導入、就業規則の見直し、研修・専門家のコンサルティング等、多岐にわたります。

(3) 新型コロナウイルス対策としてのテレワーク導入は本当に企業のコストか

新型コロナウイルス対策としてテレワークを導入することは、一見すれば、企業にとってコストになりえます。しかし、先ほど述べたように、「働き方改革推進支援助成金(新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース)」を活用すれば、そのコストを大きく削減することができます。

前章で述べたように、テレワークを導入しなかった結果、従業員に休業命令を出さざるを得なくなった場合には、その従業員に対する労働基準法に基づく休業手当や、時にはそれ以上の給与保障が求められることになります。雇用調整助成金でまかなえる損失の補てんには限度がありますので、生産性の低下も考えると、企業が一定の損失を負ってしまうことは避けられません。このような側面を考えると、テレワークを導入することによってこのような事態を回避し、事業を継続させるほうが、全体として見たときにプラスにつながる場合は多いのではないかと思います。

企業としては、多角的にメリット、デメリットを考えたうえで、テレワークを導入することで新型コロナウイルス対策と並行して事業を継続できるようになる見込みがあるならば、積極的にテレワークの導入を検討すべきです。

2 テレワークの労働時間管理

(1) はじめに

在宅勤務型のテレワークを導入するうえでの大きな課題の1つが、「どのように労働時間を管理するか」です。在宅勤務の場合、上司の目が届かないところで仕事をするために、いつからいつまでどのように仕事をしているか、途中でいつ休憩をしていたかといった事情を直接確認することができる人がいません。そのような中で、労働時間をどのように管理するかというのは、労働法との関係においても重要な問題です。

第1に、労働時間を適切に管理することができなければ、時間外労働手当をいくら支給すべきかを確定させることができません。管理に問題があれば、後々に、いわゆる残業代不払の主張を従業員から受け、労使紛争に発展してしまうかもしれません。

第2に、従業員の健康管理の観点からも、企業が1人1人の労働時間を正確に把握するのは重要なことです。労働安全衛生法の改正により、新たに、企業に対し、労働者の労働時間の状況を把握しなければならない法的義務が課せられました(第66条の8の3)。また、労働時間の管理がきちんとできておらず、長時間労働による労災が発生した場合には、安全配慮義務違反を理由に損害賠償責任を負う可能性もあります。

また、労働時間を正確に把握することは、このような法的リスクを回避する視点だけではなく、企業が不必要な賃金の支払を免れることができるメリットもあります。在宅勤務型のテレワークにおいては、従業員が仕事中に長時間離席してしまう「中抜け時間」が発生しやすいといわれます。企業としては、このような「中抜け時間」を休憩時間として取り扱うことで、不必要な賃金の支払を免れることができます(ただし、そのような取扱いについて就業規則で明示しておくことが前提です。)。また、たとえ「中抜け時間」がなかったとしても、労働時間の管理がきちんとされていないと、従業員がダラダラと仕事をしがちになり、生産性の低下につながってしまいます。労働時間を正確な把握は、このような経済的利益の観点からも重要なことです。

(2) 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

労働時間の把握方法については、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(以下「労働時間ガイドライン」といいます。)において具体的な方法が示されています。在宅勤務型のテレワークにおいても、このガイドラインに基づき、適切に労働時間管理をしなければならないとされています(「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(以下「テレワークガイドライン」といいます。))。

労働時間ガイドラインを踏まえると、在宅勤務型のテレワークにおいても、原則的な労働時間の管理方法は、「タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認」することです。ただし、このような確認方法を導入することが難しいために自己申告制を採用する場合には、従業員に自己申告制のあり方をきちんと説明したうえで、必要に応じて実態調査を行い、パソコンの使用時間の記録等と申告時間が大きく異なっているとき(著しい乖離が生じているとき)には申告時間を補正しなければなりません。労務管理を行う部署の責任者は、このような観点で、在宅勤務型のテレワークを利用する従業員の労働時間を適正に管理しなければなりません。

つまり、労働時間ガイドラインの考え方によれば、在宅勤務型のテレワークを導入する場合には、単に従業員それぞれの自己管理に委ねるのではなく、PCの使用時間を管理する等の方法で適正な労働時間の把握方法を検討することが求められます。

(3) 労働時間を適正に管理するためのツールの導入

在宅勤務型のテレワークにおいて適正な労働時間の把握方法を採り入れるために適した方法の1つが、勤怠管理ツールの導入です。勤怠管理ツールには、着席・離席を従業員にチェックさせるだけではなく、作業画面を定期的に自動でキャプチャする機能や、マウスのクリックやキーボードの使用状況を監視する機能等が備わっているものもあります。

業務形態にあった勤怠管理ツールを導入することによって、適正な労働時間の把握につなげることができます。また、従業員に対し、このような管理を受けていることを意識させることで、ダラダラと仕事をしたくなる心理を防ぐこともできます。

3 テレワークの情報セキュリティ対策

(1) はじめに

在宅勤務型のテレワークを導入するうえでのもう1つの大きな課題は、情報セキュリティ対策です。在宅勤務型のテレワークにおいては、企業が保有する大切な情報を従業員に自宅で取り扱わせなければならない場合があり、情報漏えいのリスクが高まります。

(2) コンピュータウイルス(マルウェア)や不正アクセスへの感染

在宅勤務型のテレワークにおいて懸念される問題が、自宅のPCやルーター等がコンピュータウイルス(マルウェア)に感染したり、不正アクセスを受けたりするリスクです。

特に、ルーターのコンピュータウイルス(マルウェア)感染には、注意が必要です。例えば、「VPNFilter」というコンピュータウイルス(マルウェア)は、家庭用ルーターに感染し、通信情報を盗み取ります。このように、家庭用ルーターが狙われる大きな要因が、「管理する人」の意識にあります。PCとは異なり、家庭用ルーターは、そもそもコンピュータウイルス(マルウェア)に感染すること自体が一般にあまり知られていません。そのため、ルーターの認証設定が初期設定のままになっており、アップデートも全くされていないことが多くあります。

個人用PCについても、企業が一括管理しているPCとは異なり、アップデートがきちんと行われていなかったり、対策ソフトウェアがきちんと導入されていなかったり(されていても定義ファイルがきちんと更新されていなかったり)することで、情報漏えいの高いリスクにさらされることがあります。

企業としては、個人用PCのアップデート、対策ソフトウェアの導入と定義ファイルの定期更新といった基本的な対策のほか、家庭用ルーターについても取扱説明書を参照しながら認証設定の変更やアップデートを実施するように呼びかけることが求められます。

(3) 企業の大切な情報の漏えい防止

在宅勤務型のテレワークにおいては、従業員が企業の情報に職場外で触れることから、漏えいの危険が高くなります。

人は、「動機」「機会」「正当化」という3つの要素がそろって初めて、不正を犯してしまうとされています。これを、「不正のトライアングル」といいます。

人が不正を犯してしまう「動機」の1つに、経済的な理由があります。例えば、新型コロナウイルスの影響によって企業の経営状況が悪化し、給与がカットされてしまった場合、「生活費が足りないから企業の名簿を売って利益を得よう」という「動機」が生まれてしまうリスクがあります。また、それが不正であることは分かっていても、「新型コロナウイルスのせいだから自分は悪くない」という考えによって「正当化」が生まれてしまうかもしれません。このような「動機」や「正当化」の発生を防ぐためには、教育指導による従業員1人1人の意識づけが大切です。また、従業員に「情報漏えいによるデメリットが大きい」と感じさせるために、就業規則の見直しや秘密保持契約の徹底によって、情報漏えいに対して確実に懲戒処分や損害賠償請求等の法的対応ができる体制を整えておくことも必要です。

さらに、企業が従業員の不正を確実に防ぐためには、このような「動機」や「正当化」の要因があったとしても、「機会」を発生させないことによって不正を防ぐ取組みが必要です。

従業員の手によって企業の大切な情報が漏えいしてしまうリスクを防ぐためには、大きく、(1)大切な情報にアクセスさせない視点と、(2)大切な情報へのアクセスを監視する視点が必要です。

第1に、大切な情報にアクセスさせないためには、企業内にある情報の重要性と各業務における取扱いの必要性をランクづけして、重要な情報や業務上の取扱いの必要性が低い情報にはテレワークでアクセスすることのできない制限をかけることが効果的です。現状においてこのような対策を実践することができていない企業においては、従業員から情報を収集して、ランクづけのリスト化を行うことが必要です。

第2に、大切な情報へのアクセスを監視するためには、情報のクラウドでの管理を徹底し、テレワークでのアクセス状況をログとして管理することが効果的です。もちろん、ただログを取得するだけでは十分な対策とはいえませんので、システム管理者においてログの分析を行って、不自然なアクセスについては人事労務担当者に報告し、人事労務担当者から対象従業員に対する調査を行う等の対応も必要になります。

4 ここまでのまとめ

在宅勤務(テレワーク)の導入は、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための有効な方法として国が推奨するものの1つであり、各企業が積極的に導入を検討する価値のあるものです。企業としては、ここまで触れたような労働時間管理や情報セキュリティ対策の問題をきちんと意識し、必要な対策を採り入れることで、法的リスクを回避しながら、在宅勤務(テレワーク)によるメリットを享受することができます。

第3章 おわりに

今回のコラムでは、企業が新型コロナウイルスの感染拡大のための対策としてテレワークを実施するうえで、意識しておかなければならない法律問題を取り上げました。テレワークを導入するうえでは、テレワークの情報漏えいの禁止等に関する就業規則の整備や、情報セキュリティ規程の見直しが不可欠です。

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