コラム

メンタルヘルスの問題を抱えた社員への休職命令と復職支援を弁護士が解説

弁護士 倉田 壮介

第1章 はじめに

休職には、いろいろな種類があります。たとえば、私傷病休職、刑事起訴休職、事故欠勤休職、出向休職などです。

しかし、これらの中でも企業の導入率が高く、かつトラブルが発生しやすいのが、私傷病休職です。そして、私傷病休職の中でもメンタルヘルスに関わる案件では、とりわけ問題が顕在化しやすいといえます。そこで、以下では主にメンタルヘルスの問題を抱えた従業員に関する私傷病休職について簡単にご説明したいと思います。

第2章 そもそも休職とは

そもそも、休職とは、ある従業員について労務に従事させることが不能または不適当な事由が生じた場合に、使用者がその従業員に対し労働契約関係そのものは維持させながら労務への従事を免除することまたは禁止することを言います(菅野和夫「労働法」第11版補訂版697)。

そして、私傷病休職は、業務外の傷病を原因とする欠勤が継続した場合に発令され、休職期間満了時に治癒していなければ退職あるいは解雇、治癒していれば復帰をさせる制度です。導入するかどうか自体、各企業が自由に決められ、その内容、たとえば、賃金の支給の有無、程度などについても企業が決めることができます。

第3章 メンタルヘルスの問題を抱える従業員に対する対応

従業員がメンタルヘルスの問題をかかえていることが分かった場合、企業側の人間としてはどのようなイメージを持つでしょうか。

従業員は企業にとって重要な財産です。特に昨今の人手不足の中では、能力、人柄とも問題のない従業員であれば、無事復帰してもう一度活躍して欲しいという企業も多いでしょう。ただ、一方でメンタルヘルスの問題はデリケートで、どのように扱ってよいかわからない企業も多くあるものと思います。

そうはいっても、欠員が生じたままいつまでも待つわけにはいきません。復帰に向けて本人、企業とも努力はしたものの、復帰がかなわず退職してもらわなければならないケースも考えられるでしょう。

企業としては、社員の復帰に向けて適切なサポートをした上、万が一退職してもらわなければならなくなった場合にも、お互い後悔が残らないように、スムーズに退職してもらわなければならないことになります。

このようなサポートもなく、強引に解雇してしまい紛争化してしまった場合には、解雇は認められず、未払の賃金の支払いや損害賠償請求、会社の評判の下落など重いペナルティが会社を待っていることになります。

第4章 休職社員への対応

それでは、会社はメンタルヘルスの問題により欠勤する社員が出てしまった場合、どのように対応すればよいのでしょうか。

1 休職命令

私傷病休職は、社員による医師の診断書の提出によることが多いです。当該診断書には、病名のほかに、たとえば「1ヶ月の休養加療を要する」というような記載がされています。

これを見た企業の担当者としては、1ヶ月程度の休養を与えればもとの仕事を再開できると判断しがちですが、実際にはこのような記載はあまり当てにはなりません。というのも、主治医の作成する当初の診断書はかなりおおまかな目安が記載されているというだけではなく、症状が客観的に明確でないメンタルヘルスの問題においてはとりわけ、患者本人の意向や要望が反映されやすいからです。

診断書の信用性については、復帰の場面でよりシビアな問題となってきますが、診断書の内容を直ちに鵜呑みにはできないということについては、念頭に置いておいたほうが良いでしょう。

いざ、休職させるということが決まった場合、休職命令をどのような形で出すのかについては、特に法律の規定はありません。したがって、口頭でもよいことになりそうですが、実際には休職はその期間の開始時期などを巡ってトラブルになることも多いため、実際には、文書の交付によることが望ましいといえます。

2 休職命令後のケア

休職の開始時には、当該従業員へのケアを忘れないようにしましょう。

休職の開始においては、従業員は非常な不安感を抱いています。家族を抱えているのにこんなことになってしまって、自分は職場に復帰できるのだろうか。休職中の生活はどうなるのだろうか。残っている仕事は自分がいなくても大丈夫だろうか、頻繁に連絡をとったほうが良いのではないだろうか。あまり何週間、何ヶ月も休むと解雇されてしまうのではないだろうか…。

このような不安をできるだけ取り除いてあげることで、当該従業員の精神状況も穏やかになり、信頼関係も保たれるのでその後の手続もスムーズになります。こうした事項については、丁寧に説明してあげるとともに、会社の担当者の連絡先を伝えておきましょう。また、特に休職中の給与がでない企業においては、健康保険の傷病手当金が受給可能であることを説明してあげると、授業員の当面の生活の不安が取り除かれ安心してもらえます。

そして、休職の開始時にぜひとも伝えておきたいことが、復職の可否の判断は会社がすることと、復職時には主治医からの情報提供書の提出等が必要となることです。というのも、休職期間満了時に、実際には回復が不十分で会社としてはとても復帰させられない、という状況であるにも関わらず、退職を回避したい社員が強引に復帰しようとしてトラブルになる事案が見られるためです。

3 休職中の従業員とのコンタクト

休業中にも、当該従業員とのコンタクトは取り続ける必要があります。

といっても、この目的は従業員の回復の状況を確かめ、また従業員の不安を取り除くことにあるので、その目的を超えた頻回の接触は慎む必要があります。メンタルヘルスの問題では、ストレス要因を取り除く必要があり、ケースによりますが、職場からの接触があまりに頻回であると、回復の妨げとなることもあるからです。場合によっては、主治医からコンタクトをとること自体全く差し控えてくださいとの要望がされることもあり、その場合は別途対処の必要があります。

4 休職させた従業員の復職判定

そして、従業員の体調が業務に耐えうる状況になればいよいよ復職になるわけですが、復職の判断は非常にデリケートで難しいところがあります。

あまり早い段階で復職させると、症状が再発したり、事故に繋がり職場の安全配慮義務違反が問われる恐れがある一方、復帰を認めないことにも正当性が問われるからです。

職場復帰の判断は、まず、主治医からの診断書や情報提供書を取り付けるところから始まります。

私傷病休職制度を設けている企業の多くでは、就業規則にて復帰時には医師の診断書等の提出が必要であることを定めているので、診断書等の取付け自体に問題が生じることは少ないでしょう。

しかしながら、主治医の診断書等をそのまま鵜呑みにできないことは、先に述べたとおりです。主治医の意見書は患者の意向を反映してしまうことも多い上、必ずしも職場における具体的な業務の状況を十分に把握しないまま復職可能との判断をしてしまうこともあるからです。

このため、産業医による直接の診察や、主治医への必要事項の照会などをする必要が生じるケースがあります。

5 休職させた従業員の復職判定

復職時には、できるだけ具体的な復職プランを作成する必要があります。復職当初はどのような業務を担当させるのか、どのくらいの期間その業務を担当させいつ元の業務に戻すのか、異動をさせる必要があるのか、異動先はどこにするのか、体調の悪化が見られた場合はどうするのか、などです。

ここで、復職の可否とも関連するのですが、従業員が従来の業務は担当できないが軽減された業務ならできるとして復職を申入れてきた場合どうするかが問題となります。

会社としては、元の業務ができないのなら復職させることはできないと言いたいこともあります。確かに傷病が治癒したと言えるためには、原則として従前の業務を通常の程度まで行える程度まで回復することが必要であると言えます。

しかしながら、労働契約において職種限定がされていない場合については、最高裁判所の判断によると、社員の能力、地位、経験、当該企業の規模、業種、労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして、配置の現実的可能性のある他業務について労務の提供が可能かどうか検討する必要があるものとされています(片山組事件・最判平成10年4月9日)。

したがって、このような場合、検討の結果当該従業員が配置可能な業務の労務の提供を申出ていれば、復職をさせる必要があることになります。

6 復職後のフォローアップ

復職後においても、フォローアップの必要性があります。

本人に勤務記録表をつけてもらい、上司がそれをチェックする、定期面談を実施する、状況によっては復職プランの見直しも行う等が必要になってきます。

第5章 おわりに

以上の通り、簡単に休職と復職の制度について概観しましたが、具体的対応についてはそれぞれの場面に応じた法律判断が必要になることが少なくありません。また、就業規則の定め方によっては、解決が容易になったり逆に困難になったりすることもあります。

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