弁護士 石田 優一
※このコラムは、2024年12月に開催した無料セミナーの内容をもとにしたものです。
テーマ
技能実習制度が廃止されて育成就労制度がスタートします。2020年にスタートした特定技能制度のことを踏まえながら、育成就労制度の基礎知識を弁護士が解説します。
目次
1. 外国人材活用の現状
(1)増え続ける外国人労働者
(2)特定技能在留外国人の増加
2. 特定技能制度の基礎知識
(1)特定技能制度がスタートする前
(2)外国人が日本で就労するまでの流れ
(3)特定技能制度がスタートする前
(4)特定技能制度がスタートした後
(5)ケーススタディ
(6)特定技能制度の枠組み
(7)特定技能制度を活用するメリット・デメリット
3. 育成就労制度(技能実習制度)の基礎知識
(1)技能実習制度の概要
(2)技能実習制度と特定技能制度
(3)技能実習制度の問題点
(4)育成就労制度へのシフト
4. 特定技能制度と育成就労制度
5. 外国人材活用の今後
コラム
1. 外国人材活用の現状
(1)増え続ける外国人労働者
近年、外国人材の活用が大きく拡大しています。新型コロナウイルス感染症のまん延により、2020年から2021年にかけて一時的な停滞は見られましたが、その期間を除けば、外国人労働者数は右肩上がりになっています。2023年には、ついに200万人を超えました。
国別では、ベトナム国籍の労働者人口が、2位の中国籍の労働者人口を大きく上回っています。ベトナムをはじめ、フィリピン、インドネシア、ミャンマーなど、東南アジアからの来日者が増加傾向にあります。
(2)特定技能在留外国人の増加
2020年に、新たな在留資格制度「特定技能」がスタートしました。2020年には1万人台であった在留者数が、2024年には約25万人まで大きく増加しています。在留者数は年々増加傾向にあって、今後も増加し続けることが見込まれます。
特定技能制度に基づく在留者数を国別で見ると、ベトナム国籍の方が約50%で、インドネシア国籍、フィリピン国籍、ミャンマー国籍の方が続きます。特定技能制度だけを見れば、在留者数の大半が、東南アジアからの来日者です。東南アジアの各国が、特定技能制度に関心を持ち、積極的に人材の送り出しに取り組んでいることが、背景事情の1つにあると考えられます。
特定技能制度に基づく在留者数を業種別で見ると、製造業の割合がもっとも多いことが分かります。製造業の分野における人手不足を補うために、外国人材が積極的に活用されていることがうかがえます。
2. 特定技能制度の基礎知識
「特定技能」は、2020年にスタートした在留資格制度です。特定技能制度とはどのようなものか、解説します。
(1)在留資格の基礎知識
特定技能制度に関する説明に入る前に、そもそも「在留資格」とは何かについて、解説します。在留資格とは、「外国人が本邦(日本)に在留して特定の活動を行うことができる資格」のことです。簡単にいえば、「その在留資格で認めた活動のためならば、日本で暮らしてもよいですよ!」という資格です。
そもそも、外国人のうちだれを入国させるかは、国家の自由です。日本では、「(1)政策的にどのような人を増やしたいか?」「(2)日本の雇用に影響が出ないか?」「(3)日本国内の安全が脅かされないか?」「(4)社会保障制度に影響が出ないか?」といった諸事情を考慮し、「在留資格」という制度のもとで、だれを、どのような条件で入国させるかを決めています。
マクリーン事件判決(最大判昭和53年10月4日)では、「国際慣習法上、国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく、・・・外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを、・・・自由に決定することができる」との判断が示されています。
日本人であれば、どのような仕事をするかは自由です。憲法22条1項で、職業選択の自由が保障されているからです。他方、外国人の場合、入国を認める際に、どのような仕事に就くことができるかを、国家の裁量で制限することができます。
このような考え方のもとで、外国人が日本に在留して行うことのできる活動の範囲を特定したうえで、日本に在留する資格を認める制度が、在留資格制度なのです。
(2)外国人が日本で就労するまでの流れ
次に、外国人が就労のための在留資格を取得して、日本で就労するまでの一般的な流れをご紹介します。
(a) 在留資格認定証明書を申請・取得する
外国人が入国する前に、日本国内で在留資格認定証明書を申請・取得しなければなりません。在留資格認定証明書は、「もしその外国人の方が入国したら、この在留資格での入国を認めますよ!」というお墨付きを与える書類です。在留資格認定証明書があることで、外国人の方が、スムーズに入国することができるわけです。
就労のための在留資格を取得する場合、雇用先が外国人の代わりに在留資格認定証明書を申請・取得して、その外国人に送付するケースが多いです。
在留資格認定証明書は、申請書と必要書類を用意したうえで、地方出入国在留管理局(いわゆる「入管」)に申請します。
(b) 在留資格認定証明書とパスポート等を持って査証(ビザ)の申請・取得する
日本に入国するためには、査証(ビザ)が必要です。在留資格認定証明書だけでは、日本に入国することができません。日本に入国するには、現地に所在する日本大使館・日本総領事館において、査証(ビザ)を申請・取得する必要があります。
(c) 旅券(パスポート)・査証(ビザ)・在留資格認定証明書の3点セットを持って、港・空港で上陸許可を受ける
在留資格認定証明書と査証(ビザ)がそろったら、いよいよ入国です。これらの書類と旅券(パスポート)を持って、日本に入国し、港・空港で上陸許可を受けます。
もし、上陸許可を受けられなければ、港・空港から出ることができず、そのまま自国に引き返さなければなりません。在留資格認定証明書の制度には、できる限りそのようなことにならないように、あらかじめ「入国を認めることができる人かどうか」を書類審査する意味があります。
(3)特定技能制度がスタートする前
こちらの図は、特定技能制度がスタートする前のイメージを示したものです。これまでも、就労のための在留資格として「高度専門職」や「技術・人文知識・国際業務」がありました。もっとも、これらの在留資格は、エンジニアのような専門性の高い人材に限定して日本での在留を認めるもので、それよりも専門性の低い業態での人材活用を認めるものではありませんでした。
より専門性の低い業態での就労を認める在留資格として、以前から「技能実習制度」がありました。もっとも、技能実習制度は、あくまでも国際協力のための実習制度であり、(少なくとも建前においては)人材活用を目的とした制度ではありません。
昨今の人手不足を踏まえて、より専門性の低い業態であっても、外国人材の活用を認めてもよいのではないか?という流れが生まれました。法改正に当たっては、「事実上の移民政策にならないか?」「技能実習制度と同じような問題が生じないか?」といった根強い反対意見があり、紆余曲折がありましたが、最終的に、2020年、特定技能制度がスタートすることになりました。
(4)特定技能制度がスタートした後
こちらの図は、特定技能制度がスタートした後のイメージを示したものです。特定技能制度がスタートしたことで、エンジニアのような高い専門性が要求されない業態であっても、相当程度の専門性が求められるものであれば、就労のための在留資格が認められるようになりました。
(5)ケーススタディ
さて、ここからは、ケースを交えながらご説明します。
当社は、自動車部品を製造するための金型を設計・製造しています。外国人材を、次のような形で活用していきたいと考えています。
(a) 自動車の設計に関する専門知識のある外国人材を採用して、設計業務を任せたいと考えています。
(b) あらかじめ決められた手順に従って、金型のプレスを行う作業を任せたいと考えています。
(a) 自動車の設計に関する専門知識のある外国人材を採用して設計業務を任せたい場合
このような設計業務であれば、専門性が高いことから、「技術・人文知識・国際業務」という従来型の在留資格で就労することができます。
(b) あらかじめ決められた手順に従って、金型のプレスを行う作業を任せたい場合
このような業務については、金型のプレスに関する知識・経験は相当程度必要ですが、「あらかじめ決められた手順」での作業のため、高い専門性までは求められません。そのため、「技術・人文知識・国際業務」という従来型の在留資格で就労することはできませんでした。
特定技能制度がスタートしたことで、このような業務に従事することを目的に在留資格(「特定技能」)を取得することが認められるようになりました。それによって、外国人材を活用することができる業態が大きく広がりました。
(6)特定技能制度の枠組み
法改正で特定技能制度が創設される前には、「事実上の移民政策にならないか?」「技能実習制度と同じような問題が生じないか?」といった根強い反対意見が起きました。そのような経緯を踏まえて、特定技能制度には、以下のような枠組みが盛り込まれています。
(a) 人材が不足している産業分野に限定
(b) 知識・経験が求められる業務に限定
(c) 労務コンプライアンスを要件に
(d) 日本での生活に慣れていない外国人をサポートするための仕組み
このような4つの枠組みを盛り込むことで、特定技能制度が「移民政策」となることを回避するとともに、多数の人権侵害が問題になった技能実習制度の二の舞にならないようにしています。
(a) 人材が不足している産業分野に限定(特定産業分野)
第1に、特定技能制度で外国人を受け入れることができる業種を、人材が不足している産業分野(特定産業分野)に限定することで、外国人材が過剰に流入して日本の雇用市場を脅かすことを防いでいます。特定産業分野については、日本標準産業分類をもとに、「特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領」で決められています。
特定産業分野については、制度がスタートした当時から拡大して、16分野が指定される予定です。
では、ケーススタディで取り上げた「自動車部品を製造するための金型を設計・製造」する業種は、特定産業分野に該当するのでしょうか。
「e-Stat」というサイトで金型を設計・製造する業種について調べると、「26 生産用機械器具製造業」に該当することが分かります。
そして、「特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領」を確認すると、「26 生産用機械器具製造業」が特定産業分野に含まれていることが分かります。
以上のように検討した結果、ケーススタディについては、特定産業分野の課題をクリアしていることが分かりました。
このように、特定産業分野に該当するかどうかは、順を追って慎重に検討する必要があります。「何となく」で考えれば、判断を誤ってしまいます。
(b) 知識・経験が求められる業務に限定(業務区分)
第2に、特定技能制度で外国人を就労させることができる業務を、相当程度の知識・経験が求められる業務に限定し、かつ、その人材が相当程度の知識・経験を有していることを求めることで、「事実上の移民政策」になることを防いでいます。これについても、「特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領」で指定されています。
例えば、ケーススタディを例に考えると、「指導者の指示を理解し、又は自らの判断により、素形材製品・・・の製造工程の作業に従事」することは、特定技能制度で外国人を就労させることができる業務に該当します。
さらに、特定技能制度で外国人を就労させるためには、その外国人が相当程度の知識・経験を有していることも求められます。このような知識・経験を有していることを示すために、技能に関する評価試験や、日本語能力テストに合格することが求められます。
こちらは、技能に関する評価試験のサンプルです。相当程度の専門知識がなければ解答できないテストを課すことで、相当程度の知識・経験を有しない外国人材の就労を認めない制度になっています。
(c) 労務コンプライアンスを要件に(受入機関・雇用契約の適合性)
特定技能制度は、技能実習制度の二の舞にならないように、労務コンプライアンスの徹底が要件とされています。
具体的には、受入機関(外国人材を受け入れる企業)が法令を遵守していることや、雇用条件に問題がないことなどが、要件とされています。
(d) 日本での生活に慣れていない外国人をサポートするための仕組み(1号特定技能外国人支援計画)
特定技能制度においては、日本での生活に慣れていない外国人をサポートするために、1号特定技能外国人支援計画を作成・実施することが求められます(2号特定技能の場合は不要ですが、詳しい説明は割愛します)。
具体的には、日本で生活するためのオリエンテーションや送迎、住居確保のサポート、日本語教育機会の提供などが求められます。
このようなサポートは、一般に登録支援機関と連携して進める仕組みになっています。
(7)特定技能制度を活用するメリット・デメリット
特定技能制度の活用には、メリット・デメリットの双方があります。それぞれを比較しながら、自社にとって特定技能制度を活用することがどこまで有益であるかを見極めることが重要です。
(a) メリット
・人材不足を解消するための選択肢を増やすことができる
・外国人材の雇用が社内全体の活気につながる
・先進的な取組みとして対外的なPRになる
(b) デメリット
・採用のために大きなコストがかかる
・コミュニケーションの問題が発生しうる
・原則として5年が限度(1号特定技能の場合)で、長期雇用ができない
3. 育成就労制度(技能実習制度)の基礎知識
2027年以降に、技能実習制度が廃止されて、育成就労制度がスタートすることが決まりました。これによって何が変わるのか、詳しくご紹介します。
(1)技能実習制度の概要
育成就労制度について理解するためには、現行の技能実習制度に対する理解が必要です。
技能実習制度は、日本の技能・技術・知識を開発途上地域に移転して経済発展を担うための制度として、1993年にスタートしました。
日本と外国との取決めに基づいて、現地の送出機関から日本に外国人材が派遣され、監理団体による監理のもとで、日本の企業での実習を行う仕組みになっています。
技能実習制度のもとで技能実習生を受け入れる流れは、おおむね次のとおりです。
1. 監理団体を探す
2. 監理団体への相談
3. (監理団体のサポートのもとで)採用者の選定
4. 現地の送出機関での基礎教育の実施
5. 採用者の入国(技能実習1号)
6. 入国後の監理団体における講習の実施(原則2か月)
7. 企業への配属・1年目の技能実習
8. 技能検定の受検
9. さらに2年間の技能実習(技能実習2号)
※さらに2年間の実習継続ができる制度もありますが、ここでは説明を割愛します。
以上の流れを図にしたものが、次の資料です。
技能実習生は、無限定に受け入れられるわけではなく、受入れ可能人数が決まっています。
(2)技能実習制度と特定技能制度
技能実習制度は、あくまでも国際協力を目的とした実習制度であり、人材不足の解消を目的とした制度ではありません。技能実習制度と特定技能制度は、(建前のうえでは)全く制度趣旨が異なっています。
ただ、現実的には、技能実習制度も、人材不足を解消する目的で活用されてきました。そのような実態もあって、外国人材を活用する多くの企業において、技能実習生が実習を終えた後に、そのまま特定技能外国人として受入れを継続したいニーズは多くありました。
政府は、このようなニーズに応える形で、技能実習生が帰国せずにそのまま特定技能外国人として就労を継続することを、積極的に認めました。技能実習を終えた場合は、改めて特定技能外国人となるために試験を受け直すことなく、そのまま特定技能外国人に移行することを認めたのです。
こうして、優秀な技能実習生が、そのまま特定技能外国人として同じ企業で就労を継続し、日本で長期間の経験を積めるようになりました。
特定技能制度が創設され、技能実習生が特定技能外国人に移行する流れが定着することで、次第に、技能実習制度と特定技能制度の制度趣旨を異にする理由がなくなりつつありました。このような経緯のもとで、技能実習制度を廃止し、特定技能制度と親和性の高い「育成就労制度」が創設されることになったのです。
(3)技能実習制度の問題点
多くの方がご存じのとおり、技能実習制度は、「人権侵害の問題」が度々報道されてきました。令和5年の調査結果によれば、職場から失踪した技能実習生の数は9700人余りです。その背景には、技能実習生の転籍が大きく制限され、「逃げたくても逃げられない」事情がありました。
また、雇用主の側も、技能実習生を「人材」ではなく「見習い」のように扱う傾向があり、それゆえに人権侵害が横行している事情もありました。
(4)育成就労制度へのシフト
以上の背景のもとで、技能実習制度を廃止し、「育成就労制度」へのシフトすることになったのです。では、「技能実習制度」から「育成就労制度」にシフトすることで何が変わるのか、ご紹介します。
(a) 制度趣旨の見直し
技能実習制度は、「開発途上地域への技能・技術・知識の移転」(国際協力)を制度趣旨としていましたが、育成就労制度は、「相当程度の知識・経験を必要とする技能のある人材の育成」を制度趣旨としています。そして、技能実習制度では禁止されていた「労働力の需給調整の手段」としての制度活用が解禁されることになりました。
育成就労制度へのシフトにより、「実習生」ではなく、「労働力不足を補うための人材」として位置づけられることになりました。
(b) 特定技能制度と整合性のある制度へ
技能実習制度は、もともと特定技能制度とは異なる制度趣旨のものであったため、両者の整合性が不十分でした。
育成就労制度では、「相当程度の知識・経験を必要とする技能の習得」を目的とし、特定技能外国人への移行を前提とした制度へと改められました。
また、育成就労制度では、特定技能制度における特定産業分野の一部を「育成就労産業分野」として位置づけて、育成就労産業分野に該当する業種において人材受入れが可能な仕組みになっています。
そして、技能実習制度では、はじめの1年間とその後の2年間で異なる計画を作成する必要がありました。他方、育成就労制度では、この点を改めて、3年間の計画を作成することができるようになりました。それにより、特定技能外国人への移行も見据えたうえで、長期的な人材育成のプランを策定することができるようになりました。
(c) 育成就労外国人の希望による転籍を認める制度へ
技能実習制度では、技能実習生の希望による転籍が大きく制限されていました。育成就労制度においては、この点が改められて、育成就労外国人からの希望による転籍を(一定の制限はありますが)認めるようになりました。また、外国人育成就労機構(現外国人技能実習機構)が職業紹介その他の援助を行う仕組みも導入されました。
(d) その他
その他、現地の送出機関への支払費用の額が適正であることが要件とされたり、一部の産業分野において労働者派遣が認められるようになったりと、細かい見直しがありました。
4. 特定技能制度と育成就労制度
育成就労制度の創設によって、特定技能外国人の受入れに2つのルートが生まれました。第1に、(従来どおり)国外から即戦力になる人材を招くルートです。第2に、育成就労制度のもとで人材育成をしたうえで、特定技能外国人に移行するルートです。
技能実習制度のもとでも、技能実習生から特定技能外国人への移行は認められていましたが、育成就労制度へのシフトにより、このようなルートが確立されることになります。
5. 外国人材活用の今後
今後、外国人材活用の流れは、大きく加速していくことが予想されます。深刻な人材不足の問題を解消するための選択肢の1つとして、ぜひ、外国人材活用をご検討ください。
当事務所では、特定技能制度や育成就労制度に限らず、外国人材活用に関する法的アドバイスをご提供しています。
初めてのご相談は無料(60分まで)です。外国人材活用に関する法的問題でお困りの際は、ぜひ当事務所にお問い合わせください。