コラム

フリーランス保護法の概要を弁護士が解説

※このコラムは、2023年5月現在の情報に基づいて執筆しております。最新の情報は、公的機関のサイトをご確認ください。

1 フリーランス保護法の成立

2023年4月28日に、フリーランスを保護するための法律「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」が成立しました。いわゆる「フリーランス保護法」と呼ばれるものです。

これまでも、フリーランスの働き方は、独禁法や下請法によって法的に保護されてはいましたが、独禁法については適用のしづらさが、下請法については適用範囲の限定や実効性の限界が、それぞれ課題となっていました。フリーランス保護法は、これらの課題を踏まえて、フリーランスに対する保護を強化した法律です。

また、フリーランス保護法には、労働法に類似した考え方も一部採り入れられています。

今回は、フリーランス保護法の概要について、ご紹介します。

2 フリーランス保護法の適用範囲は?

特定受託事業者

フリーランス保護法で保護されるのは、「特定受託事業者」に該当する方です。
特定受託事業者とは、次のいずれかに該当する方を指します。

(1) 従業員を使用しない個人
(2) 代表者以外に役員がなく、従業員も使用しない法人

要するに、一般に「フリーランス」とイメージされる方は、おおむね特定受託事業者に該当します。

適用対象となる業務委託

フリーランス保護法で保護されるのは、特定受託事業者が受託する業務のうち、次のいずれかに該当するものです。

(1) 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造加工や情報成果物の作成を委託するもの
( 情報成果物 = プログラム、映像・音声・文章等のコンテンツ )
(2) 事業者がその事業のために他の事業者に役務(サービス)の提供を委託するもの

システムエンジニア、デザイナー、ライター、コンサルタントなど、IT関連業界のフリーランスは、おおむね適用対象になります。

3 どのようなルールができるのか?

契約内容を明示することが義務化

特定受託事業者への業務委託の際には、どのような仕事をするか、報酬はどのように設定するか、その支払期限はいつかといった契約内容を、書面やデータで明示することが義務づけられます。詳細なルールは、公正取引委員会規則で定められる予定です。

これまでも、下請法が適用される場面では、契約内容を明示した書面の交付が義務づけられていました。ただし、下請法は、発注者が小規模な場合に不適用になるため、適用されるケースが限定されていました。フリーランス保護法では、発注者の規模にかかわらず、フリーランスの方が保護されることになります。

報酬の支払期日がルール化

特定受託事業者への業務委託の際には、報酬の支払期日を、成果物の受領日から60日以内、かつ、できる限り短い日数に設定しなければならないことが義務づけられます。

ただし、他の事業者(元委託者)からの受注案件の再委託に該当するケースでは、報酬の支払期日は、元委託者の報酬支払期日から起算して30日以内、かつ、できる限り短い日数に設定することができます。
※元委託者の氏名・名称や、再委託であること、元委託者からの報酬の支払期日などが、きちんと特定受託事業者に明示されていたことが条件になります。

このうち、「報酬の支払期日を、成果物の受領日から60日以内、かつ、できる限り短い日数に設定しなければならない」というルールは、下請法の考え方を採り入れたものです。

取引の適正化に関する禁止事項のルール化

特定受託事業者への業務委託の際には、次のことが禁止されています。

(1) 本人の責めに帰すべき事由がないのに、成果物の受領を拒むこと
(2) 責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること
(3) 責めに帰すべき事由がないのに、成果物を受領した後にそれを引き取らせること
(4) 同種・類似の成果物に対して通常支払われる対価と比べて著しく低い報酬の額を不当に定めること
(5) 正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制購入させたり、サービスを強制利用させること
(6) 経済上の利益の提供や、給付内容の変更・やり直しによって、本人の利益を不当に害すること

これらの禁止事項は、下請法や独禁法の優越的地位濫用規制の考え方を踏襲したものです。下請法や独禁法について、詳しくは、「ITフリーランスのために下請法・優越的地位濫用規制を事例で解説」のコラムをお読みください。

フリーランス保護法と独禁法の優越的地位濫用規制を比較した場合、フリーランス保護法のほうが、具体的に禁止事項が明示されており、違反行為に対して適用しやすいメリットがあります。また、フリーランス保護法と下請法を比較した場合、フリーランス保護法のほうが、適用範囲が広く(発注者の事業規模にかかわらず適用される)、一部について公正取引委員会の命令を認めて実効性を高めている違いがあります。

募集情報の的確な表示が義務化

特定受託事業者の募集情報について、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示が禁止され、提供する情報について正確かつ最新の内容に保たなければならないことが義務づけられています。これは、職業安定法の考え方に近いものです。

妊娠・出産・育児・介護への配慮やハラスメント対応の義務化

特定受託事業者への発注を一定期間以上継続的に行う場合には、特定受託事業者(法人の場合はその代表者)が妊娠・出産・育児・介護と仕事を両立するための配慮をすることが発注者に義務づけられます。

また、発注者は、特定受託事業者(法人の場合はその代表者)がハラスメントによって就業環境を害されることがないように、本人からの相談に応じて適切な措置を講じることが義務づけられます。

これらは、労働法の分野における育児介護休業制度やハラスメントに関する制度を踏まえたものです。

解除の予告義務

特定受託事業者への発注を一定期間以上継続的に行う場合は、契約解除の際に、原則として、30日前までに予告をすることが義務づけられます。この場合において、特定受託事業者は、発注者に、契約解除の理由を開示するように請求することができるようになります。

これは、労働基準法の解雇予告の考え方に近いルールを採り入れたものです。

契約解除の理由の開示が義務づけられたことで、不当な契約解除を受けた場合に違法性を主張しやすくなります。
(たとえ開示を拒否されたとしても、その事実自体が不当な契約解除の疑いを強める理由となりますので、開示義務がない場合よりも違法性を主張しやすくなると考えられます。)

4 違反があった場合はどうなるのか?

取引の適正化に関するルールへの違反があったとき

特定受託事業者は、契約内容の明示、報酬の支払期日、取引の適正化に関する禁止事項のルールに発注者が違反した場合は、公正取引委員会や中小企業庁長官に対して適当な措置を求めることができます。公正取引委員会は、(対象外のものもありますが)違反行為に対して必要な勧告をすることができ、正当な理由なく勧告に従わない発注者に対しては、命令・公表をすることができます。命令違反に対しては、刑事罰(50万円以下の罰金)が課せられます。

勧告に従わない者に対する罰則付きの命令が認めている点は、このようなルールのない下請法とは異なっています。フリーランス保護法は、下請法よりも実効性を高めるような制度設計になっています。

職場環境に関するルールへの違反があったとき

特定受託事業者は、募集情報の的確な表示、妊娠・出産・育児・介護への配慮やハラスメント対応、解除の予告に関する禁止事項のルールに発注者が違反した場合は、厚生労働大臣に対して適当な措置を求めることができます。

妊娠・出産・育児・介護への配慮義務以外のルールへの違反について、厚生労働大臣は、必要な勧告をすることができます。また、ハラスメント対応の義務違反を除いて、正当な理由なく勧告に従わない発注者に対しては、命令・公表をすることができます。命令違反に対しては、刑事罰(50万円以下の罰金)が課せられます。

なお、フリーランス保護法23条では、厚生労働大臣の権限の一部を都道府県労働局長に委任する旨が定められていますので、おそらく、都道府県労働局に相談窓口が設置されるのではないかと思われます。

妊娠・出産・育児・介護への配慮やハラスメント対応の義務違反については、命令による強制手段はありません。もっとも、これらの義務違反があった場合には、フリーランス保護法の存在を根拠に、発注者に対して不法行為責任や債務不履行責任を問いやすくなるものと考えられます。

5 フリーランス保護法はフリーランスの働き方を変えるか?

フリーランス保護法によってフリーランスがどこまで救済されるようになるかは、公正取引委員会や厚生労働省が、フリーランス保護に対して今後どれほど熱心に取り組むかによって変わってくると思います。

フリーランス保護法21条では、「国は・・・特定受託事業者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずるものとする」と定められています。今後、この規定を受けて、フリーランスの相談を受け付ける窓口が設置されると思われます。その窓口がフリーランスにとってどれほど使いやすいものになるかで、フリーランス保護法が成功するか失敗するかが大きく左右されると思います。

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