Zoom営業と「電話勧誘販売」
オンラインサービスの発展とともに、営業活動にZoomを利用するケースが増えています。Zoomによる営業活動は、自宅やカフェ、シェアオフィスなど様々な場所で行えるため、大変便利なものです。
ただ、実践しているZoom営業が特商法の「電話勧誘販売」に該当するかどうかをきちんと理解していないと、特商法違反に問われて、顧客とのトラブルに発展してしまうおそれがあります。
Zoom営業を利用したビジネスを展開されようとする際には、ぜひこちらのコラムをお読みください。
「電話勧誘販売」の特商法規制とは?
特商法(特定商取引に関する法律)とは、訪問販売や、モニター商法、マルチ商法など、当事者間でのトラブルの多い類型の取引について、様々な規制を設けた法律です。その規制対象の一類型が、「電話勧誘販売」です。
電話勧誘販売は、相手に電話をかけたり、あるいは、電話をかけさせたりして契約締結の勧誘をする類型です。電話勧誘販売については、長時間あるいは強引な勧誘や執拗な架電などによるトラブルの多さから、特商法において規制対象となっています。
電話勧誘販売に対する規制には、例えば、次のようなものがあります。
1.書面交付義務
電話勧誘販売の場合は、顧客から申込みを受けた段階と、契約締結に至った段階とで、それぞれ、申込書面(申込内容を記載した書面)・契約書面(契約内容を記載した書面)を交付しなければなりません(特商法18条・19条)。
※顧客から申込みを受けた際に契約締結した場合には、契約書面のみを交付すれば足ります。
申込書面や契約書面に記載しなければならない事項は、特商法で定められています。電話勧誘販売に該当する場合には、記載すべき項目を漏れなく盛り込んだ書面を用意しなければなりません。
なお、特商法改正により、申込書面や契約書面を電子データで交付することができるようになりました。ただし、電子データで交付する場合には様々なルールがありますので、注意が必要です。詳しくは、オンライン学習塾の特商法対応について弁護士が解説「第5章 概要書面や契約書面をオンラインで交付する手続(特定継続的役務提供)」をご参照ください。
2.クーリング・オフ
申込書面・契約書面を顧客が受領してから8日以内について、クーリング・オフを認めなければなりません。顧客がクーリング・オフを行使すると、申込みや契約の効力がなくなり、すでに受領している金銭を返還しなければならなくなります。
Zoom営業の「電話勧誘販売」規制に関するポイント
1.オンライン会議ツールも「電話」に該当する
ZoomやSkype、LINE通話なども、通信回線によって音声を伝送する機能があることから、特商法上「電話」として扱われます。
「電話勧誘販売」には、2つのパターンがあります。
1つは、「事業者側から電話をかける」パターンです。もう1つは、「顧客側から電話をかける」パターンです。
「事業者側から電話をかける」パターンはすべて「電話勧誘販売」に該当しますが、「顧客側から電話をかける」パターンであれば、次のいずれかの場合に限って「電話勧誘販売」に該当するものとされます。
a) 契約締結の勧誘をするものであることを告げずに架電を要請した場合
b) 他者よりも著しく有利な条件で契約締結ができることを告げて架電を要請した場合
2.Zoom営業は「事業者側からかける」「顧客側からかける」のどちらか?
では、Zoom営業は、「事業者側からかける」「顧客側からかける」のいずれのパターンに該当するのでしょうか。この点については、大変難しい問題があります。
消費者庁の「特定商取引法ガイド」「電話勧誘販売の解釈に関するQ&A」では、Web会議ツールにおいて事業者がURLを送った場合には「事業者側からかける」に該当するとの見解が示されています。ただ、Zoom営業について一律に「事業者側からかける」に該当すると考えることには、疑問があります。
Zoomは、あらかじめ当事者双方が調整を行ってミーティング日時を決めることが通常で、かつ、実際にミーティングに参加するために当事者双方の入室が必要になります。一方的に時間を選ばず相手を呼び出すことのできる本来の電話とは、全く性質が異なります。Zoomは、(このような性質上)顧客側に連絡するかどうかの自由が委ねられる点で、「事業者側からかける」よりも「顧客側からかける」のほうに近い性質があると考えるほうが、合理的なように思います。
あくまでも私見ではありますが、Zoomについては、「事業者側からかける」ではなく、「顧客側からかける」に該当することを前提に整理することが妥当ではないかと思います。
ただし、事業者側から「URLを送るのですぐにクリックしてください」と告げて、顧客側に諾否の自由を与えないような勧誘手法を採った場合は、「顧客側からかける」よりも、「事業者側からかける」に近いものと思われます。このようなケースについては、「事業者側からかける」に近いものとして、例外なく電話勧誘販売に該当するものと評価されるのではないかと思います。
3.Zoom営業が電話勧誘販売に該当するケース
以上の整理を踏まえると、Zoom営業が電話勧誘販売に該当するのは、次の3パターンです。
a) 契約締結の勧誘をするものであることを告げずにZoomでのミーティング調整を依頼した場合
b) 他者よりも著しく有利な条件で契約締結ができることを告げてZoomでのミーティング調整を依頼した場合
c) 「ZoomのURLを送るのですぐクリックしてください」と求めるなど、顧客側に諾否の自由を与えないような手法でZoomでのミーティングを依頼した場合
裏を返せば、Zoom営業が電話勧誘販売に該当しないことを説明するためには、次の3点に留意しなければなりません。
a) 契約内容について説明するためのミーティングであることを、あらかじめ明確に伝えること
b) 「今ならお得に契約ができます」「特別キャンペーン中です」など他者よりも著しく有利な条件で契約ができるように思わせるような説明は一切しないこと
c) 顧客側が自発的・積極的にZoomでのミーティングを承諾するような営業手法を心がけること
4.BtoBのZoom営業で特商法が適用されるケースも
特商法は、顧客側が営業活動に関連して行う取引について不適用とされています(特商法26条1項1号)。例えば、ビジネスチャットツールを、営業活動にチャットを活用しようとする事業者に販売する場合に、特商法は適用されません。
ただし、BtoB(事業者間)に特商法は一切適用されないということではありません。たとえBtoB(事業者間)の取引であっても、取引対象がその顧客の営業活動と関連の薄いものである場合には、特商法が適用されるケースがあります。
例えば、裁判例では、事業の規模・内容から考えてビジネスフォンを必要とする状況にない事業者へのビジネスフォンの販売に特商法の適用を認めたケース(名古屋高判平成19年11月19日)や、自動車販売業を営む事業者に対する消火器の販売に特商法の適用を認めたケース(大阪高判平成15年7月30日)があります。
「BtoBのサービスだから特商法は適用されない」と安易に考えないように、注意が必要です。
どのような営業手法を採用することが最善策か?
どのような営業手法を採用するかについては、(1)「電話勧誘販売」に該当することを前提に特商法対応を行うアプローチと、(2)「電話勧誘販売」に該当しないように営業戦略を考えるアプローチと、2つの方向性があります。法務対応の負担を伴うマイナス面と、営業戦略が制約されるマイナス面と、いずれを選択すべきかはケースバイケースです。
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