コラム

テレワークモデル就業規則のポイントを弁護士が解説

第2章 テレワークモデル就業規則

厚生労働省は、モデル「テレワーク就業規則」(在宅勤務規程、以下「モデル規則」といいます。)を公開しています。このコラムでは、こちらのモデル就業規則を逐条的に取り上げたうえで、それぞれのポイントを解説しています。

1 総則(モデル規則第1章)

(在宅勤務制度の目的)
第1条 この規程は、〇〇株式会社(以下「会社」という。)の就業規則第〇条に基づき、従業員が在宅で勤務する場合の必要な事項について定めたものである。

モデル規則は、就業規則とは別に、テレワーク勤務に関連する部分を独立させた規程を設けることを想定しています。就業規則の中にテレワーク勤務に関連する規定を追加する形式でも差し支えはありません。

テレワーク勤務に関連する部分を独立させた規程が、就業規則と一体をなすものであることを明らかにするために、就業規則第〇条に「従業員のテレワーク勤務に関する事項については、この規則に定めるもののほか別に定めるところによる。」といった規定を置いてください。

(在宅勤務の定義)
第2条 在宅勤務とは、従業員の自宅、その他自宅に準じる場所(会社指定の場所に限る。)において情報通信機器を利用した業務をいう。
※サテライトオフィス勤務やモバイル勤務の定義規定は、このコラムでは取り上げません。

厚生労働省の説明によれば、「自宅に準じる場所」とは、従業員が親の介護を行っている場合における親の家などが想定されています。

モデル規則では、「自宅に準じる場所」は、「会社指定の場所に限る」とされていますが、これは、図書館やカフェなどの自由に人が行き来する場所での業務のように、情報セキュリティの観点から勤務場所として不適切な場所を会社の判断で除外する意味があると考えられます。会社が指定しうる場所については、あらかじめ情報セキュリティの観点から一定のルールを設けておくことが、望ましい対応です。

2 在宅勤務の許可(モデル規則第2章)

(在宅勤務の対象者)
第3条 在宅勤務の対象者は、就業規則第〇条に規定する従業員であって次の各号の条件を全て満たした者とする。
(1)在宅勤務を希望する者
(2)自宅の執務環境、セキュリティ環境、家族の理解のいずれも適正と認められる者
2 在宅勤務を希望する者は、所定の許可申請書に必要事項を記入の上、1週間前までに所属長から許可を受けなければならない。
3 会社は、業務上その他の事由により、前項による在宅勤務の許可を取り消すことがある。
4 第2項により在宅勤務の許可を受けた者が在宅勤務を行う場合は、前日までに所属長へ利用を届け出ること。

モデル規則では、在宅勤務の対象者について、明文規定を置いています。また、在宅勤務を認めるための前提条件について、「自宅の執務環境」「セキュリティ環境」「家族の理解」のいずれも適正と認められることを要件としています。規程の中でより詳細な前提条件を定めることも考えられますが、あまり具体的な条件を明示すると、会社側の判断が硬直的になって柔軟に個別具体的な判断をすることができなくなりますので、モデル規則のような抽象的な定め方が望ましいものと思われます。なお、「セキュリティ環境」については、あらかじめ情報セキュリティの観点から一定のルールを設けておくことが、望ましい対応です。

モデル規則では、「勤務1年以上の者でかつ自宅での業務が円滑に遂行できると認められる者」に対象者を限定する例も示されていますが、感染症や災害の発生に備えてテレワークを導入するのであれば、勤務年数による限定を加えることは望ましくないものと思われます。勤務年数による限定条項があると、例えば、新入社員についてはOJTで実践力を養わせたいようなケースにおいて、支障になってしまいます。

また、モデル規則では、「1週間前までに所属長から許可を受けなければならない」ことを定めていますが、このままでは災害の発生などの緊急事態下でのテレワークに対応しづらいことから、期間制限をより短くするか、会社の判断で期間制限を短くすることができるようにすることが望ましいです。

なお、テレワークでの勤務を、感染症や災害の発生のような緊急事態や、育児・介護・本人の傷病による出勤困難に対応する場合に限定することも考えられます。

また、対象者を、あらかじめ会社が指定した部署・役職によって限定することも考えられますが、従業員間の不公平が生じないように(必ずしも不公平が生じること自体は違法ではありませんが、労務管理の観点から、従業員の不満につながるルールは望ましくないです。)、合理的理由のある範囲にとどめるべきです。

いったん全従業員にテレワーク勤務を認めたにもかかわらず、後になって不都合が生じたことを理由に対象者を限定すると、就業規則の違法な不利益変更に該当するおそれがあります。ですから、はじめに規程を制定する際に、どこまでを対象者とすべきかについては、よく検討しておくべきです。

(在宅勤務時の服務規律)
第4条 在宅勤務に従事する者(以下「在宅勤務者」という。)は、就業規則第〇条及びセキュリティガイドラインに定めるもののほか、次に定める事項を遵守しなければならない。
(1)在宅勤務の際に所定の手続に従って持ち出した会社の情報及び作成した成果物を第三者が閲覧、コピー等しないよう最大の注意を払うこと。
(2)在宅勤務中は業務に専念すること。
(3)第1号に定める情報及び成果物は紛失、毀損しないように丁寧に取扱い、セキュリティガイドラインに準じた確実な方法で保管・管理しなければならないこと。
(4)在宅勤務中は自宅以外の場所で業務を行ってはならないこと。
(5)在宅勤務の実施に当たっては、会社情報の取扱いに関し、セキュリティガイドライン及び関連規程類を遵守すること。

モデル規則第4条では、情報セキュリティに関する会社のルールや、業務専念義務に違反しないことを定めています。

「(4)在宅勤務中は自宅以外の場所で業務を行ってはならないこと。」については、第2条と整合させるのであれば、「(4)在宅勤務中は自宅(会社が自宅に準じる場所を指定した場合は、その場所を含むものとする。)以外の場所で業務を行ってはならないこと。」といった規定にすべきです。

また、モデル規則では、「セキュリティガイドライン及び関連規程類を遵守すること」がルールとして明示されていますが、この点について補足します。規程の検討に当たっては、あわせてテレワークの情報セキュリティに関連した遵守事項を明文化したうえで、その遵守事項に違反した場合には懲戒処分の対象になる旨を明示しておかなければ、遵守事項を守らない従業員に対する実効的な制裁ができません。テレワークの情報セキュリティに関連した遵守事項を、従業員に対して就業規則と同様に周知しておく対応も必要です。モデル規則をそのまま使用すると、このような観点から不十分な規程になってしまうように思われますので、工夫が必要です。

なお、テレワークの情報セキュリティに関連した遵守事項を策定する際には、総務省のテレワークセキュリティガイドラインが参考になります。ただし、Web会議ツールの脆弱性など、最近になってテレワークに関連した技術の新たな情報セキュリティ上の問題も発生していますので、IPAの最新の周知情報などもあわせて参考にすべきです。

3 在宅勤務時の労働時間等(モデル規則第3章)

(在宅勤務時の労働時間)
第5条 在宅勤務時の労働時間については、就業規則第〇条の定めるところによる。
2 前項にかかわらず、会社の承認を受けて始業時刻、終業時刻及び休憩時間の変更をすることができる。
3 前項の規定により所定労働時間が短くなる者の給与については、育児・介護休業規程第〇条に規定する勤務短縮措置時の給与の取扱いに準じる。

モデル規則では、オフィス勤務とテレワーク勤務とで労働時間の取扱いに差を設けないことを前提にしつつ、会社の承認を前提として所定労働時間の変更を認めています。

ただ、従業員の業務状況を随時把握することができる勤怠管理ツール(従業員のPC画面を定期的にキャプチャするツールや、キーボード・マウスの使用状況を記録するツール)を導入しているケースや、従業員間で随時コミュニケーションをとることが予定された業務であるケースを除けば、多くの場合、テレワークにおいて正確に1人1人の労働時間を把握することには限界があります。特に、テレワークにおいては、従業員が途中で机を離れる「中抜け時間」を正確に考慮することが難しいです。

そこで、テレワークにおいては、事業場外みなし労働時間制を採用するほうが企業側の便宜にかなうケースが多いものと思われます。参考として、「テレワークモデル就業規則作成の手引き」に示される事業場外みなし労働制の規定例(抜粋)を掲載します。

第5条の2 在宅勤務時の始業時刻、終業時刻及び休憩時間については、就業規則第〇条の定めるところによる。
2 前項にかかわらず、在宅勤務を行う者が次の各号に該当する場合であって会社が必要と認めた場合は、就業規則第〇条を適用し、第〇条に定める所定労働時間の労働をしたものとみなす。この場合、労働条件通知書等の書面により明示する。
(1)従業員の自宅で業務に従事していること。
(2)会社と在宅勤務者間の情報通信機器の接続は在宅勤務者に任せていること。
(3)在宅勤務者の業務が常に所属長から随時指示命令を受けなければ遂行できない業務でないこと。・・・

なお、事業場外みなし労働制を導入する際には、労使協定を締結しなければならないケースがありますし、そもそもケースによっては事業場外みなし労働制を導入することができないこともありますので、導入に際しては、弁護士などの専門家の助言をあらかじめ得ておくことが望ましいです。

(休憩時間)
第6条 在宅勤務者の休憩時間については、就業規則第〇条の定めるところによる。

テレワークにおいては途中で机を離れる「中抜け時間」を適宜従業員がとることもありますが、そのような短時間の休息を各従業員が取っていたとしても、それによって労働から離れることが保障されていたとまではいえません。ですから、テレワークでも、所定の時間について、休憩時間を付与しなければなりません。

なお、労使協定を締結して、テレワークについては異なる休憩時間を定めることも考えられます。

(所定休日)
第7条 在宅勤務者の休日については、就業規則第〇条の定めるところによる。

所定休日については、通常は、オフィス勤務とテレワークとで特に区別する必要はないと思われます。

(時間外及び休日労働等)
第8条 在宅勤務者が時間外労働、休日労働及び深夜労働をする場合は所定の手続を経て所属長の許可を受けなければならない。
2 時間外及び休日労働について必要な事項は就業規則第〇条の定めるところによる。
3 時間外、休日及び深夜の労働については、給与規程に基づき、時間外勤務手当、休日手当及び深夜勤務手当を支給する。

時間外・休日・深夜労働の取扱いは、通常は、オフィス勤務とテレワークとで特に区別する必要はないと思われます。なお、事業場外みなし労働制を導入する場合でも、時間外・休日・深夜労働の取扱いについては別途規定を設けなければなりません。

(欠勤等)
第9条 在宅勤務者が、欠勤をし、又は勤務時間中に私用のために勤務を一部中断する場合は、事前に申し出て許可を得なくてはならない。ただし、やむを得ない事情で事前に申し出ることができなかった場合は、事後速やかに届け出なければならない。
2 前項の欠勤、私用外出の賃金については給与規程第〇条の定めるところによる。

欠勤等の取扱いは、通常は、オフィス勤務とテレワークとで特に区別する必要はないと思われます。

4 在宅勤務時の勤務等(モデル規則第4章)

(業務の開始及び終了の報告)
第10条 在宅勤務者は就業規則第〇条の規定にかかわらず、勤務の開始及び終了について次のいずれかの方法により報告しなければならない。
(1)電話
(2)電子メール
(3)勤怠管理ツール

従業員数が多い場合には、労務管理の効率化のために、勤怠管理ツールを導入することが望ましいです。また、勤怠管理ツールの中には、従業員のPC画面を定期的にキャプチャするツールや、キーボード・マウスの使用状況を記録するツールなど、従業員の労働時間を正確に把握しやすいツールがありますので、必要に応じて、そのような高機能なツールの導入を検討することが望ましいです。

(業務報告)
第11条 在宅勤務者は、定期的又は必要に応じて、電話又は電子メール等で所属長に対し、所要の業務報告をしなければならない。

効率的な労務管理の観点からは、勤務の開始・終了の報告方法と同様に、勤怠管理ツールを導入することが望ましいです。

(在宅勤務時の連絡体制)
第12条 在宅勤務時における連絡体制は次のとおりとする。
(1)事故・トラブル発生時には所属長に連絡すること。なお、所属長が不在時の場合は所属長が指名した代理の者に連絡すること。
(2)前号の所属長又は代理の者に連絡がとれない場合は、〇〇課担当まで連絡すること。
(3)社内における従業員への緊急連絡事項が生じた場合、在宅勤務者へは所属長が連絡をすること。なお、在宅勤務者は不測の事態が生じた場合に確実に連絡がとれる方法をあらかじめ所属長に連絡しておくこと。
(4)情報通信機器に不具合が生じ、緊急を要する場合は〇〇課へ連絡をとり指示を受けること。なお、〇〇課へ連絡する暇がないときは会社と契約しているサポート会社へ連絡すること。いずれの場合においても事後速やかに所属長に報告すること。
(5)前各号以外の緊急連絡の必要が生じた場合は、前各号に準じて判断し対応すること。
2 社内報、部署内回覧物であらかじめランク付けされた重要度に応じ至急でないものは在宅勤務者の個人メール箱に入れ、重要と思われるものは電子メール等で在宅勤務者へ連絡すること。なお、情報連絡の担当者はあらかじめ部署内で決めておくこと。

会社の実情に応じて、効率的な連絡方法・連絡体制を検討することが望ましいです。

5 在宅勤務時の給与等(モデル規則第5章)

(給与)
第13条 在宅勤務時の給与については、就業規則第〇条の定めるところによる。
2 前項の規定にかかわらず、在宅勤務(在宅勤務を終日行った場合に限る。)が週に4日以上の場合の通勤手当については、毎月定額の通勤手当は支給せず実際に通勤に要する往復運賃の実費を給与支給日に支給するものとする。

テレワークについて通勤手当の取扱いを変更することは、就業規則の不利益変更に該当しますので、合理的な範囲を超えないように留意する必要があります。

例えば、オフィス勤務を主に利用しつつ、適宜テレワークを併用する従業員に対して、通勤定期券相当額よりも低額の通勤手当しか支払わない取扱い(もともとすべての従業員に対して通勤定期券相当額の通勤手当を支払っていた場合を想定しています。)は、就業規則の違法な不利益変更に該当するおそれがあります。

(費用の負担)
第14条 会社が貸与する情報通信機器を利用する場合の通信費は会社負担とする。
2 在宅勤務に伴って発生する水道光熱費は在宅勤務者の負担とする。
3 業務に必要な郵送費、事務用品費、消耗品費その他会社が認めた費用は会社負担とする。
4 その他の費用については在宅勤務者の負担とする。

労使間のトラブルを防ぐためには、モデル規則のように、想定される費用の負担者を明示しておくことが望ましいです。特に、従業員にPCやタブレットなどを自費で用意させるのであれば、必ずその旨の規定を盛り込まなければなりません(労働基準法89条5号)。

(情報通信機器・ソフトウェア等の貸与等)
第15条 会社は、在宅勤務者が業務に必要とするパソコン、プリンタ等の情報通信機器、ソフトウェア及びこれらに類する物を貸与する。なお、当該パソコンに会社の許可を受けずにソフトウェアをインストールしてはならない。
2 会社は、在宅勤務者が所有する機器を利用させることができる。この場合、セキュリティガイドラインを満たした場合に限るものとし、費用については話し合いの上決定するものとする。

情報セキュリティについては、第4条において詳しく説明しました。特に、デバイスを貸与するケースではなく、自己所有のデバイスを使用させる場合には、情報セキュリティについて詳細なルールを定めておくべきです。

(教育訓練)
第16条 会社は、在宅勤務者に対して、業務に必要な知識、技能を高め、資質の向上を図るため、必要な教育訓練を行う。
2 在宅勤務者は、会社から教育訓練を受講するよう指示された場合には、特段の事由がない限り指示された教育訓練を受けなければならない。
(災害補償)
第17条 在宅勤務者が自宅での業務中に災害に遭ったときは、就業規則第条の定めるところによる。
(安全衛生)
第18条 会社は、在宅勤務者の安全衛生の確保及び改善を図るため必要な措置を講ずる。
2 在宅勤務者は、安全衛生に関する法令等を守り、会社と協力して労働災害の防止に努めなければならない。

教育訓練・災害補償・安全衛生については、オフィス勤務の場合と同様の取扱いにすべきです。

自宅での勤務中に発生した傷病でも、業務災害に該当しうることに留意すべきです。また、PCなどで作業する場合の休息時間の確保については、テレワークにおいては従業員の自己管理に委ねざるを得ませんので、企業として積極的に指導することに努めるべきです。

第3章 おわりに

今回のコラムでは、厚生労働省のテレワークモデル就業規則をもとに、テレワークを導入するために最低限必要な就業規則の整備について説明しました。

もっとも、実際には、会社の実情に応じて独自の制度を設ける工夫も必要です。

当事務所では、テレワークを導入するために必要な就業規則や情報セキュリティ関連規程の整備について、弁護士によるサポートをご提供しています。働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)を活用することで、ご依頼いただいた場合のコストを抑えることもできますので、このような問題にお困りの方は、こちらのページをご覧ください。 

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